【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

輝石玲

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孤児院での生活

26.兄弟の呪い(ガレアン)

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 あのヘンテコ兄弟が来てからひと月くらい経った。その間にいくつか、あいつらの故郷に関する情報を盗むことができた。



 二人は今夜は何もしないでそのまま寝るらしい。……この事と言い、故郷の情報と言い、全部盗聴で知った事だ。
 あいつらには申し訳ないと思ってはいるが、防音魔法が組み込まれた兎の水晶に録音魔法を忍ばせておいた。兄弟の部屋にある水晶と俺の手元にある水晶を繋げ、録音したものを俺の方で再生すれば、時差はあれど会話を聞くことができる。……まぁ、高確率で喘ぎ声が聞こえてくるが。
 それでも何度も聞こえてくる言葉がある。それは『元の世界』や『違う世界』だ。何かを比較する時なんかによく言っている。それから『元の世界に帰る方法』なんてものを調べようとしていること。……聞いたこともねぇよ。



 今夜も変わらず盗聴していると、全ての仕事を終えたリリスが俺の部屋に来た。

「よぉ、頼んだ資料は見つかったか?」
「いいえ、影すら見当たらないわ。本当にあるのかしら…こことは違う世界なんて」

 あいつらが盗聴を疑ってデタラメを言った可能性も捨て切れないが、『別の世界から来た』なんてイカれたを嘘で思い浮かぶとも思えない。あるいは、『社会』の事を『世界』と呼んでいるか。
 閉鎖された場所にいれば『自分の世界』は限られる。そうすれば外の全てが『違う誰かの世界』だ。一応『トウキョウ』の事も調べはしたが、名前も存在も全く見つからない。目星も付かない。

「ねぇガレアン。貴方、あの二人に肩入れし過ぎじゃないかしら」
「わーってるよ…。でもほっとけねーの、気味悪いくらいにはな。短期間とは言え知らないことばっかで興味が出た。その時点で俺は引けねぇよ」
「知的好奇心ね。流石は経験と知識はあっても心理的にチョロいオオカミ君ってところかしら」
「やかましい!」

 ……っと、そんな今はノリに合わせてる場合じゃなかった。あの兄弟、今夜はもう寝たのだろうか。とても静かで何も聞けない




 俺もあいつらがウソをついてるとは思えない。それでも、少しでも怪しいと思ってしまえば調べないわけにも行かない。本人から直接聞くのが手っ取り早いが、きっと答えないだろう。何度か言うようにそれとなく促してみたが、何としても別の世界のことは何も言わなかった。やっぱり『違う世界』の解釈は故郷とは別の社会という意味だろうか。

「そうそう、メルトが協力してくれて、あの兄弟の魔力に関する事を観察してくれたわ。これ、まとめた資料」
「あいつが協力してこれっぽっちか?」
「見てみれば分かるわ」

 あまり当てにしないで受け取った資料に目を通す。


 ーーーーー

 新入りの兄弟に違和感と不気味さがあったから独自で調査した。

 二人は間違いなく、同じ血を持った兄弟だ。だが、二人とも見た事のない血を持っていた。不純物が何も無いどころか、あまりにも綺麗過ぎる人間の血液だ。他の種族の要素は無く、生命力が弱い割に抗体が強い。まるで、魔力を全く持たない代わりに不純物を拒むような……。あんな血は初めて見た。
 血液と完全に混ざる薬品を使われていれば話は変わるが、純粋な人間の兄弟だと言うことは確かだ。

 それからもう一つ。彼らは魔力を使わずに魔法を使っている。恐らく二人とも無意識なのだろうが、呪術師の呪いを遥かに凌駕する束縛の呪いを互いに掛け合っている。同じ血を持つからこそ可能なものかも知れないが、このままでは共依存に陥り日常生活もままならなくなるだろう。かと言って無理矢理引き離してしまえば植物状態になってもおかしくない。もう既にその段階に近付きつつある。
 可能であれば早急に対処し、呪いを解かなければならないだろう。呪いの発生源は兄のミツルだ。彼さえ抑えられれば弟も少しずつ呪いを解いていくはず。

 それ以外はただの人間と変わり無い。だが、人の心を完全に失う前に対処してやらなければ早々に壊れる。引き続き調査は進めるが、そちらの方も頼んだ。

 ーーーーー


「呪い、だと………?」

 あり得ない。あり得てはいけない。だが、メルトが言うのなら確かだろう。

 呪いは魔法の上位互換と言えるものだ。魔法との違いは、呪いだけが精神に作用できること。
 俺も十年前に呪われた事があるが、あれは……思い出すだけで死んだ方がマシだと思えるものだ。自我と思想を書き換えられ、無理矢理能力を引き出され、精神も肉体も消耗し切ってからようやく呪いを解く事が出来た。その後はしばらくの間だけ生きる屍のようになっていたが……束縛の呪いだと?
 呪われた事があるからこそ分かる。もし呪いに抗おうとすれば、反動で余計に首を絞められる。もし無理にあいつらを引き剥がせば……最悪、死ぬ。その前に手を打つべきだった。なのに俺はむしろ背中を押してしまった

「血縁関係どころか、同じ血を持った兄弟って言うのはかなり強いわ。呪いは魔力以上に『血』が重要」
「分かってる…。なぁ、もう手遅れなんじゃないか?」
「えぇ、呪いを消す方法は一つだけ残っているけど……」

 それは、選べない。互いに掛け合う呪いなら、どちらか一人になれば時間と共に消滅する。兄の方を残せば、確実に心中に持っていくはずだ。

 そう、残っている唯一の方法は兄の方を殺す事。でも……そんな事をすれば、弟の方はどうなる?
 あれほど戦いの才能に恵まれている弟の方が残れば、克服するか、心中するか、全て忘れるか、世界を敵に回すか、それくらいだろう。愛に溺れ戦争を起こした者は少なく無い。

 一番安全で確実なのは、兄を殺して弟の記憶を消す事。


 そんなこと、出来るわけが無いだろ…………
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