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52.天魔大戦 ③
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早朝に魔王ディークと別れて天空宮に戻った大天使。離れの自分の宮に入ると、そこにはあからさまに怒れる神が待ち構えていた。
しかし大天使には分からなかった。神が自身に怒りを向けてる理由を。
「神様?何故いつにも増して眉間に皺を寄せている?」
「分からぬか、愚か者め………」
神は大天使に雷を放った。紫の閃光が大天使の首を締め、全身に電撃が流れる。
「がっ………!」
「次代の神ともあろう者が天空宮を空けるなど何のつもりだ?我はその様な教えをしていたか?」
ようやく紫の閃光が外れたが、体に痺れと激痛が残り会話もままならない大天使。床に転がり身動ぎ出来ずにいる大天使に神は残酷な罰を与えた。
神は翼を全てもぎ取り、大天使から飛行能力を一時的に封じたのだ。
「貴様は…、我、を……、意のままにしたいだけ…なのか……?」
「神としてあるべき姿を教えているだけだろう。」
「我は貴様では無い…、我は、貴様の様にだけはなりたく無い……!」
初めて神に反抗した大天使。
たった数日で千余年の教えに逆らう様になった大天使に、神は驚愕した。絶望した。憤怒した。
「何を言ってるか分かっておるのだろうな?」
「我は貴様とは違う!誰かと分かり合える心が欲しい、人間や悪魔を愛する心が欲しい!我は…心から笑ってみたいのだ………!」
「己が立場を見失ったか!痴れ者が!」
神が怒りに震えると、外は雷鳴が轟いた。風は吹き荒れ、海面は大きく波を上げている。
神器の杖を取り出した神はその杖で大天使の胸を一突きすると、そのまま大天使の意識と体の感覚を封じてしまう。
「しばらくそのまま反省する事だ。二度と『心』などと言うものを求めようと思うで無い。」
遠ざかる意識の中でも貪欲に望むものを求めた大天使は、力を振り絞り杖を自力で胸から抜き出した。しかし立つ事も出来ず、傷も治らぬ大天使は大量の血液を流し倒れた。
最後の足掻きだと呆れてもの言えぬ神は、もう一度突き刺そうと杖を拾いに近付いてしまう。
その時、大天使は痺れて感覚の無いはずの腕で神の片足を切り落とし、壁伝いで外まで歩いた。そして、神が止めるよりも先に大天使は天空から荒れる海へと落ちた。
大天使が薄れた意識で塩水に揉まれていると、どこからか小さな手が触れた。白い翼をヒレの様にゆらゆらとはためかせ体の動かない大天使をどこかへと連れて行く子供は、絵の具と紙の匂いを漂わせている。
刺す様な日差しと凪いだ水面。冷たく波打つ床は海の天井。
天空宮から落ちた大天使は、海の上で目を覚ました。濡れて透ける服と重たい髪の毛を持ち上げる様に起き上がると、その横には小さな天使がいた。
「あっ、気付いた?」
「……誰だ。」
「ボクはマイヤだよ、フシギなおにーさん。」
マイヤは海に落ちて行く大天使を見つけ、助けるために海に飛び込んだと語った。どうやらマイヤは大天使が『大天使』だと知らない様だ。それはつまり、まだ創られたばかりの幼い天使だと言う事。
「おにーさん、大丈夫?」
「いや、しばらく飛べない。それと…その『おにーさん』呼びをやめろ。」
「じゃあ、にーさま?」
「それだと意味が違うだろう……。」
マイヤと大天使は、陸まで海面を歩いた。
大天使の身分を知ったマイヤは、特に驚くでも無く「そうなんだ、すごいねぇ。」としか反応しなかった。
そして陸に着いた二人。既に日は沈んで暗い砂浜は、月の光を砂が反射して星の様に輝いていた。そしてそのまま二人は星の中を進む。
「ごめんね、ボクがにーさまを運んで飛べたら良かったんだけど………。」
「気にするな。我らの事情に巻き込んですまないな。とりあえず当てはあるからそこに向かおう。」
大天使は勝手に着いてくるマイヤを連れて、悪魔の国にある湖へと向かった。
ゆっくりと時間を掛けた旅は、大天使に衝撃をたくさん与えた、見たことないものや食べたことないもの、感じたことの無いことをたくさん経験した。
