上 下
134 / 161
ただいま

132話 優しい怒り

しおりを挟む
目が覚めて1週間で、なんとか壁伝いに歩けるようになった
既に体調は良くなってる
それでも動きづらいのは、僕の体そのものが駄目になったからだろう
きっと、簡単には元通りに動けるようにはなれないと思う
リハビリをして、普通に生活できるようになったら体づくりから始めないとだろうな
魔力も上手く取り込めない
アズに何度か流し込んで貰ったけど、体感では魔力が入って来る感じは無かった
体が拒絶をしているのかもしれない
僕の中には循環させる程の魔力すら無いから

魔力の検査を受けたら、魔力機関が壊れていると言われた
きっとこれが後遺症だろう
魔力機関は魔力を取り込み貯蔵する体内機関
臓器のような目に見えない体の一部で、本来であれば壊れたら命に関わる
殺人兵器の死亡リスクが高い理由だ
殺人兵器の薬は魔力機関の改造薬
壊して作り直すが上手くいかないと、壊れたままになって衰弱するか死ぬ
僕が衰弱程度で収まったのは奇跡かもしれない
でも、二度と魔力を使えないだろう


しばらくは杖をついて歩くことになる
部屋の中で少しでも歩いて、日常生活が送れるくらいにはなりたい
そう思いながら部屋をゆっくりと歩いてると、ドアが開いた

「ミリー!」
「エリー…ってわぁ!?」

エリーは僕に勢いよく抱きついてきた
そのまま地面に倒れ込んだけど、エリーが僕を抱きしめる手の力は強いままだ

「本っ当に…どれだけ周りを心配させれば気が住むんだ……!」
「ごめんなさい……」

エリーは震えていた
震えて、これ以上は何も言わなかった
何も言わない代わりにエリーは……

「エリー、泣いてる?」
「……もう、私たちは不死身じゃないし転生もしない。もう二度と会うことは無いんじゃないかって、怖くなるに決まってる」

気丈で強いミリーがこんなに泣くなんて思わなかった
姉が泣く姿は、前世を含んでも滅多に見たことが無い
僕は、彼女が泣くほどのことをしたんだ

「ごめんなさい、姉さん」

僕は、両手を地面についていないと後ろに倒れるだろう
その手を離してエリーを抱きしめ返すことも今はできない
それ程までに僕は無力化してしまった
……でも、それで良かったのかもしれない
もう、僕が誰かを直接傷つけることは無い
余計なこともできない
ある意味不自由になる事が一番の救いだったのかもしれない

「なんで…何も言わずに離れたんだよ………」
「……僕のせいでみんなを危険な目に合わせると思ったから。僕の目の前で色んな人が死んだり苦痛を味わってきた。みんなも同じようになるかも知れないって思ったら、怖くて離れるのが1番いいと思ったんだ。それに………」

言葉にすると自分勝手だ
でも、もっと自分勝手な理由だってある

「それに……僕はもう、ここにいたら駄目だって思ったんだ」
「なんで?ダメな理由なんて無いだろ」
「エリーは……僕が怖くないの?」

使用人達は僕を見て怯えていた
その理由はすぐに分かった
『最恐の神子』
罪人を裁いた時についた僕の二つ名らしい
それ程までに僕は恐れられている
でも、それは簡単に予想できていた

「僕は、僕がした事が周りから見て狂ってることは知ってた。みんなは僕を守ろうとしてくれたり、何かのために戦ってたのに、僕は自分勝手に虐殺した。恐れられて当然なんだよ?」
「ミリーの……ミリーのアホ!」
「!?」

え、エリーにアホって言われた…
それも力一杯
エリーの目には涙は既に無く、怒りで怖い顔になってる

「私が!お前を怖がる理由がどこにある!私だけじゃない、何人が心配したと思ってる!」
「ぇ、え…でも……」
「お前を恐れるのはお前を大して知らない奴だけだ!自分がどれだけ信頼されてるのか、愛されてるのかなんで分からない!?」

怒ったエリーには…姉さんにはいつも逆らえない
気圧されて言い返す事も出来ない
でも、荒い言葉とは裏腹に言っていることは優しい
……ありがとう、姉さん
真っ直ぐにぶつけられた言葉に、僕は少し気が楽になった
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息 就職に失敗。 アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。 自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。 あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。 30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。 しかし……待てよ。 悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!? ☆ ※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。 ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

サブキャラな私は、神竜王陛下を幸せにしたい。

神城葵
恋愛
気づいたら、やり込んだ乙女ゲームのサブキャラに転生していました。 体調不良を治そうとしてくれた神様の手違いだそうです。迷惑です。 でも、スチル一枚サブキャラのまま終わりたくないので、最萌えだった神竜王を攻略させていただきます。 ※ヒロインは親友に溺愛されます。GLではないですが、お嫌いな方はご注意下さい。 ※完結しました。ありがとうございました! ※改題しましたが、改稿はしていません。誤字は気づいたら直します。 表紙イラストはのの様に依頼しました。

ヒロインの兄は悪役令嬢推し

西楓
BL
異世界転生し、ここは前世でやっていたゲームの世界だと知る。ヒロインの兄の俺は悪役令嬢推し。妹も可愛いが悪役令嬢と王子が幸せになるようにそっと見守ろうと思っていたのに…どうして?

残念でした。悪役令嬢です【BL】

渡辺 佐倉
BL
転生ものBL この世界には前世の記憶を持った人間がたまにいる。 主人公の蒼士もその一人だ。 日々愛を囁いてくる男も同じ前世の記憶があるらしい。 だけど……。 同じ記憶があると言っても蒼士の前世は悪役令嬢だった。 エブリスタにも同じ内容で掲載中です。

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

処理中です...