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ただいま

144話 妖精の命

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今の状況が分からない
ただグドに後ろから抱きしめられてるだけ
別によくあるものだ
その筈なのに…何かおかしい

抱きしめる手が強い
何も言わない
なんだか、不安になる

「グド…?何が……」
「…なんでだろ、俺、どっかおかしいのかな」

ようやく何か喋ったと思ったら、グドは僕をベッドに押し倒した
杖がガランと大きな音を立てて倒れ、再び沈黙が訪れる
グドは何かを言おうとしてはずっと躓いて、気付けば泣いていた
グドが、泣く?


「なぁ、…本当にお前は鈍いな」
「え……」

なんで前世の名前を?
僕が鈍いのは今に始まったことじゃ無い
でも、僕はまた何かに気付けなかった?

「ぁ…いや、だ。ツバキ、やだ、捨てないで……」
「え?」

僕がグドを捨てる…?
一体何を…言って………

グドは僕の肩を掴んで壊れたように泣き出した

「やだ、また、俺を忘れ……」
「グド……?」
「……そ、だ。俺、おれはグド、ツバキじゃない。でも、おれは……」

何を言ってるのか分からない
でも、グドが怯えてる事は一目瞭然だ

「お願いだよ、ツバキ……。もう、俺を忘れないで、捨てないで……!」
「ぐ、ど…?なんで、僕がグドを捨てるなんて言うの?」
「覚えてない、お前は、お前は自分で忘れた。だって、覚えてたら分かる。俺が何なのか、知ってる」

支離滅裂だ…
でも、僕が自分で忘れた?
グドが何なのかを……?
何も理解出来ないまま、グドの不安が痛いほど伝わってくる

そしてそのままグドは泣き続けた





「ご、めーん!うわぁ…本当に俺ってば何やってんの!」

しばらく経ってグドはいつも通りになった
恥ずかしがるように顔を隠してバタバタしている
いつも明るくておてんばなグドがあんな風に泣くなんて、あまりにも印象が強すぎる

グドを不思議に思う事なんて山ほどあった
自分を物だと言ってみたり
僕のためなら何だってすると盲目的だったり
でもそれは妖精だからで片付けられる
でも、あの泣き方は…怖がり方は絶対に違う


僕が忘れたこと……
そんな簡単に思い出せないことは分かってる
でも、僕の大切な妖精の苦痛が分からないなんて嫌だ
だからといって馬鹿正直にグドに聞いても教えてはくれないだろう


「グド…おいで」

ベッドに座ったままグドを呼んで、抱きしめた

「ごめん、僕はグドが何に怯えてるのか分からない。でもこれだけは言える。僕は…グドを捨てたりしないからね」
「ツバキ…ううん、そうだよな。ありがとう、カメリア!」


結局、グドが何で急に泣き出したのか
僕がそれを知る事は無かった
それでも僕は再度自分に誓った
僕は、グドの命としてグドのために生きると
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