人目を避けての旅だったが、大天使はいつか人間ともたくさん交流してみたいと思った。それは望むべきでは無いと知りながら。
そして到着した湖。
朝日で目が眩みそうになりながらも森を抜け、着いた先には魔王が立っていた。湖に向かい佇む魔王は記憶より大人びている。
「今回は貴様が先にいるとはな。」
「……久しぶり。もう会わないのかと思ったよ。」
魔王は今にも泣き出しそうな顔をした。その理由を知らない大天使が直接理由を訊ねると、前にあった時から二年も経っていたことが分かった。大天使にとってはたかが二年。だが、まだ年若い魔王にとっては長い時間だった。
そして魔王は時の流れの感じ方に差がある事を勘付いていたようだ。だからこそ、二年間もこの湖に何度も訪れて待っていた。「またね」と交わした挨拶が嘘にならないように。
「にーさま、この人だぁれ?」
「あれ、君って弟いたの?」
大天使は二人に互いのことを軽く紹介した。
気付けば大天使はマイヤの方が互いによく知る関係になっていた。そこで初めて時間の価値や意味を感じた大天使は、今まで天空宮にいた時の時間は無駄な浪費だったと感じた。
「………なるほど、『おにーさん』から『にーさま』って、意味が違くなっちゃってるね。」
「それは我も言ったな。」
「にーさま、兄様………」
何かを考え込むマイヤ。しばらくしてもじもじと恥ずかしそうに大天使のマントを引っ張ると、しどろもどろとしながらお願いをした。
「あのね、にーさま。ボクの兄様になって欲しいな……」
「ん?」
「兄弟って憧れてたんだ。だからね、にーさまの弟になりたいなって………ご、ごめんなさい……?」
マイヤは緊張のあまり謎に謝った。そんな勇気を振り絞ってお願いをするマイヤに、大天使は頭を撫でてため息を吐いた。
「好きにするといい。」
「ほ、ほんと…?」
そうして大天使には兄と慕ってくれる弟ができた。
「可愛い弟だね。良かったね、大天使さん。」
「可愛いって…ボクの方がディーク君より年上なのに!」
「……………え?」
マイヤは天使の中では幼い。しかし天使の幼いとは、誕生から三桁経っていないと幼い扱いになる。当時のマイヤは27、ディークは21だった。
大天使にとっては千と数百の年が離れた弟と友人だ。
しかし大天使には分からなかった。神が自身に怒りを向けてる理由を。
「神様?何故いつにも増して眉間に皺を寄せている?」
「分からぬか、愚か者め………」
神は大天使に雷を放った。紫の閃光が大天使の首を締め、全身に電撃が流れる。
「がっ………!」
「次代の神ともあろう者が天空宮を空けるなど何のつもりだ?我はその様な教えをしていたか?」
ようやく紫の閃光が外れたが、体に痺れと激痛が残り会話もままならない大天使。床に転がり身動ぎ出来ずにいる大天使に神は残酷な罰を与えた。
神は翼を全てもぎ取り、大天使から飛行能力を一時的に封じたのだ。
「貴様は…、我、を……、意のままにしたいだけ…なのか……?」
「神としてあるべき姿を教えているだけだろう。」
「我は貴様では無い…、我は、貴様の様にだけはなりたく無い……!」
初めて神に反抗した大天使。
たった数日で千余年の教えに逆らう様になった大天使に、神は驚愕した。絶望した。憤怒した。
「何を言ってるか分かっておるのだろうな?」
「我は貴様とは違う!誰かと分かり合える心が欲しい、人間や悪魔を愛する心が欲しい!我は…心から笑ってみたいのだ………!」
「己が立場を見失ったか!痴れ者が!」
神が怒りに震えると、外は雷鳴が轟いた。風は吹き荒れ、海面は大きく波を上げている。
神器の杖を取り出した神はその杖で大天使の胸を一突きすると、そのまま大天使の意識と体の感覚を封じてしまう。
「しばらくそのまま反省する事だ。二度と『心』などと言うものを求めようと思うで無い。」
遠ざかる意識の中でも貪欲に望むものを求めた大天使は、力を振り絞り杖を自力で胸から抜き出した。しかし立つ事も出来ず、傷も治らぬ大天使は大量の血液を流し倒れた。
最後の足掻きだと呆れてもの言えぬ神は、もう一度突き刺そうと杖を拾いに近付いてしまう。
その時、大天使は痺れて感覚の無いはずの腕で神の片足を切り落とし、壁伝いで外まで歩いた。そして、神が止めるよりも先に大天使は天空から荒れる海へと落ちた。
