【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

輝石玲

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役目を果たす時

96話 僕は『悪役』

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ドライアドの腕からずるりと落ちていくエリーを受け止め、そのまま僕達は地面まで落ちていった
僕はもう、飛ぶ事は出来ない

「エリー…エリー!」

呼びかけても返事は無い
当たり前だ
死んでも蘇るとはいえ、死ぬ条件は人間と同じ
心臓を貫かれて生きていれる訳が無い
死んでもすぐに生き返る訳じゃない
僕が一人で……たった一人で戦う?
二人でも敵わなかった相手を、僕一人で?
そんなの、無理…………


「……やってくれたわね、あの小娘!」


叫んだドライアドの方を向いてようやく気付いた
黒い光が消え、エリーの血液がドライアドの体内を這っている
そうか、エリーは真っ先にんだ
自分の命と引き換えに、ドライアドだけの力を無力化する為に

「全く、アイリス殿は無茶をするな」
「陛下!」
「私もカメリア殿の回復くらいなら出来よう。……託して良いか?」
「…………はい。僕が、やります」

戦い始める前の調子まで戻った
目の前でエリーが殺されたことで気は動転していたけど、そうだよね
頭のキレる姉さんが、ただ死にに行くような真似はしない
最愛に、国に、世界に託された以上は僕がやらないと

“お前は覚悟がワンテンポ遅いんだよなぁ”
「確かに、いつもギリギリだ」
“ま、退路が無い方がお前は強いんだけどさ!とりあえず、アイリスはラシルに任せていっちょやってやるか!”

グドの軽いノリで、緊張が解れて思考がクリアになった
大丈夫
確信はないけどそう思えた
………例え、ドライアドが未だに余裕の笑みを浮かべていても

「ふふっ、ようやく楽しくなって来たじゃない!今度こそ、退屈させないでよねぇ!」
「…いいよ、おいで?遊んであげよう」
「あらぁ…?貴方も狂ってるのね」
「ありがとう」


『殺さないと』じゃない
『殺していい』んだ
今の今までずっと忘れてた

僕は、『悪役』だ
自分の望みのためなら誰かを手にかけることすら厭わない


「それじゃあ…今度こそ終わりにしましょう!」


案の定、そこからの記憶は朧気だった
頭では理解できないまま、身体だけが解っていた
10分ほど戦った時の情報
相手の動き、力の入り方、自分がどう動けばいいのかまで、体が勝手に動くようだった
神の力と、グドの意識
僕一人では成し得ない、妖精と張り合えるほどの戦闘技術


そしてついにその時は来た
このままだと進展が無いと判断した僕は、戦い方を変えた

左腕を捨て、そのまま真っ直ぐにドライアドの胸の真ん中を剣で貫いた


「あ………はは、まさか、腕を捨てて来る…なんて………」


そして勝敗は決まった
ドライアドの体が薄く光り、白銀の粒子に変わっていく




剣が刺さったまま地に落ちたドライアドは、笑みを浮かべていた
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