【完】天使な淫魔は勇者に愛を教わる。

輝石玲

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48.勇者と魔王

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 ーーーーーイオリーーーーー




 ぼんやりと声が聞こえる。誰が何を言っているかは分からない。


「………………う、丸……も…って……」
「魔力……んだん………なく……ます。なん………く…い気配……」


 団長とシュウの声?
 そう言えば倒れたんだったか。急に倒れて目が覚めたら悪魔になってた、なんて驚かれるだろうな。まだ体の感覚に違和感があるから意識があっても動けない。
 なんとか目をゆっくりと開くと、見慣れた天蓋が目に入った。


「あ!気付きましたか?」
「……シュウ、俺はどれくらい眠っていた?」


 体は起こせないまま尋ねた。良かった、声は普通に出る。


「丸一日です。倒れたと思ったら良くない魔力に包まれて…、もう目覚めないんじゃないかって心配しました。」
「良くない魔力…、悪魔の魔力だろうな。」
「悪魔の……?でも、その魔力は今もイオリさんから……」


 今は部屋に俺とシュウしかいない。団長は席を外してる様だ。感じ取ったのが一人だけなら口止めしておこう。


「……その良くないものを感じ取れるのはお前だけか?」
「え?あ、はい。そうですけど……」
「ならちょうどいい。他の人には言わないでくれ。」


 シュウはおどおどして頷いた。それでも納得は出来ていないようだ。まだ何かを聞きたそうにしている。


「どうした?何か知りたいのか?」
「……その、もしかしてなんですけど、イオリさん…悪魔と契約でもしたのかなって……」


 惜しい。契約じゃ無くて取引の方が近いな。力を受け継ぐ代わりにミカを助けると。
 でも多くを語って混乱させるのも良くないな。仕方ない、少し誤魔化すか。


「……契約はしていない。ただ、意識の中で消えかけの悪魔と話しただけだ。良くない魔力はその悪魔のものかもな。」
「そ、そうですか…。悪魔に乗っ取られたりしてませんよね……?」


 心配になるのも仕方ないとは言え、恐ろしいことを考えるな。とりあえず「大丈夫だから」と宥めて、口止めをしておいた。



 ようやく動いた体を起こし、水を飲んでからもう一度自分の体の感覚を確認した。やっぱり人間のそれでは無くなっている。幸いか見た目に変化は無いものの、感覚的にはいつでも悪魔に切り替えられる…と言ったところだろう。
 角も尾も羽根も人間には無いもの。なかなかに鬱陶しい感覚に早く慣れないと、ミカを助けに行くことも出来ない。

 体の感覚以外に異常は無さそうだ。とりあえず起きて、シャワーを浴びて着替えた。その間にシュウは俺が起きた事を団長かラドンさんに報告しに行った。



 いつも通りの服に着替えて部屋を出ると、どうやら騒ぎが起きているのか異様に慌ただしくなっている。


「イオリさん!大変です!急いで来てください!」


 廊下を走って来たシュウは、俺をどこかに連れて行った。どうやら城の入り口、門のところに悪魔が来たと言う。死傷者は出ていないものの、倒す事も追い払う事も出来ないでいるそうだ。
 こんなタイミングでなんで悪魔が来たのか分からない。それでも、ただ人間を襲撃に来たとは考えられない。何かここに用があるのだろうか。

 到着してその姿を見ると、どうも見覚えがあった。
 ワインレッドの短髪、鮮やかな赤い瞳、ドラゴンの様な特徴の……。

 ディークと似た、別の悪魔だ。

 団長とラドンさんの二人がかりでも難なく避けられ、しかし攻撃はしてこない。


「団長!ラドンさん!待ってください!」


 一瞬でも二人を止めたが、やはり攻撃はされない。しかも相手は一人。何か目的があるとしか思えない。
 二人も相手に敵意が無いことに気付いたのか、攻撃を止めた。


「失礼、少し話したい事がある。」
「私はある者を探してるだけだ。人間と話す事など無い。」
「……ディークと言う悪魔を知ってるか?」


 念の為のディークに関する確認と、相手の素性の確認。その両方を同時にする為の質問だ。どう返ってくるか。


「どこでその名を…。ディークは先王である父の名だが。」
「なら、お前は………」

「私はデュラン。悪魔の国ディークリードの現・魔王だ。」


 やっぱりか。そんな気はしていた。この人が今の魔王でミカの主だった人。
 話を聞いている周りの人たちは『魔王』と聞くなり驚いている。だが、初代魔王ディークを知ってる俺はすぐに気付いた。


「貴様、名は何と言う。」
「イオリ。一応勇者だ。」
「なるほど、貴様が………。気が変わった、話とやらに付き合おう。」


 俺の名前を知ってるような反応をされた。もしかしてミカから何か聞いているのか?
 とりあえず、団長に許可を取って部屋を借りた。そこで俺とデュランの一対一で話をする事になった。悪魔を…それも魔王を城に招き入れるなんて前代未聞だ。


「では、貴様の話から聞こうか。」
「あぁ、その前に……」


 俺は悪魔の姿へと変わった。もしかしたら、ミカの事で手を組む事になるかも知れないと。
 デュランはこの特徴に見覚えがあるはずだ。驚いたようで、小さく戸惑う声が漏れていた。


「俺は見ての通り、悪魔から力を貰っている。」
「その力と姿は父のもの!何故ただの人間が……!」
「ディークと共通の大切な人がいるから。そう言えば分かるだろうか。」
「なるほど、やはり貴様が………いや待て、父の魂は消滅したはずだ。」
「あぁ、俺に託して目の前で消えた。と言っても、会ったのは意識だけだけどな。」


 少し考えて理解したようだ。正直、今の俺は怪しく見えるだろうと思っている。それでも一応納得したみたいだ。


「貴様から父の気配がするのもまた事実。貴様は信頼に値すると考えよう。」


 思ったより簡単に信頼を得られた。それでもとりあえずは良かった。俺が相手を信頼していなくても、相手が俺を信頼していればいい。


「ところで、人を探してると言っていなかったか?」
「あぁ、私の師に当たる人の気配を辿ってここに来たのだ。ここに居ることは分かっている。」


 ………ん?
 魔王の師匠?


「……その人って、魔王代理をした事があったりするか?」
「あぁ、私が幼い頃にな。」
「悪魔の国の番人をしてたり……」
「そうだ。」
「悪魔じゃなかったり……」
「貴様、分かっているだろう。先生はどこにいる?」


 名前は言っていないけどミカの事だよな。まぁ『ミカ』って名前は俺が付けたから知らなくてもおかしく無いが……。
 でも、ここにミカが居るなんて本当か?だとすればどこに……あ。


 あった、ミカが唯一来そうな場所。


「……俺もミカがどこに居るかは知らない。ただ、心当たりが無いわけじゃ無い。」
「ミカ…?先生のことか?」
「大天使・リヒトと言った方が分かりやすいか?」
「いや…、名前など何も知らなかった。」
「まぁ、昔の名前は捨てたらしいからな。今は呼ぶならミカの方がいいだろう。」
「………そうか。」


 自分の主にも教えていなかったのか。余程嫌な名前だったんだろうな。

 とりあえず人間の姿に戻り、地下にある展示室に向かうことにした。
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