【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

まじか攫われた！？

32.薬はまずいって！

　体中が痛いし動かない。とりあえず起きないと…起きる？俺、寝てたっけ。

　ガタンという音と同時に頭を強打し、唐突に目が覚めた。そういやなんかヤバい状況じゃなかったっけ！？

「あ？なんだ、もう気付いたのか」
「ん！ふーーっ！」

　って、喋れない！口になんか付けられてる！柔らかいロープみたいな何かを噛ませられてるみたいで、口が動かない。しかもこれ、口が開きっぱなしだから涎が垂れてべとべとだ。

「そう騒ぐな。助けなんて呼べねぇぜ？」

　助け…そうだ！ガルさんに通信……出来ない！？腕に付けてた水晶の通信器具が無くなってる……。まさか森に捨てられたか？短剣も没収されてるし、手足も縛られてるし逃げるのも無理だ。
　俺なんかを攫ってどうする気だ？どっかに売っぱらうつもりか？

「ん゛ーー！ん゛ーーーーー！！」
「っせえな、おい！もう先に打っちまおうぜ！」
「そうだな。とりあえず動けなくするか」

　え？何？何、打つって……。
　男達は何か小さな注射器を取り出した。あ、これダメなやつ。絶対ダメなやつ！違法なやつ！
　なんてバタバタすれば頭を地面に押さえつけられて首元がチクッとした。あぁ…なんか入れられてる…………。せめて体が痺れるとか眠くなるとかその程度であってくれ。依存性があったり自我を奪うようなものだったら取り返しがつかなくなる……




　…………

　……………っ！？


　はっ！？なに、何これ！体が熱い！喉が焼けそうで、体中殴られてるみたいに痛い！え、これ、死ぬ？死ぬタイプの薬！？

「おい、そんな効いてねぇぞ」
「一本打って意識があるとは、まさかとは思うがコレ使った事あるのか？」
「無い無い！こんなガキが簡単に手に入れられるシロモノじゃねぇだろ！」
「だよな、じゃあなんかしら耐性でもあんのか」

　なんかごちゃごちゃ言ってるけど何も分からん！


　あ、ダメだ、目の前が白飛びして、意識が消え………………










　……た。やばい、なんか寝落ちてたんだけど。しかもまだ体が熱いし……あ、でも風がひんやりして気持ちいい。
　でもここはどこだ？真っ暗で何も見えない。いや、暗いんじゃ無くて目隠しされてるのか。両手だけ縛られて、どこかの壁に吊るされてるみたいだ。

「さて、こいつどうする？」
「顔に傷ついちゃあいるが上物にゃ違いねぇ。傷痕を消して仕込みをすりゃあ高く売れるだろ」
「なんだ、売るのか？俺たちだけで楽しめばいいだろ。上物ならまた手に入る。金もまだあるだろ」

　顔に傷…俺のことか。
　これからどうなるかは気になるけど、傷痕を消すとか言うならバラバラにされて売られることは無さそうだ。殺す気が無いならまだ逃げるチャンスはある。

「ま、とりあえず仕込んでおくか」
「そうだ、あの部屋に連れて行こうぜ」
「あぁ、あの悪趣味な部屋か！ははっ、あんなん使い道なんてねぇだろとか思ってたが、やっと活用できそうだなぁ！」

『あの部屋』？いったい、どこに連れて行く気だ…？
　なんて疑問に思いながらも、手を縛るロープを引っ張られ、目隠しをしたまま歩いた。
　くそっ…この間に逃げられないか？いや、逃げたところで手枷を外せないなら目隠しも口枷も取れない。どこかの建物だろうけど、目を隠したまま逃げるなんて無理だ。まずい、逃げる算段がつかない。


　みつ兄…はダメだ。危なすぎて巻き込めない。ガルさん、助けて……







　ーーーーーガレアンーーーーー



　おかしい、あいつが帰ってこない。

　日が完全に落ちた頃にグローブは町に届いた。だが弟の方、コウセイがいなかった。業者に聞いてもそんなやつ知らないと言われた。
　あいつは強い。この辺のモンスターにやられるようなやつじゃ無いだろう。だとしたらモンスターの軍団に遭遇したか、人攫いにあったか、町から逃げたかのどれかだろうか。いや、兄を置いて逃げるやつじゃない。やっぱり事件性が高いな。
　モンスターの軍に遭遇したなら、それは森の異常事態。人攫いに遭ったなら裏社会の事案に巻き込まれた。

「ガルさん、こう君は……」
「これから探しに行く。お前は待ってろ」
「嫌です！僕も探します！」

　兄の方も厄介なことになってる。心配なのは分かるが、こんな夜に連れ出しても余計に面倒が起こるだけだ。……仕方ない。

「今夜、見つからなかったら明日の朝から行くぞ。心配なのは分かるが、今は念の為に準備しておけ」
「わ、分かりました。準備が無駄になるといいんですけど……」

　それはそうだ。モンスターの軍に襲われていれば命は無い。人攫いに遭っていればロクな目に遭っていないだろう。どこか、町のどこかに避難してるとかならいいが……




　俺も安全を願っていた。だが、少なくとも悪い方向に行ってることはコレで分かった。あいつに持たせた水晶通信機。それが町の外の馬車が通る道に落ちている。それもご丁寧に壊されて。間違い無く人の行いだ。あいつは…攫われた。


　これ以上は探れない。俺はすぐに施設に戻ってミツルの部屋に行った。

「ガルさん、早いですね。もしかしてこう君が……！」
「見つからなかった。更に言えば人攫いに遭った可能性がある。明日、日が登り始めたらすぐに出るぞ、準備しろ」

　一気に青ざめた兄の方。無理も無いが……今は捜索が最優先だ。


　俺も部屋に戻り遠出の支度をした。
　俺が拾ったガキだ。俺がちゃんと面倒を見るべきだったのにあいつの力を過信して一人にした。何をやってるんだ俺、いくら背格好が大人に近いとは言えあいつはまだ15だぞ……！？




　夜明けと共にミツルを連れて施設を出た。分かるのは向かった方角だけだが…何としても生きたまま連れ帰る。なんだったらついでに裏のやつを潰す。
　安全を考えるならミツルは置いていくべきだろうが、呪いの影響がある以上抑えられない。置いていけば一人で施設を出るだろう。

「ねぇ、ガルさん。万が一手遅れだったら…その時は僕を止めないでくださいね」
「その万が一がならないようにさっさと行くんだろ」

　片方が崩れれば双倒れだ。厄介なことに変わりはねぇが行くしかない。この世界での二人の保護者として、嗅覚と情報網を全部使って助けに行くしかない。


　頼む、間に合ってくれ………！