【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

輝石玲

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新しい生活

112話 ボロボロのディン

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雨の中、猫を拾う感覚で人間を拾ってきてしまった
籠を玄関に置き、暖炉の前に椅子を移動させてそこに大男を座らせた
体温を上げないとと濡れた服を脱がせると、体中に包帯が巻いてあることに気がついた
包帯もぐっしょりと濡れていて、交換しないといけないだろう
そう思って取ると、まだ塞がりきってない傷が幾つもあった
思っていたより重症かもしれない
まさか、傷だらけでこんなとこまで来てたとは
そんなの自殺行為だ
ただでさえグドでも町から片道一時間近くかかるのに…
普通の人間じゃ倍以上かかるだろうに、何をしていたんだろう

大男の体と髪を拭き、包帯を付け直して毛布をかけた
うん、少しは体温が上がったみたい
頬に手を当てて確認すると、大男は目を覚ました
まだ意識はぼんやりしてるみたいだけど…あ、しまった
急いで左目を隠さないと……
なんとか置きっぱなしの包帯を器用に巻いて片目を隠した


「っ誰だ……」
「気分はどう?痛い所とか具合悪い所とか……」
「誰だ、答え…っ!」

大男は頭を抱えた
頭痛もあるのだろう
見たところ傷はないから、体調不良のせいだろうな
……あれ?
見間違いかな…
目の色が、紫と赤色で何度も切り替わってる……?
……わからないけど、とりあえず落ち着かせないと

「僕は…ミリー。貴方が倒れていた森で暮らしてる」
「倒れて…そうか。俺は……」

咄嗟に愛称を名乗った
カメリアと名乗ったら、僕の身分がバレるかもしれない
シソーラス王室の関係者である以上、神子の存在が知られていてもおかしくはない
ラディクス王国に報告でもされたら面倒だから、身分は隠さないと
町で買い物をする時もマントのフードを被って愛称を使っている
…そのせいか女性に間違われるけど

「悪いな、お嬢さん」
「おじょ……いや、それは後にして。貴方は多分シソーラスの関係者だよね。国の紋章が入った短剣を持ってたみたいだし」
「ははっ、学があるな。あぁ、俺はシソーラスの下っ端のディンだ」

ディン…
顔色が少し良くなったらわかったけど、結構若い?
多分二十代前半くらいの…って、僕は今19だった
僕の方が若いのか……?
いや、年齢については考えたらダメだ
黒い短髪と垂れ目気味の紫の目
さっき目が赤く見えたのは見間違えかな
顔立ちは若そうでも、その体躯と貫禄からもっと上に見えなくもない

「ディンはなんで森の深くで倒れてたの?」
「あぁ、それは…上司に無理難題を押し付けられてな。終わるまで帰れな…ハックション!」
「あ、ごめん…。貸せるサイズの服が無くてずっと半裸で居てもらうしか無くて……」

本当、2メートル近くあるんじゃないかなってくらいデカい
とりあえず白湯をあげた
すぐには良くならないだろうけど、できることはしておこう

「ディン、無理難題押し付けられたって言ってたけど、無理なら仕事を変えるとか考えなかった?僕が見つけなかったら多分死んでたよ」
「そうだなぁ…。でも、俺が動かねぇと家族に苦労かけるからな。そういえばお嬢さんは一人で住んでんのか?」
「いや、もう1人は仕事に行ってる。それと…僕はお嬢さんじゃ無いよ」

ディンは一瞬動きが固まると、ゆっくりと僕を見た
僕を見てもう一度固まって、ワンテンポ遅れて驚いた顔をした

「ま、まじか…。悪いな」
「……ふっ、ははっ、そんなに気付かないもんかな?」

ようやく間違えた認識を訂正出来たところで、外に気配を感じた
グドが帰ってきたんだ
グドは家に僕以外の人がいることに気付いたのだろう、ドアを開けようとする手を一瞬止めた
僕はタオルを持って玄関まで迎えに行った

「ただいま、誰かいるのか?」
「おかえり、森で死にかけの人を拾った」
「お前なぁ…」

呆れてるグドに心を読ませて伝えた
僕が愛称を名前として教えていること
それと現状を
僕達は逃げている身である以上は全員を警戒しないといけない
名前も姿も偽るか隠さないといけない
ディンは悪い人には見えないから余計に心が痛むけど、これは僕達の自衛だから仕方がない
そう割り切って濡れてるグドにタオルを渡した
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