【完】天使な淫魔は勇者に愛を教わる。

輝石玲

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46.悪魔の国の大天使

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 ーーーーーミカーーーーー




 ヴィントとの戦いを一時的に切り上げて悪魔の国に戻った。
 やっぱりあいつは戦闘の天使なんて呼ばれるだけあってかなり強い。オレも重症では無いが結構血を流したみたいだ。


 傷を直ぐに治してデュランの元に向かった。王の執務室まで飛ぶと、当たり前だがデュランは驚いていた。


「先生!今までどこに……!」
「それは後だ、それよりも。」
「……想定より早いんじゃ無いか?」


 まったくその通りだ。オレが人間の国にいた事でエサにでもなったのだろう。あいつはノコノコとやってきやがった。


 予定通りに悪魔たちを避難させて、防御体制になった。
 まだ一番肝心なものが無いが、それでも今はできる事をするのみ。



「これで出来ることはやった。あとは………っ!」
「デュラン!……お前、またやったな。」


 突然ふらついたデュラン。体内の魔力が溜まり過ぎて上手く循環していないようだ。
 何度もこうなっているが、その度に注意しているというのに聞く耳を持たない。最悪命に関わると教えたのに、くだらない見栄で耐える悪い癖。


「後で体を貸してやるから、今はもう少し耐えろ。」
「分かってる。わたしが倒れるわけにはいかない。」


 そうだ、そう教えて来た。
 酷なことをさせている自覚はあるが、こんな大事な時に先導者が倒れては意味が無い。


 元々準備していた通り、天使の対策を実行した。
 外では「天使襲撃!即座に避難しなさい!」と警報が鳴り響いている。悪魔たちも天使から攻撃を受ける可能性を考慮して、避難に関することは必ず教えられてきた。スムーズとまではいかなくとも自分のやるべき事は分かっているだろう。

 それにしても、ヴィントがこの国まで追いかけてこなかったのは少し意外だ。恐らく増援でも呼びに行ったのかも知れないが、あいつなら真っ先にオレを殺しに来てもおかしくは無いのに。


「そうだ、デュラン。契約の解除を。」
「……そうだったな。」


 オレの右手の甲の印をデュランに返した。これでオレに掛けられていたストッパーは無くなり、本来の力を出すことが出来る。
 神すらあっさり殺せるような力。化け物と呼ばれて当然だろうな。


「やることを全て終わらせてくる。私の部屋で待っていてくれ。」
「分かった。」


 一足先に部屋に行き、マントとブーツを脱いでベッドに座った。
 ……これから、イオリ以外に抱かれる。それはいたって当たり前の行動だったのに、なんでここまで心苦しいのだろうか。

 デュランはインキュバスだ。あまりにも強い力を持って産まれ、更には魔力を収集する体質まで持つ。
 昔はオレが一人で全てを受け止めていた。だからサキュバスの体になるのにそう時間は掛からなかった。今はオレ以外にも相手がいるから大丈夫だろうが……、たまにこうやって溜め込む。

 オレがサキュバスじゃ無くなった事をあいつは知らないが、それはさして重要では無い。
 デュランの体調にあからさまに異変が起きるほど溜まった魔力は、並大抵のやつが受け止められるようなものでは無い。だからオレしか相手を務められない。

 分かっていても抵抗はある。ただでさえ友人の子だ。それだけでも気不味いのに、今はオレも恋人がいる身。
 例え二度と会うことが無くても、イオリが他の誰かと結ばれても、オレだけはこの気持ちを変えずにいると決めた。どんなに足掻いても嫌いになれないなら、気持ちを捨てずに別れると決めた。



 しばらく待ったがまだ時間がかかるだろう。今は夕方、戻ってくるのは夜になるだろうか。なんとか堪えられているといいけど。

 これからオレは、デュランに抱かれた後にセリフィアの城に行く。そこで探し物だけ終わらせないと。
 結局間に合わなかったけど、だからと言って後回しには出来ない。
 そして探しものが終わったら戦いに戻る。


 ………やっぱり、待ってるだけは暇だ。少し歩こう。
 ブーツを履いてマントを着て、直ぐ戻ると書き置きをして部屋を出た。



 何となくふらふらと歩いていると、気が付けばディークが眠るびょうまで来てしまった。数百年前はよく顔を出していたのに、ここ最近じゃ近くに来てすらいなかったっけ。
 少し入ろうかと扉の前まで行くと、見張りに止められてしまった。


「待て、ここは立ち入り禁止だ。」
「……オレを知らないのか。新入りか?」


 まぁ、ずっと門番として牢に閉じこもってたもんな。知らなくても無理は無い。それに身分を証明する役目もあった契約印は、ちょうど返したばかりだ。
 ……仕方ない。もうここには戻って来ないだろうから、最後に一度会っておこうと思ったんだが。


「なんと言おうと通さないぞ。」
「ならいい………」

「先生、またこんなところに来てたのか。」


 あぁ、デュラン。凄いタイミングだな。
 見張りはデュランがオレを先生と呼んだことで理解したらしい。凄い謝ってから廟のドアの前から退いた。


「いつまで先生と呼ぶ気だ。……って言うか、お前だって来てるだろ。」
「私は通り掛かっただけだ。」
「あっそ。」


 ………デュランとは昔から結構ギスギスしている。それもその筈、オレのせいで目の前で父親を殺されたのだから。
 昔は分かりやすく恨んでくれていたのに、いつからか隠すようになった。無理して関わる必要も無いというのに。


「お前は入るなよ。」
「………何故私が命令されるんだ。」
「魔力過多でぶっ倒れたいか?」


 そう言い返すとデュランはため息を吐いてその場から少し離れた。それでもここにいる気みたいだ。
 魔王がここに立ち尽くしてれば違和感しか無いというのに。とりあえず見張りに人払いを命じた。廟の近くに誰も寄せないようにと。

 そして一人で入ったオレは、ディークが眠る棺の側に跪いた。
 この時だけは大天使の姿に戻る必要がある。だからデュランを追い出した。ここでオレがしようとしてる事は、ディークを転生させる事。
 少しずつ魂を強化して、消滅しないように保護する。





 その為に祝福を。
 ただひたすらに優しい男に救済を。
 光あれ、光あれ、これは失っていい存在では無い。
 世界が受け入れ、光に愛されるよう。

 光の大天使リヒトが祈る。

 この為にしか使わない名前で、ただひたすらに祈る。この世界に。




 …………あれ?祝福が出来ない?

 急いで棺を確認した。間違いない。魂が無くなっている。

 ………間に合わなかったのか?

 ディークの魂は、もう…………



 目の前が真っ暗になった。友人の一人も救えず、何が大天使だ。

 ………
 ………………


 ごめん、それでもオレはやるべき事がある。だからもう行くよ。
 せめて、お前が守ろうとしたものをオレが守る。それが人形のようだったオレに世界を見せてくれたお前に出来る、残された恩返しだ。


 廟から出ると、デュランはオレが何をしていたのかを聞いてきた。でも、オレは黙った。誰よりも天使を恐れるデュランに、オレが大天使として何かをしていたなんて教えられない。


「ほら、そんな事を気にしてないで部屋に戻るぞ。」
「……何も、私には教えないんだな。」
「個人のことまで言及するつもりか?」


 そんな言葉で誤魔化して、何も言わずに部屋に戻った。これからデュランに抱かれると分かりながら。
 今までは何も感じなかったのに、なんで今はこんなにも心が拒絶しているのか。それは分からなかった。
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