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歪な物語の始まり

18. 初めて ❇︎

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これからの事か何となく決まった頃、既に日は沈み始めていた。心に余裕が出始め、自分が戻ってきたような気がする。
また一緒に飲もうと、夕食を早めに食べる事にした。簡単なものだけどオレがパパッと作る。
オレは甘い物しか美味しいと感じないだけで、他の味もわかる事にはわかる。オレの料理はなかなかに評判がいい。イオリも毎回美味しそうに食べてくれるから、作るのがちょっとした楽しみになってる。
ちなみに、イオリは料理が苦手らしい。実際に見た事は無いけど、かなりやりたがらないところを見ると何かしらやらかした事があるのかもしれない。

食事中、コンコンとノックの音。
今は人前に出られないオレの代わりにイオリがドアに向かった。声を聞く感じ、どうやら宿の人が何か渡しに来たようだ。
受け取ったイオリは、オレのとこにもそれを持ってきた。丁度食べ終わって、食器をシンクに出したオレはイオリから一枚の紙を受け取った。

「火の魔法石の点検…へぇ、一時的に熱系のものが止まるんだな。」
「って言っても一時間くらいだけどな。」

つまり、コンロがつかえなくなったりお湯が出なかったりする。
これから風呂にお湯を張ろうと思っていたから先に知れてよかった。食事も早めに作って正解だったらしい。まぁ、普通に魔法使えば良いだけだけど。

「んー…。今日は順番変えて、オレから入浴を済ませよう。」
「待て。」

いきなり止められてびっくりした。
どうやらオレが迷いなく水を浴びようとしたことに驚いたらしい。いや、そうは言っても数百年前まで魔法石で水を温めて浴びるなんて無かったからね?フツーに水。
一般的だったのは、桶に水を汲んでタオルで体を拭くこと。貴族とかだと熱湯と水を割ってバスタブにお湯を張っていたけど、オレは人間の国に来るまで普通に前者だった。
そう説明したらイオリは渋々了承した。

久しぶりに冷たい水で体を洗う。関所に籠る数十年前くらいにシャワーが普及し始めていたから、この感覚は懐かしく感じる。関所は普通に旧式だったけど。
なんて悪魔の国の事を思い出しながら水を浴びていると、若干の目眩がした。その原因は直ぐに分かり、早めに上がった。
人間を喰って多少腹が膨れたとは言え、媚薬はずっと体内を巡り続けている。
薬をズボンのポケットから出そうとした。が、姿を戻した時に見た目の歳に合わせる為、衣服のデザインも以前の物に戻してポケットが消えてる事に気が付いた。恐らく薬が入った袋はベッド付近に落ちているだろう。
酔いが遅くなっている内に薬を飲まないと、と急いで部屋に戻った。

しかし、部屋に入った瞬間、甘い匂いが押し寄せてきた。
クラクラする程の甘い匂い。今までも入浴後に感じる事のあった匂いだが、それがいつも以上に濃く、酔いを加速させて行った。

「あれ、上がるの早かったな。」
「………この匂い、イオリからする?」
「匂い?」

ベッドに座るイオリに近付くと、確かに甘い匂いは強くなっていった。イオリの前に来てそっと顔を近付け嗅いでみると、匂いの発生源を確信した。

「イオリから甘い匂いがする……っ!あ、れ………。」

それと同時に酔いが完全に回り、体から力が抜けてしまう。イオリにしがみついて肩に顔を埋め、そこから動けなくなってしまった。

「ミカ?これってまさかこの間の……。何が起きてるんだ?」
「っ媚薬…、オレ、の……っ、体液が……。イオリ、に……っ効果、掛からないよう…、抑、え…たら、オレの…身体、回って………。」

ダメだ…ちゃんと言葉にならない。薬を飲まないとなのに、動くことすら難しい。なんとかイオリは理解出来たようだけど、だからと言って酔いが収まるわけでもなく、イオリの体温も、匂いも、全部全部オレを狂わせている。
熱い、息が苦しい、鼓動がうるさい、視界が滲む。


「イオリっ……、ねぇ…欲しいよ。イオリが…欲し、くて…欲しくて……。」
「でも俺まだ風呂に……」
「っいらない、から!イオリの、匂い…消えちゃう……。」


オレの理性なんてほとんど消えていた。
オレにとって性行為は食事で、快楽を感じないものだとイオリは知っている。なのに、こんなに求めるオレを見て、イオリはどう思っているか。
人間にとって、大事な意味のある行為。会ったばかりの頃に拒絶されて以来、イオリに行為を求める事をずっと躊躇っていた。
大きな手でポンポンと頭を撫でられる感覚。それだけで安心して、力が抜ける。そして、耳元でイオリはちょっと不安そうに呟いた。

