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終わりへ

61.櫻の龍

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 ーーーーーイオリーーーーー




 会議室、天使達の対策やらこれからの動きを確認するはずだった。
 しかし唐突に『真実を見る瞳』を持つアンナは、ラドンさんが嘘を吐いていると指摘した。ラドンさんの過去やプロフィール。それらに嘘があると。

 だが、指摘されたラドンさんは身に覚えが無いと本気で戸惑っている。俺から見てもラドンさんが嘘をついているとは思えない。
 ……それが本気の演技なら、余程の強メンタルだとは思うが。


「ま、待ってくれ。俺が嘘を?どういう事だ?」
「そうね、どれも確信があるものでは無いのだけれど…。ひとつ、確実に矛盾があったのよ。貴方は自身が育った隣国の児童養護施設に息子を預けた。そして奥さんを亡くしてからは一度も施設に行っていない。それは何故かしら?」
「嫁さん無しで子育てが出来なかったからだ。こんなやつが父親として側に居たら迷惑しかかけられねぇ。そんな理由だ。」


 なんとなく納得できるような理由。育てられないなら子供を作るなというツッコミは置いておいて、確かに出来もしないことを頑張るより確実にしっかりと育ててもらう方がいい、という考えはあるだろう。
 それには矛盾は感じない。


「そう。その言葉に嘘は無いのね?色々と調べてあるから嘘は分かるわよ?」
「全て本当の事だ。調べたんなら分かるだろう。」
「……おかしいわね。ここまで念を押しても嘘を吐くなんて。まさか記憶を改ざんでもされてるのかしら。」


 アンナはその後も言い方を変えては、ラドンさんに直接吐かせようとした。しかし、口を滑らせることもなくシラを切るラドンさん。


「……分かった。本当に身に覚えが無いというのなら私が教えてあげるわ。ラドンさんの言う隣国の児童養護施設を調べてみたの。でも、今までそこで育てられた子供の中には『ラドン』という名前の子供は居なかった。それと、時期的にはラドンさんが結婚した頃、既に施設は子供の保護施設から冒険者の小さな宿に変わっていた。子供を預けるなんて出来ないの。」
「まさか!そんなはず…なら、息子は今どこに……?」


 アンナの言う通り、記憶が書き換えられてる可能性が高いな。でも、もし本当に記憶を改竄かいざんされてるとしたら、誰が何のために?
 ラドンさんの子供は今どこにいるんだ?


「そういえば、施設出身で身分があまり良く無い貴方は、奥さんの方に籍を入れたのですよね。きっと結婚して身分が変わらなけれはギルドマスターにはなれなかった。それどころかこの国にいられなかったかもしれない。ちゃんとした『身分』があれば、自分の正体を隠せると思っていたのかしら。」
「俺の正体だと…?本当に何を………!」
「率直に言うわ。ラドンさん…いえ、その名前も偽物かしら。貴方、?」


 ……………え?
 アンナのその一言に、ラドンさんを含む全員が絶句した。この世界の人じゃ無い。なら俺たちと同じ世界だろうか。でも、召喚はそう簡単じゃ無い。何年も掛かる大掛かりな準備が必要だ。


「真実を見る瞳って便利ね。きっと貴方の本来の姿を知らなかったら、何の疑いも持たなかったことでしょう。……それで、イオリの本来の姿と似てる貴方は誰?」
「…………」


 ラドンさんは動かなくなった。
 俺の本来の姿と似ているって、どう言う事だろうか。いや、まさか………
 ふと、マイヤが水から読み取った記憶を思い出した。薄紅の和装と薄紅の角と尾。薄紅から白へグラデーションされた長い髪と吊りだが穏やかな目の………


「………咲良サクラ。」


 ふと、その名前を口にした。そしてそれに反応したようにラドンは姿を変えた。先程思い出した龍人と同じ姿に。

 ラドンさんが、父さん………?


「っ………、面白い。人間如きが私の正体を見破るとはな。」


 俺とほぼ同い年くらいに見えるほどに若い父さん。しかし、自分の知っている父とは大きく違っている。姿は人間じゃ無いし、平凡さも感じない。これは誰だ………?


「よく気付いたな、伊織。」
「……誰だ?お前は父じゃ…咲良さんじゃないな。」
「私の名は櫻だ。お前の父に私の記憶は無いが、私は全て覚えている。そしてそれはラドンも同様。」


 父さんの記憶はあっても父さんじゃない。別人格のようなものか?確かに父の姿ではあるのに似付かない。


「私の記憶が無いというだけで咲良もラドンも人間が出来ている。あまりにも不快だ。」
「あら、唐突に正体を表すなんて。」
「名を呼ばれなければ明かすことも無かったのだが。やはり同じ音の名前にすべきでは無かったな。」


 やけに落ち着いているアンナの反応。最初から気付いていたのか。分かっていたから、他の勇者とは違って俺に関わろうとしなかった。見えるだけで善悪を判断できないから。
 たった一人で盤面を見ていた。この世界のチートがミカなら、アンナは元の世界のチートだろう。

 まだ、もっと知りたい。


「……櫻、ラドンさんの息子はどうなってる?」
「あぁ、あいつなら早々に始末したぞ。私の血を引いていながら龍神の力も使えないただの人間は不要だからな。伊織、お前も同じことになっていたかもしれないな。」
「俺がただの人間として生まれてたら殺していたと?」
「いや、向こうの世界は色々と厄介だからな。人外や魔法の無い世界じゃ始末し難い。母親の元に行かせていたか施設に入れて終わってただろう。」


 胸糞悪いな。父さんの姿で簡単に外道な事を言う。俺が父さんに育てられたのは、父さんの中のこいつが俺の力を保護しようとでもしてたのか。


「さて、正体を知られた以上は……」

「っ!」


 全員が櫻に向かって臨戦体制に入る。しかし、余裕そうに微笑むと櫻は姿を消した。桜の花びらを残して。
 ラドンさん…、彼の人格はどうなったのだろうか。何も知らず、子供も殺され、俺たちの敵になってしまった。


「予想以上に厄介じゃないの。確認しておいて良かったわ。」
「……ね、ねぇ、アンナ。その…なんで、私やシュウにも教えてくれなかったの?見えてたこと……」


 震えた声でタマキは問うていた。他の勇者にも共有していなかったのか。……いや、共有していたらシュウもタマキも俺に教えを請うようなことはしなかったか。でも、真実を見る瞳の存在すら教えていなかったらしい。まるで、友人であっても信用していないように。


「ごめんなさい。貴方たちを余計に不安にさせたく無かったのよ。本当は私一人で全てハッキリさせて、誰の味方になるべきかを判断するつもりだった。……でも、二人とも決まっているのでしょう?自分がすべき事を。」



 シュウとタマキは頷いた。
 これで、ここに残っている七人の気持ちは一致していると確認した。ここにいる人は信頼できる事を証明し、目的を再確認する。
 今の目標は天使だ。


「それにしても、全部隠して思い通りに動かそうだなんて、アンナもサクラってやつも大概だよな。」
「やかましいわよ堕天使。」
「いちいちそう呼ばなくていいだろ!」


 ……信頼、出来てるんだよな?
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