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歪な物語の始まり

夢の中 ①

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 真っ白な場所。少し前まで嫌と言うほど見てきた光も影も無い空間。
 これは夢だとすぐに理解った。迷う度に見る夢。己の過去から作られる偽物か、オレの中に囚われた魂か。


 “また、迷子になっているね。”
「………」


 背後から聞こえる声。
 懐かしい声に、オレはずっと振り向けないでいる。それは過去と向き合えない、と言うことでもあると分かっていながら。


 “僕の言葉に縛られる必要はないのにって何度も言ってるんだけどなぁ……。”
「お前の願いを叶えたいと思ったのはオレだ。ディーク。」
 “でも、沢山の事を抱え込んでるんでしょ?そのせいで自分が分からなくなってる。”


 何も言い返せない。いつだってこいつは……ディークは正論をぶつけてくる。元・魔王とは思えない雰囲気と口調で。
 今もそうだ。自分勝手、好き放題に言ってくれる。だからこそ言葉を受け取りやすいけど。


 “これは僕からの提案なんだけどさ、一度全部忘れてみない?”
「は?」
 “相変わらず僕には当たり強いなぁ…。約束とか、命令とか、他人に預けられた思いを忘れて考えるの。そうすれば君が『どうしたいか』分かると思うんだ。誰かにぶつけるなら自分の本心が一番いいからね。”
「…お前みたいに?」
 “そ、僕みたいに!”


 いつでも笑顔を絶やさず気付けば周りを笑顔にするこいつは、いつだって勝手に支えになってくれていた。ずっと昔も、死んだ今ですらも。
 夢の中、オレはずっと自分が『どうしたいか』を考えていた。数こそ無かったが、絶対不変の願いを導き出すことが出来た。

 やっぱりオレは守りたい。これは自分の意思だ。
 オレは…大切な人とその大切な人を守りたい。


「あ、そうだ。大切な事を言い忘れてた。」
 “なぁに?”
「オレな、大切な恋人に『ミカ』って名前を貰ったんだ!ようやくお前に名乗れたよ。」
 “え、恋人!?それに名前を貰ったって、色々急過ぎて頭が追いつかないよ!”


 顔を見なくても簡単に間抜け面が思い浮かぶ。俺だってディークがいきなり結婚して子供が出来たと聞いた時は同じ反応をしたもんだ。少しくらい驚かせても良いだろう。


「そろそろ夜が明ける。オレは戻るよ、ディーク!」
 “そっか、残念だけど仕方ない。またね、ミカ!”






 ーーーーーディークーーーーー





『彼』は……ミカはいつぶりにここに来たっけ。この空間に時間なんて無いから分からない。
 僕が死んだばっかの頃はよく別の空間に呼ばれてたのに、今じゃこの何も無い空間に呼ばれるのがほとんどだ。

 別の空間。生前に僕たちがよく会ってた森によく似た空間。
 そこに呼ばれた時は、僕の子供や奥さんの事を教えてくれたり、色んな景色を見せてくれたりしてた。僕に思い出を見せてくれた空間。
 でも最近じゃ空っぽな空間に…虚無な空間にばかり呼ばれてる。


 “今の僕の願いは、他でもない君の幸せなんだけどな……。”


 そんな事を言っても僕の声は届かない。僕は外に出られない。こんな時、死んでるとなかなかに不便なものだ。
 でも、今は大切な恋人がいるらしい。その人がミカを救ってくれることを願うしか無い。



 “次は、あの森に呼んで欲しいなぁ。”

 幸せな景色を待ってるよ。僕の大切な親友。
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