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復讐の旅、開始!

2.復讐なんてそんな贅沢な!

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 体感で10分くらいだろうか。絶対に普通じゃあり得ない速度で遠くまで運ばれて、俺は何もしてない筈が疲れ切っている。気付けば森…山か?の中の川の近くまで来ていた。

「ゔぅ…目が回る……」

 近くの木にもたれ掛かって頭を押さえた。そのまま見上げてみると、木の葉の隙間から目が眩むほどの光が差していた。目を細めるほど眩しいけど、なんかこういう自然は美しく感じる。

 そのままゆっくりと深呼吸をした。

「体調がよろしくありませんか?」

 若干ぼやけた意識で声の方を向いた。

 俺を牢から出してここまで運んだ声の良い人は、いつの間にか鎧を脱いで着替えていたようだ。黒い袖無しのインナーと黒いズボン。ベルトも靴も指抜きグローブも真っ黒だ。ファンタジー世界でよく見るようなマント以外はほとんど真っ黒。
 そして、前髪を左側で分けたサラサラの髪の毛は真っ黒に見えるほどに濃い紫だった。9割真っ黒な中に目立つ赤い目は鋭くて少し怖い。怖い、けど凄く綺麗。

「あんな運ばれ方して無事な方が珍しいと思うんですけど?」
「あぁ、申し訳ありません。急ぎだったので」
「ま、こんな立場で文句なんか言えませんよ」

 本当に…この人が連れ出さなかったらどうなってたか、なんて考えたくも無い。




 でもこれからどうする?何も知らない世界で、どうやって過ごそう。流石にこれ以上この人のお世話になるわけにはいかないし……。
 一般の人に『異世界から来ました』って言って変な風になっても困る。この世界での異世界人の印象は知らないからな。

「あー、えっと、何かお礼をさせてください。何も持ってないけど俺に出来る事ならなんでもします」

 まぁ、ただ働きでも行き先が無いよりはいいかな。なんて思いながら言ってみた。あ、でもそれで痛いこととか性的なことを要求されたらどうしよう。このタイミングだと断り辛いとかのレベルじゃ無い。


「なんでも、なんて簡単に言うことじゃありませんね。そんな事を言えば、私みたいな会って間もない男に襲われるとは考えなかったのですか?」


 男は俺の両手を掴んで頭の上にやった。
 やばい…この人、力強すぎ…。だって、片手で俺の両手を押さえつけてるんだよ……?

 男はどこからか出した錠剤と思われるものを自身の舌に乗せた。そしてそれを口移しで俺に飲ませた。長い舌で粒を喉の奥に無理やり入れられた俺は、嫌でもそれを飲み込んだ。

「んっ…っ………!…ゴホッ!な、にを……!」
「これで分かりましたね?恩を返そうとするのはいいですけど、あまり信用し過ぎるのもよろしくありません」

 手は直ぐに解かれた。
 でも俺は飲まされたものが危ないものかと気が気じゃない。睡眠薬や痺れ薬ならまだいい…いや、良くない。良くはないけど、これが毒だったり依存性ある薬物みたいな物だったらかなりまずいんじゃ……。

「今のはただの鎮痛薬ですけどね。運んでる時に鎧が押し付けられて痣を作ってしまったみたいでしてね」
「え……?鎮痛薬?なんだ…良かった……」
「たった今、信用し過ぎるなと言ったばかりなんですけど」

 た、確かに…。でも本当に危ない人ならそんな事言わない気がする。だから、この人は普通に優しい人なんじゃ無いかな。

 それにしても、痣が出来てたのは気付かなかった。服の中を覗いてみたら、結構クッキリと青アザが出来てた。



「……ところで、私と共に来ませんか?」
「え?」

「復讐したいと思いませんか?あの理不尽な王に」


 復讐……?
 考えても見なかった。良いんだろうか、そんな
 俺は理不尽な奴とか敵とか…とにかくムカつく奴はとりあえずボコしたいと思ってる。喧嘩っ早いのは俺の悪いところだって分かってはいるんだけどな。

 でも、今回ばかりは喧嘩なんてものじゃ無い。相手は王様。対して俺はこの世界の初心者マークだ。ハッキリ言うと勝てる気はしない。


 ………俺一人なら、な。


「勝算は?復讐するとして、まさか二人だけで国の頂点に挑むわけじゃ無いよな?」

 その確認に男は笑った。俺にその気があると分かったからだろうか。

「では、詳細を話しましょうか。雨が振りそうなのでどこか…宿にでも移動してから」

 え、宿代持ってないけど。ってか無一文だよ?流石にこれ以上借りを作るのは怖いな…。とは言っても、他に選択肢も無いんだけどさ。

「分かった。ただその…俺の分の宿代って………」
「私が出しますよ。この近辺の宿は対して高額でもありませんし。変に気負うことはありません。貸し借りも考えなくていいです」

 気前が良すぎるこの声がいい人。って、そう言えば自己紹介もしてないな。……それも宿に移動した後か。


 ………って、あれ?なんか、力が抜けて……。熱い…?


「あれ、どうしました?……あぁ、緊張が解けて気が抜けたんですね。」
「え……?」
「もしかして、先程から熱が出ていると気付いていなかったんですか?」


 まじか、いやまぁ怪我もしてたみたいだしおかしく無いか。
 あー、でも、ちょっとやばいな。頭がぼーっとして、意識が無くなりそうだ…。


ダメだ、立ってられな…………
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