【完】天使な淫魔は勇者に愛を教わる。

輝石玲

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44.情報交換

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 応接室に移動して、それぞれが席に着いた。
 白色が三人、勇者が二人。陛下、団長、ラドンさん、シュウ、俺。
 この中でミカが悪魔の国の番人だと知っているのが陛下とラドンさんと俺。人間じゃ無いことを知っているのが団長で、シュウはそもそもミカが人間じゃ無い事を知らなかった。

 ラドンさんとシュウには、ミカが過去に団長に天使だと偽った事を教えた。そして団長とシュウには、俺がミカと出会った経緯を教えた。


「……待ってください、ラドンはミカさんが悪魔の国の番人だと知っていたのですか?仇かも知れないのに何故信用をしてるのですか?」
「仇じゃ無くて、正真正銘の仇だ。嫁さんを殺した事は事実だし許すことも出来ねぇ。だからと言って敵対する気もねぇ。」
「何故!」


 団長の疑問ももっともだ。俺も何故ラドンさんがミカを野放しにしたのか理解していない。『報告のしようが無い』とは言っていたけど、それでもミカの正体を露見すれば仇の妨害くらいは出来るはずだ。


「……じゃあ聞くがヒルメル、お前がその手で葬ってきた悪人を覚えているか?」
「覚えていますよ。」
「なら、葬ったやつの家族や恋人、友人なんかは?」
「分かるわけ無いじゃないですか。」
「だろ?同じ事だ。あいつは自分たちの国の侵入者を葬ってきた。そこには侵入の意図だの侵入者の身内だのは関係無い。役目だから殺した、それだけだ。」


 ラドンさんの言葉は心無いように聞こえるが事実だ。団長も、手に掛けた悪党の家族のことなんて考えてはこなかった。国に仕え、悪を滅することに関しては団長とミカは同じだ。反論する資格すら持たない。


「それでも、私は誰かに恨まれる覚悟くらいは持ち合わせていますよ。ミカさんと私が同じなら、ミカさんだって貴方に恨まれて当然だと感じてもおかしくは無いはずなのに……」
「そうだな。事実、あいつが仇だって判明した時に…俺の銃を避けようとしなかった。簡単に死なないのかもしれねぇが、それでも仇打ちを受け入れようとしやがったな。」


「そう言えば、ミカは世界が壊れない限り不死身だって言っていたよ。」


 陛下が告げた言葉で、周りは静まり返った。
 かなりチートだとは思っていたけど、不死身……?今まで怪我をしても気に留めてすらいなかったのはそう言う事だろうか。
 不死身、か。聞こえは良いが、死ぬほどの苦痛を感じても、大切な人が死んでも、たった一人生き延びる。それは本当にいい事だろうか。


「教えてもらったことをそのまま言うと…『魂と体が世界と繋がってるから、その繋がりを断たない限り死ぬことは無い。そしてその繋がりを断ち切れるのは自分か神だけ。』らしい。」


 そうか、一応望めば終わることは出来るんだ。でもミカは生きてきた。それが『生きたいから』か、『死にたく無いから』か、あるいはそれ以外かは分からない。
 それに、世界との繋がりを断てるのはミカか『神』だけ。その神とミカは面識があるのだろうか。神は、一体どんな人物でどこで何をしているのか。


「陛下、他にも何か聞いていませんか?ミカに関する事、何でもいいです。少しでも……」
「分かってる。私があと教えられるのは、これから起こることの少しだけしか無いけど、ちゃんと教えるよ。」


 そして陛下からミカの行動の意味を聞いた。
 たった一人で天魔大戦を再開しようとしていた事。天使を滅ぼすまで戦い続ける気である事。人間の被害を少なくする為に各国の王にだけ伝えていた事。
 ただ一人で天使を滅ぼすなんて無謀にも感じられる。でも不死身だから可能なのだろう。
 …………
 不死身だから大丈夫、なんてどうかしてる。何度殺されても天使と戦い続けるという事だろう。もしそれが本当に出来たなら、それは正気では無い。
 それでも、俺に止めることは出来ない。


 突然ドアがノックされた。
 どうやら天使とミカが突然消えたという報告だったみたいだ。何が起きてるのか分からないけど、多分お互いに体制を立て直そうとしてるのかもしれない。

 天使……、何の抵抗も無く民間人を巻き込んだ恐ろしい存在。避難誘導の時に少しだけ様子を見たが、大きな魔法を撃ち続ける天使とは反対に、ミカはずっと接近で戦っていた。
 あまりにも周りを気にせず戦う天使の姿は、死神と呼ぶべきに感じてしまう。


「ところで少し気になったのですが…、シュウさんはどうして話を聞きに?ミカさんとの交流は無かったと記憶していますが…。」


 突然シュウに話を振った団長。俺も気になってはいたが、ただの好奇心や情報が欲しかったのだろうかと自己完結していた。


「その、現状を知りたくて…。タマキとアンナはそれぞれ持ち場から離れられないし僕は大して役にも立てないので、状況を知って二人にも教えようかと思ったんです。」


 タマキは地下に避難してる人達の相手をしている。特に混乱している子供たちの相手を上手くしているらしく、彼女が地下に行ったおかげで少しずつ落ち着いてきているそうだ。
 アンナは城の防護に回っている。サポート系の魔法が得意な彼女は、城の防御の中心核を担っている。彼女がいなければ既にここも崩壊していたかも知れない。

 そんな二人のサポートに回る判断をしたシュウは賢いと思う。何も出来ないからで終わらず、情報収集をするのは正しい判断だと思う。俺ならそんな立ち回りは出来ないだろうな。


「あと……」


 他にも理由があるようだが、そこから俯き黙り込んでしまった。
 しばらくしてようやく発せられた言葉は、理解するのに時間がかかってしまった。


「イオリさんから知らない、人間じゃ無い気配がしたので気になったんです。」


 それは、どう言う事だろうか。
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