大天使が薄れた意識で塩水に揉まれていると、どこからか小さな手が触れた。白い翼をヒレの様にゆらゆらとはためかせ体の動かない大天使をどこかへと連れて行く子供は、絵の具と紙の匂いを漂わせている。
刺す様な日差しと凪いだ水面。冷たく波打つ床は海の天井。
天空宮から落ちた大天使は、海の上で目を覚ました。濡れて透ける服と重たい髪の毛を持ち上げる様に起き上がると、その横には小さな天使がいた。
「あっ、気付いた?」
「……誰だ。」
「ボクはマイヤだよ、フシギなおにーさん。」
マイヤは海に落ちて行く大天使を見つけ、助けるために海に飛び込んだと語った。どうやらマイヤは大天使が『大天使』だと知らない様だ。それはつまり、まだ創られたばかりの幼い天使だと言う事。
「おにーさん、大丈夫?」
「いや、しばらく飛べない。それと…その『おにーさん』呼びをやめろ。」
「じゃあ、にーさま?」
「それだと意味が違うだろう……。」
マイヤと大天使は、陸まで海面を歩いた。
大天使の身分を知ったマイヤは、特に驚くでも無く「そうなんだ、すごいねぇ。」としか反応しなかった。
そして陸に着いた二人。既に日は沈んで暗い砂浜は、月の光を砂が反射して星の様に輝いていた。そしてそのまま二人は星の中を進む。
「ごめんね、ボクがにーさまを運んで飛べたら良かったんだけど………。」
「気にするな。我らの事情に巻き込んですまないな。とりあえず当てはあるからそこに向かおう。」
大天使は勝手に着いてくるマイヤを連れて、悪魔の国にある湖へと向かった。
ゆっくりと時間を掛けた旅は、大天使に衝撃をたくさん与えた、見たことないものや食べたことないもの、感じたことの無いことをたくさん経験した。
人目を避けての旅だったが、大天使はいつか人間ともたくさん交流してみたいと思った。それは望むべきでは無いと知りながら。
そして到着した湖。
朝日で目が眩みそうになりながらも森を抜け、着いた先には魔王が立っていた。湖に向かい佇む魔王は記憶より大人びている。
「今回は貴様が先にいるとはな。」
「……久しぶり。もう会わないのかと思ったよ。」
魔王は今にも泣き出しそうな顔をした。その理由を知らない大天使が直接理由を訊ねると、前にあった時から二年も経っていたことが分かった。大天使にとってはたかが二年。だが、まだ年若い魔王にとっては長い時間だった。
そして魔王は時の流れの感じ方に差がある事を勘付いていたようだ。だからこそ、二年間もこの湖に何度も訪れて待っていた。「またね」と交わした挨拶が嘘にならないように。
「にーさま、この人だぁれ?」
「あれ、君って弟いたの?」
大天使は二人に互いのことを軽く紹介した。
気付けば大天使はマイヤの方が互いによく知る関係になっていた。そこで初めて時間の価値や意味を感じた大天使は、今まで天空宮にいた時の時間は無駄な浪費だったと感じた。
「………なるほど、『おにーさん』から『にーさま』って、意味が違くなっちゃってるね。」
「それは我も言ったな。」
「にーさま、兄様………」
何かを考え込むマイヤ。しばらくしてもじもじと恥ずかしそうに大天使のマントを引っ張ると、しどろもどろとしながらお願いをした。
「あのね、にーさま。ボクの兄様になって欲しいな……」
「ん?」
「兄弟って憧れてたんだ。だからね、にーさまの弟になりたいなって………ご、ごめんなさい……?」
マイヤは緊張のあまり謎に謝った。そんな勇気を振り絞ってお願いをするマイヤに、大天使は頭を撫でてため息を吐いた。
「好きにするといい。」
「ほ、ほんと…?」
そうして大天使には兄と慕ってくれる弟ができた。
「可愛い弟だね。良かったね、大天使さん。」
「可愛いって…ボクの方がディーク君より年上なのに!」
「……………え?」
マイヤは天使の中では幼い。しかし天使の幼いとは、誕生から三桁経っていないと幼い扱いになる。当時のマイヤは27、ディークは21だった。
大天使にとっては千と数百の年が離れた弟と友人だ。
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