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悪役と主人公

???

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反響する水の音
それが一番最初に感じたもの
次に、水の冷たさ
どうやら私は浅い何かに浸かってるみたい
それが本当にただの水かはわからない
ただ、鼻をくすぐる爽やかな自然の香りが心地いい
どこからか垂れてきた水が口に入る
少し甘い…?

本当に、ここはどこだろうか
……私は、誰?

ぼやけた頭でようやく目を開ける
刺すような強い光に段々と目が慣れていくと、周りの景色がよくわかるようになった
真っ白な…レンガ?
それと神々しい枝垂しだれた樹木
そこから水が垂れてるらしい
今はそれらしか見えない


今度は体を動かしてみる
指先は…問題無く動かせる
パシャと小さく水の音
ゆっくり体を起こしてみると、それが水では無いことに気が付いた
緑色の薬液のようなもの
薬臭くは無く、樹木からそのまま滲み出たような美しい緑だ
まるで、あの子の瞳の色……

『あの子』?
誰だっけ

目眩を耐えながら周りを見渡した
真っ白な空間
私は浅い泉で眠っていたようだ
この周りだけ自然が彩っている

「これは…だ、大神官様に報告しなければ!」

真っ白な服を着た女性が、私を見た後バタバタと部屋を後にした
何を急いでいるのだろうか

部屋をゆっくりと歩いてみたが、驚くほどに何も無い
真っ白な部屋に自然に囲まれた泉がある
それだけ
……いや、室内に泉っておかしくない?
ぼんやりとした頭で色々思い出してきた
そうだ、私は死にかけたんだ
でもそれから何があったか分からない
気付けば足元までの距離が遠くなって、髪の毛は引きずるほどに長くなって、見なくても分かるほどに胸が膨らんでいる

いつの間にか、成長したんだ

でも、この部屋に鏡は無い
自分の姿の確認方法が無い
泉は雫が落ち続けていて、水面は常に揺れてる

泉で髪の毛と服の裾を絞る
真っ白い無地の長袖ワンピース
くるぶし丈で水を含むとなかなか重い
濡れていても不思議と透けていない上に水捌けもいい
水着みたいな性質だ
生地の質感は違う気がするけど

髪の毛を絞ってる時に手に石が当たった
左耳にだけついてるピアス
外してみると、それは真っ赤な丸い石だった
よかった、ちゃんと無事だったんだ


長い髪をようやく絞り終えたころ
誰かが部屋に入って来た
報告を受けた大神官様かと思ったけど、全然違うみたい
神官の服装は例外なく白色
でも、部屋に入って来た彼女の服は黒一色のワンピースだ
後ろでまとめた銀髪と、自ら光を放つような青い瞳
彼女は私の近くへ来るなり胸に手を当てお辞儀をした

「ようやくお目覚めですか、我が主」

無愛想なまま私を主と呼んだ彼女を、私は知ってる
……どれくらい眠っていただろう
とても懐かしく感じる彼女は


私のために存在する、私の妖精だ
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