「……かなり、抑えられそうに無いけど、それでもいい?」

イオリも、オレを求めてくれているのか。オレを欲してくれているのか。それだけでも残り僅かな理性すら砕け散っていく。


「っ抑え、ないで……!イオリの求めるまま、オレに欲しいの……!」

「へぇ………言ったな?なら………」



イオリはメガネを外し、サイドテーブルに置いた。
そして、いつの間にかオレは押し倒され、前髪をサラリと耳にかけたイオリの顔が段々と近付いていた。イオリはそっとキスをすると、今まで見た事のない笑顔を浮かべていた。オレに対する、隠す気のない欲を。

「『止めて』って言われても、止めないよ?」

オレにとっての食事のはずなのに、まるで喰われる側にいる様に錯覚してしまう。そして、そんな状況に興奮している自分がいる。






唇を重ね、舌が絡み合う事にすら、オレは縋る様に必死に求めている。心地良いのに心落ち着かないそれを繰り返す内、イオリはその舌を奥深くへと滑り込ませて行った。そして口内を掻き回される度に、体が僅かに痙攣している。
ようやく口が離れた時、オレは困惑していた。

「………?何、今、身体、ゾクって……。」

それを聞いたイオリはオレの服をめくり、そのまま親指で肌をツっ…となぞった。下腹部へと向かうほどにゾクゾクは大きくなり、痙攣と共に腰が僅かに浮いた。

「っ!」
「あれ、ちゃんと感じてるな。……わかる?今、身体が反応してたけど。」
「ぅ…あっ、……!」

イオリは喋りながらも足の付け根の線をなぞった。
まだ頭が追いつかない。今感じたものが快楽なのだろうか。
身体が大きく痙攣し、声が漏れた。咄嗟にオレは両手で口を抑えたが、その手はイオリが大きな左手で掴み頭上へと押さえ付けられた。

「声、聞かせて。」
「ぇ…待って、やだっ!身体、おかし…っ!」

イオリは聞く耳持たず、指をズボンと肌の間に滑り込ませ、太ももを撫でる様にするりと脱がせる。その時さえも身体は反応した。
完全に露わになった下半身に羞恥を感じ、条件反射で脚を閉じたがまるで意味など無い。
イオリは簡単に閉じた脚を開き、酔いが回った時点で勃っていたそれにそっと触れた。先端から溢れ出ている雫を潤滑剤に、速いテンポで扱きだした。
ただ肌に指を滑らせるのとは全く違う。快感以外の何かが押し寄せてくる。

「あぁっ、ゃあっ、ダメ……っ、待っ、んっ…あっ……!はっ、な、んかくるっ、やっ、出るっ、でッ、っッ………!」

初めて感じる絶頂感。吐精するのも初めてだ。
『初めて』ばかりの快楽は、どうにもクセになりそうだ。他の人達が何故そこまで快楽を求めるか分からなかったけど、今なら分かるかも知れない。
イオリは一度、手についた精液をティッシュで拭き取る為、押さえつけていた手を離した。その間にオレは、欲しくて欲しくて仕方ないものの為に手を動かした。
必要以上に分泌液で濡れた肛門を指先で広げ、イオリを迎え入れる為の準備を。焦って上手く出来ないけど、久しぶりにするから念入りに解しておかないと。
イオリはオレの行動に気がつくと、僅かに身震いしていた。

「イオリっ……はやく、はやくきてっ……。」
「っあんまり煽るな…、ギリギリの理性が本当に無くなる。」

イオリは黒インナーを脱ぐと、オレの手に重ねて肛門に指を入れた。
自分でするのとは全く違う感覚。長い指が二本、深くまで入っていく。ナカで動くたびにヘソの辺りがきゅんとする。

「ミカ…痕を付けてもいい?」
「あ、と……?」

イオリはオレの首筋にそっと触れた。
キスマークのことだろうか。だとしたら、答えなんか一個しか無いじゃん。オレは、首筋のイオリの指に触れた。


「オレに『イオリのもの』って印、付けてくれるってこと?」
「………嬉しそうな顔、だな。」


指先で触れていた部分に舌を這わせると、強く吸い上げた。痛みまでは行かない強い刺激と、耳元に聞こえる吐息もオレを掻き立てる。
暫くせず肛門から指が抜かれた。その時、流れで理解した。ついに………と。

