【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

輝石玲

文字の大きさ
上 下
146 / 161
ただいま

144話 妖精の命

しおりを挟む
今の状況が分からない
ただグドに後ろから抱きしめられてるだけ
別によくあるものだ
その筈なのに…何かおかしい

抱きしめる手が強い
何も言わない
なんだか、不安になる

「グド…?何が……」
「…なんでだろ、俺、どっかおかしいのかな」

ようやく何か喋ったと思ったら、グドは僕をベッドに押し倒した
杖がガランと大きな音を立てて倒れ、再び沈黙が訪れる
グドは何かを言おうとしてはずっと躓いて、気付けば泣いていた
グドが、泣く?


「なぁ、…本当にお前は鈍いな」
「え……」

なんで前世の名前を?
僕が鈍いのは今に始まったことじゃ無い
でも、僕はまた何かに気付けなかった?

「ぁ…いや、だ。ツバキ、やだ、捨てないで……」
「え?」

僕がグドを捨てる…?
一体何を…言って………

グドは僕の肩を掴んで壊れたように泣き出した

「やだ、また、俺を忘れ……」
「グド……?」
「……そ、だ。俺、おれはグド、ツバキじゃない。でも、おれは……」

何を言ってるのか分からない
でも、グドが怯えてる事は一目瞭然だ

「お願いだよ、ツバキ……。もう、俺を忘れないで、捨てないで……!」
「ぐ、ど…?なんで、僕がグドを捨てるなんて言うの?」
「覚えてない、お前は、お前は自分で忘れた。だって、覚えてたら分かる。俺が何なのか、知ってる」

支離滅裂だ…
でも、僕が自分で忘れた?
グドが何なのかを……?
何も理解出来ないまま、グドの不安が痛いほど伝わってくる

そしてそのままグドは泣き続けた





「ご、めーん!うわぁ…本当に俺ってば何やってんの!」

しばらく経ってグドはいつも通りになった
恥ずかしがるように顔を隠してバタバタしている
いつも明るくておてんばなグドがあんな風に泣くなんて、あまりにも印象が強すぎる

グドを不思議に思う事なんて山ほどあった
自分を物だと言ってみたり
僕のためなら何だってすると盲目的だったり
でもそれは妖精だからで片付けられる
でも、あの泣き方は…怖がり方は絶対に違う


僕が忘れたこと……
そんな簡単に思い出せないことは分かってる
でも、僕の大切な妖精の苦痛が分からないなんて嫌だ
だからといって馬鹿正直にグドに聞いても教えてはくれないだろう


「グド…おいで」

ベッドに座ったままグドを呼んで、抱きしめた

「ごめん、僕はグドが何に怯えてるのか分からない。でもこれだけは言える。僕は…グドを捨てたりしないからね」
「ツバキ…ううん、そうだよな。ありがとう、カメリア!」


結局、グドが何で急に泣き出したのか
僕がそれを知る事は無かった
それでも僕は再度自分に誓った
僕は、グドの命としてグドのために生きると
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ
BL
貴族の間で婚約破棄が流行し、歪みに歪んだサンドレア王国。 飛竜騎士団率いる悪役令嬢のもとに従者として転生した主人公グレイの目的は、前世で成し遂げられなかったゲームクリア=大陸統治を目指すこと、そして敬愛するメルロロッティ嬢の幸せを成就すること。 前世の記憶『予知』のもと、目的達成のためグレイは奔走するが、メルロロッティ嬢の婚約破棄後、少しずつ歴史は歪曲しグレイの予知からズレはじめる…… *主人公の股緩め、登場キャラ貞操観念低め、性癖尖り目、ピュア成分低めです。苦手な方はご注意ください。 *他サイト様にも投稿している作品です。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

処理中です...