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悪魔、人間の本拠地へ

31.勇者の『後』

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ーーーーーイオリーーーーー



ミカが飛び出したきり戻って来ない。たぶん、あぁなったミカは一夜明けるか人に連れられてこない限り俺のところに戻らないだろう。

……………

結局、何も分からないままだ。

ただ分かったのは、「それともいっそ、今お前を殺すか?」と言ったミカに殺気があったこと。俺を殺そうと思えば本気で殺す。そんな気迫。


何か、恨まれる事でもしただろうか。怒らせただろうか。ただ何も分からず心配になる。何かされたく無い事があるなら我慢せずに教えて欲しい。
今は探しに行きたい気持ちを抑え、ミカが戻るかもしれないこの場所で待ち続ける。そんなことしか出来ない。



くそっ…、何かを隠されてることは分かるのに。ミカが俺に何を隠してるのか知りたい。知られたく無いから隠してるのだろうと分かってはいても、知りたいと願ってしまう。

次会った時、直接聞いてみるしか無いだろうか。多分、答えは返ってこないだろうけど。それでも、聞いてみよう。







そう思っていた。でも、待ち続けている『次』はなかなか来ない。


丸一日待った。でも戻って来ない。団長に聞いてみても何も知らない様子。
陛下なら何か知ってるかもしれない。けど、俺から陛下に話しかけるのは勇気がいる。例えどんな気さくな王様でも、やっぱり人間としての差を感じる。それだけ『立場』というのは重要だということ。

待つだけではダメだ。やっぱり俺が探さないと。もしかしたら俺から来るのを待っているかもしれない。

でも、予定では明日に天使マイヤの絵を見ることになってる。その時には来るだろう。






団長によると、明日は俺たちの他にも勇者達全員が参加するらしい。いや、正確には他の勇者達が見る日に合わせた、と言う方が正しいか。元々彼らが見る予定だった日。それ以外の日は何日間にも渡って展示されてる部屋が使われるそうだ。だから合わせざるを得なかった。

なんだかんだ他の勇者とは関わっていない。そのせいで余計な緊張をする。他3人はまだ学生。言いつけも守らず城を出るような駄目な大人の俺にどんな印象を持ってるやら。



3人の勇者はそれぞれ学生らしい爽やかさがあった。
団長に少しだけ聞いたことある程度の3人だが、それなりに努力家で人は良さそうだ。


俺以外の男勇者、シュウ。
魔法適性が高い少年。品のある心優しい少年だそうだ。
早朝にたまに窓から剣を習う姿が見える。ストイックで真っ直ぐな性格なのだろう。苦手な事も挑戦し、努力している。

背の高い女勇者、アンナ。
魔法適性が高い少女。十六とは思えない程大人びてるそうだ。
金髪碧眼や顔立ちから海外系の子なのだろう。シュウとは違い、攻撃魔法ではなくサポート系の魔法を得意とするらしい。

背の低い女勇者、タマキ。
俺と同じく接近を得意とする少女。少し人見知りがあるそうだ。
最初見た時は小学生かと思ったが、どうやら二人と同じ十六らしい。今は騎士団長の元で剣を習ってるとか。




俺も3人も理不尽に異世界に呼ばれ、命をかけて戦えと言われた。しかも元の世界に帰る方法は無い。
ミカが目的を果たせば勇者の役目は無くなる。命の危険がなくなると同時に呼ばれた意味もなくなる。それをあの少年少女はどう受け取るだろうか。



ミカが、目的を果たした後……。俺はどうなる?
なんで唐突に絵を探すよう言ったのかも分からない。何か目的あっての事だろうけど、その目的を俺は知らない。
二人で、居れる…よな?




一日の終わり。ベッドから天井を見つめながらも考えた。ミカの行動の意味を。
俺に何か非があったのならそれはミカを知ろうとした事。少し強引で、その行動はミカのことを考えていなかったとも捉えられる。今までの行動を振り返ってもそれ以外の原因は見つからなかった。
ならばミカ個人の問題?何を隠してるかも分からないし、それを俺に教えようともしない。

たまに感じてしまうことがある。

俺は自分で、『ミカに好かれている』とは感じてる。でも、きっと『ミカに愛されて』はいないのだろう…と。
ミカからすれば俺は小さな存在なのだろうか。そう考えると、どうしようもなく悔しくなる。俺はミカと同じ時間を生きれない。人間だからミカに会えたと同時、人間だから僅かにしかそばに居られない。


俺はいつかミカを一人にする。ミカはそのことに気付いているのだろうか。


どこか寒く感じる。

そのままミカのいないベッドで1人で眠りについた。
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