「ミカ、挿れるぞ。」

ゆっくりと迫り来る圧迫感。途中からはすんなりとイオリを受け入れた。とは言え、まだ奥に届く前から絶頂感に一気に近付いてしまった。
でもそれは、イオリも同じかも知れない。見ればわかる程に、気持ちよさそうな顔をしている。

「イオリも、気持ちい?」
「あぁ。正直、も、イきそ………。」

気持ちよさそうなイオリは、なんか可愛い。それでもずっと捕食者の様な瞳のままだ。
少し経つと、イオリは動き始めた。さっきまで届いていなかった奥まで挿れ、いきなり速く打ちつけ出した。奥に当たる度、絶頂ギリギリの快感が押し寄せる。

「っ、ごめん、もう出る…。」
「んっ、奥っ、おくに、だしてっ…!」

一番奥に熱いものが注がれていく感覚。絶頂感の近くで、熱を感じていた。
挿入っているとこの腹部をさすると、ナカでピクリと反応した。出したばかりで復帰するどころか、心無しかさっきよりも肥大しているように感じる。

「もう一回……。」
「うん。ねぇイオリ、ぎゅってしたい……。」






それから、数時間が経った。その頃にはオレも後ろだけで達することが出来るようになっていた。それにしても、イオリの絶倫っぷりには驚く。

「い、おり、もぉむりっ、だ…てぇ!」
「…俺の、求めるまま欲しいって、煽ったの誰だっけ?」
「ごめッ、っゃあ、また、いッ、っー!」


結局、オレは何度も絶頂を繰り返すうちに吐精しなくなった。空イキしか出来なくなったオレに対して、イオリはまだまだ底が無さそうだ。

「ぐすっ…。そんな、煽った気は無かったのに……。」
「……無自覚だったと?」
「思ったこと言っただけで、まさかこんなになるとか思わなかった。」

イオリはため息を吐くと、オレの頭を優しく撫でながらゆっくりと肛門から抜き出した。
何時間も挿入されたままで、既にイオリの形を覚えている。

「無理させてごめん。頼むから次からは言葉を選んでくれ……。」
「……オレ、何言ってた?」
「それは………いや、今思い出すものじゃ無いな。」

まぁ、再熱されても困る。
とりあえず後始末をしないと。ナカに出されたものは淫魔の特性で吸収されているけど、腹の上がドロドロだ。何度も射精したからか、媚薬の効果はもうほとんどない。
それにしても、今まで快楽を感じた事が無かったのにこんなになったのは、媚薬のせいと相手がイオリだったからなのかもしれないな。まぁ、とりあえずは……

ラドンと話した時の防音魔法、付けっぱなしでよかった。

オレや悪魔の国の話をするのに、万が一があったら困るとかけておいた防音魔法。他の事に気を取られて解除するのを忘れていた。
この宿は木造だから、思いの外声が外に漏れてしまう。オレがこんなに感じて喘ぐとは思わなかった。


とりあえず、防音魔法はそのままにしておこう。




ーーーーーイオリーーーーー




………調子に乗り過ぎた。
泣かせるほど無理をさせてしまった。俺にとって『初めて』で、自分のペースも相手のペースも全く分かっていない。体力とかの問題では無かった。

「本当に無理させてごめん…。」
「まぁ、結果的に媚薬も抜けて魔力の補給も出来たからいいよ。」

後始末を終え、軽くシャワーを浴びてもう寝ようと話た時、ミカの体の異変に気づいた。ミカがベッドから立ち上がろうとした時、力が入らずに座り込んでしまった事だ。

「あ、あれ?立てねー……。」

…………俺のせいか。
ちゃんと責任とって身の回りのことをした。やる事を終わらせ、ミカをベッドに運んだ時には既に夜明けの時間に近かった。
ちゃんと抑える事を覚えないと、本気でミカに飽きられかねない。

「いやぁ、まさかこんなにイオリと差があるとはな。」
「ゔっ……。」
「オレもちゃんと、最後までイオリに付き合える様に頑張らねーとだな!」

……ん?
俺は一瞬、聞き間違いかと思った。が、ミカはどうすれば最後まで俺に付き合えるか色々考え出していた。

「いや、俺に抑えるようにって言うと思ってたんだけど……。」
「抑えるなって言ったのはオレなんだから、言葉に責任くらい持つって。な?」

ベッドの中、明るい笑顔でそう言い放った。



結論・俺の恋人、イケメンすぎる。
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