【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

輝石玲

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孤児院での生活

28.科学は異世界の人からしたら魔法

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 みつ兄と話し合って、元の世界に戻らない事を決めた。

 理由は結構シンプルで、まずは帰る方法が無いから。そして、この世界なら協力してくれる人がいる事で俺たちの関係を上手に隠せるから。そしてもう一つ、帰ったところで行方不明の時の説明が出来ないからだ。ゲームの世界にいたなんて言えば、即病院送り間違いなしだ。



 そしてその意思を決めてから一週間、俺たちはこの世界で仕事を探した。俺の歳でもアルバイトは出来るらしく、ガルさんにこの世界の事を教えてもらいながら資料を読み漁って仕事に就けるまでにした。
 勉強を教わって、自分で資料を見つけて………学校みたいだ。不思議となじむ感覚がある。


 みつ兄は孤児院で職員の手伝い、俺は孤児院に物資を運ぶアルバイトをしている。孤児院は本当なら18歳までのところを、みつ兄を職員の手伝いをさせる事で了承してもらった。みつ兄は衣食住のために手伝いして、俺は個人で使える金銭を稼いでいる。
 とは言え、バイト代の一部はガルさんに授業料として支払っている。最初のうちは払ったお金を返されて大変だったけど、今ではちゃんと受け取ってくれている。

 バイトを初めて3ヶ月。前の世界にいれば俺は高校生になっていた。でもなんだか元の世界と変わりなく過ごしている気がする。高校生になったらバイトをしようと思っていたし、勉強させてもらう事も出来ている。もちろん最低限の生活も。
 バイトを始めてからは町に出る事も増えて、少しずつこの環境に慣れ始めている。

 でも……ガルさんやリリスさんは俺たちの出自を気にしている。未だに異世界のことは言っていないし、段々と誤解が生まれて、俺たちの境遇が良くないものだと思い始めていた。
 このままでいるわけにはいかない。ちゃんと、説明しないと………




 アルバイトが休みの日、朝食を食べた後にガルさんの部屋に行った。

 部屋の目の前まで来て、ノックをしようと手を構えるけど、いろんな不安が押し寄せてノックも出来ない。
 今、部屋にいるかな。みつ兄がいないけど、ちゃんと喋れるかな。本当の事を話して変に思われないかな。そもそも信じてもらえるかな。
 そんな事を考えていると、ノックする前にドアは開いた。

「さっきからそこで立ち止まってどうした?」
「き、気付いてたんだ………」
「鼻いいからな」

 そう言いながら部屋に入れてくれたガルさん。椅子に座って緊張しながら待っていると、蜂蜜入りの甘いホットミルクを入れてくれた。ガルさんって甘いの好きなのかな。

「で、お前らの故郷のことだろ?」
「え…なんで分かって………」
「これ」

 ガルさんはウサギ型の水晶を手に持った。そして何かの魔法を発動すると、水晶から声が聞こえてきた。それは、昨夜みつ兄と話してた時の俺の声だ。ガルさんたちに本当の事を伝えるかどうかで話し合ってた時の。

「変に疑いたくは無かったが、全部信じるわけにはいかなくてな」
「盗聴…?え、いつから!?」
「お前らに水晶を渡してから」

 嘘っ!?てことは、夜のアレやコレやも全部筒抜けだったって事!?お、俺…みつ兄以外誰も聞いても見てもいないからって乱れまくってたのに………。

「お前ら、回数も頻度も減らさねぇとガチで依存するぞ?つか道具の消費が早い」
「ううううるさい!」

 呆れたように鼻で笑われた!ぐうぅ………。
 って、本題はそこじゃない!俺たちの故郷…元の世界のことを話に来たんだろ!
 とりあえずホットミルクを飲んで心を落ち着かせた。そして深呼吸をして、今度こそはとガルさんの目を真っ直ぐ見る。

「これから話す事は信じられないかも知らないけど…それでも、誓って全部事実だから」
「分かった」

 俺たち兄弟は違う世界から来た事、この世界のことが物語になっていたこと、俺だけその物語を知っていた事。それから、俺たちもこの世界に来た原因…方法を知らない事を全て話した。




 メモを取りながら真剣に話を聞くガルさん。全て話終わるとメモを眺めて何かを考え始めた。その間にぬるくなったホットミルクを飲んで緊張を和らげようとした。不思議と話す前より後の方が緊張している。

「いくつか聞かせてくれ。お前は元の世界で剣を習っていたか?」
「いや、習ってない」
「習ってない?おかしいな、お前の手は確かに剣を振り続けたやつみたいな手だったが………」
「あ、もしかしてテニス部だったから?ラケットの素振りは毎回やってたからな」

 ガルさんは頭にハテナを浮かべていたから、簡単にテニスを説明した。スポーツ文化も違うから、そりゃあ誤解されるよな。棒を振るのは元の世界じゃテニスもバドミントンも野球だってある。けどこの世界で棒を振るのは剣だよな。

「そんな運動があるのか…」
「俺は大会でも準優勝までしたし、そりゃあ振りすぎで手が硬くなっても不思議じゃない」
「運動に大会?剣や馬術みたいなものなのか?」
「まぁ、競技にもゲームにもなるし、そんな感じでいいと思う」

 あれ、思ったより簡単に信じてくれてるみたい。しかも楽しそうに聞いてるし、普通に楽しい会話をしてるだけみたいだ。同じ言語を使う別の文化圏の人との交流みたいな。
 他にも会話ができる種族が人間だけと言ったら驚いてた。他にも魔法が無いとか、モンスターがいないとか。あと、鉄の塊が人を乗せて空を飛ぶって言ったら「流石にそれは嘘だ」って言われた。現代人からしても魔法みたいだけど、それでも科学で作られた実在するものだ。たまに墜落するって言ったら「じゃあ乗るな」って言ってたのは共感。そりゃあ滅多に落ちないけど、俺は実際にそれで母と長男を失ってるから怖いものは怖い。

「お前の世界って変なとこだな。っていうかなんでこっちの世界の事を知ってたんだ?」
「いや、実在するのは知らないよ。この世界はあくまで空想とされてるから」
「じゃあ偶然ってことか……怖っ」

 一通り話終わった後、俺は部屋に戻ろうとした。が、ガルさんに引き止められた。ガルさん?そんな真剣な顔してどうした……?
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