【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

輝石玲

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まじか攫われた!?

40.クーターとメリスト(ガレアン)

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 ミツルに俺が突き止めた情報を伝えると、案の定驚き戸惑っていた。無理もないし分かりきっていたことだ。それでも、奴が絡んでくるとなると何も教えない訳にはいかない。
 ………コウセイは、この世界で十年前に起こったことが物語になっていると言っていた。俺が物語に出てきたなら、俺と自分を攫った奴の関係も知っているだろう。



 叶うのであれば語りたくは無かった。誰にも、リリスや俺を救ってくれたやつらにも教えていない、クーターにいた時の俺のこと。

「………なぁ、クーターを知ってるか?」
「いえ、初めて聞きました…」
「クーターはグタールって魔法生物を中心にこの世界を壊そうとした連中で、十年前、俺もその一員だった」

 簡単にクーターの事を説明した。
 グタールという魔法生物を神と崇める集団であるクーターが、グタールの意思に従って世界を壊そうとしたこと。そのために奴らは世界を守る属石ぞくせきを破壊して回ったこと。それをレティの孤児院にいた四人のガキが阻止したこと。
 そして、俺もレティの遺跡にあった風の属石を壊したこと。

「俺がクーターに入った経緯ってのが、俺の兄貴に関わってくる。クーターの活動が活発になり始めた頃、俺は偶然にも奴らに遭遇しちまった。口封じに殺されそうになったところを兄貴…メリストが止め、俺を洗脳して使い捨ての戦力にしたんだ」
「あ……………」
「悪いな、こんな話しちまって。でも、俺もメリストの事はあんま知らねぇんだ。知ってるのは俺がクーターだった頃に見たあいつだけ」

 あいつが俺を攫ったあの日まで、俺は母から聞いた兄貴の名前しか知らなかった。その程度しか知らない俺が話せることなんか多くはない。俺自身もメリストについて知る事は無いに等しい。
 だが、もはや無関係じゃないこいつには、俺の見たあいつを教えるしか無い。




 思い出そうとすればすぐに鮮明に思い出す、俺が完全に狂った十年前のこと。

「攫われてすぐは洗脳はされなかった。つか、俺が反抗しまくったから出来なかった。クーターが恐ろしい組織だってのは知ってたし、その一員が実は俺の腹違いの兄でした、なんて言われても情も何も感じなかった。ただ俺の敵としか、思わなかった」

 腹違いの兄がいる事は知っていた。だがそいつは俺と二十以上も歳が離れてたから興味無かった。
 親父がどっかの富豪で、妻子が居ながらまだ若かった俺の母に目を付けたらしい。メリストは嫡男で俺は愛人の子だ。メリストより、母の方が俺と歳が近かった。

「俺は物心つく前には母と二人で暮らしていた。富豪だった父親が突然死んで、メリストの母親は後を追うように死んでたらしい。そしてメリストは行方不明に。だが、十年前にあいつは自分から言ってきたんだ。「両親を殺したのは自分だ」と」

 母がメリストの事を語りたがらないのも納得した。母は俺が十になる前に病死したが、それでも兄の事を聞いておけば、とはならなかった。何か隠す意味があるのだろうと思っていたから。
 親父のことは…心の底からどうでも良かった。むしろ嫌いで、死んだ後も憎しみは消えなかった。母の病気は若くに俺を産んだ後遺症のようなものだったから。

「親殺しを明かされたところで恐怖より警戒心が勝った俺に、メリストはとうとう変な薬を使って来やがった。それが……強制的に発情期を発生させる薬だった。まだ性に目覚めたばっかの俺はあいつの思惑通りに混乱して、何度も犯される度に心の隙を突かれて洗脳されちまった」

 洗脳されてる時のことは忘れることは無かった。自分の意識は残ってる癖に自由が効かなくなって、助けを求めようにも口も手も動かなかった。限界が来て泣きながら操られて無かったら、洗脳されてたなんて気付かれる事もなく死んでいたかも知れない。

「俺の洗脳が解けて孤児院に保護された後、あいつがどうなったのかは知らない。だが、今日仕入れた情報だとまだ生きていたらしい。今は闇社会で荒稼ぎしてるらしいが……ルートを誤魔化しもしねぇでアジトを隠しもしてねぇのは少しばかりきな臭いな」

 俺の知るあいつは、もっと慎重だったはずだ。目的のために手段を選ばなければ、咄嗟の判断力と理解力もあった。そんなやつがアジトを隠さねぇとなると、罠の可能性だってある。



 危険性はあるが、それが今ある情報だ。ノープランでここまでたどり着いただけまだ運がいい。

「ま、メリストってやつはそんな非人道なやつだから……コウセイは無事に生きてたらラッキーくらいに思わねぇと…メンタルが保たねぇよ………」
「そう…ですか………」

 見て分かるほど落ち込むミツル。
 俺だってあいつには無事でいて欲しい。だが、期待ばっかが高まって、後からやっぱり駄目でした、なんてなればダメージは大きくなる。結局は『きっと無事』なんて希望は無くて、『無事だったらいいな』程度の願望しか無い。




「あの………」

 落ち込んでいたはずのミツルが突然声を掛けてきた。流石に立ち直れないくらいショックを受けていると思ったから驚いた。

「ガルさん、僕に出来ることはありませんか?こう君のためでも、ガルさんのためでも」
「……お前さ、俺に迷惑掛けてるとか思ってるだろ。それで体売って旅の金稼ごうとしたろ?」

 ミツルは分かりやすく目を逸らして頷いた。だと思ったぜ…。っつーか、なんで身売りするなって言ったのか絶対に理解してねぇよな。これは……説教しねぇと繰り返すだろうよ。

「あのな、身売り自体は別に悪い事じゃねぇよ?それで稼いで生活してる奴もいる程度には一応『仕事』だからな。だが、お前は駄目だ。なんでか分かるか?」
「え、いえ……」
「お前が自分の身を守れねぇからだ。それと、お前の体も命もお前一人のものじゃねぇからだ。昨日は運が良かっただけ。運が悪けりゃあ死ぬか攫われて売り飛ばされるか、どっちかだ」
「じゃあ、どうすれば………!」

 こいつが本気だってのはひしひしと伝わってくる。だが、こんなとこでこいつに何かあってもコウセイを助けたところで、だ。あいつも心中しかねない…かも、知れねぇし。
 ようは危険が無くて、弟か俺のためになる事をさせりゃあいいんだろ?何か、何か………。

 ………あった。ひとつだけ…俺の罪悪感さえなんとかすれば、ミツルにさせてもいい事。

「……仕方ねぇな。いいか、必ず引き受けろって訳じゃ無ぇ。お前さえ良ければ、だ。しばらく俺に身売りする気はあるか?」
「え………?それって、ガルさんに抱かれるってことですか?」
「あぁ。さっき発情期の薬を使われたって言ったろ?あの後遺症で生殖本能が獣に近付きすぎてな。それで過去にやらかしたこともあるが……また同じミスをしないように発散する相手が欲しかったんだ。あぁ、お前には弟がいるから番うつもりはねぇよ」

 ……あ、これ、説明しない方が良かったか?ただ性欲の捌け口にさせてくれと言った方が断りやすかったろうな………。
 ミツルは迷う事なく了承しやがった。「今日はもう疲れたから」と先延ばしにしたが、この流れだと明日には確実に………。さ、最悪だ。一度ヤったことある相手とは言え、詐欺をしたような気分になる。

 あークソ、明日の夜までに覚悟決めておかねぇと。ってか、早く無事に見つかってくれコウセイ!俺を助けると思って!
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