上 下
53 / 161
悪役と主人公

53話 二重の関係性

しおりを挟む
半月ぶりの剣の特訓
パーティー前の1週間は準備の為に禁止されていたから、それと安静中の1週間だ
準備運動の段階でだいぶ落ちていると感じた
仕方がないだろう
それでも、鈍くなる動きとは反対に、持久力は上がっているような気がする

本当はまだ安静にしていないといけない時期
それでも動いている訳で、流石に制限はついている
休憩回数を増やす事、あまり本格的な動きはしない事を条件に今動いている
時々足元がふらついてしまうから、僕自身も危険だとは思っている
だから、休憩回数が増えると言うのは丁度いい気がする

「………また視線を感じる」
「姉上もですか。聖女様も己の役目があると言うのに、呑気なものですね…」

僕のいる場所はローズの部屋の窓から見えるようで、何度も痛い視線を感じる
そりゃあ、彼女からすれば敵が力を付けようとしているのだから、良くは思わないだろう

良くは思わないだろうとは思ったけど……

「ちょっと、どういうこと!?」

特訓後に部屋まで押しかけるのは完全に予想外だ
汗をかいて服の中が気持ち悪いのに、このままだとシャワーを浴びれない
ここまで来るとシャワールームまで押しかけられそうで怖いからだ

「一応聞きますが、何がですか?」
「あなた、なんで剣を習ってるの!?まさか、私を殺すためじゃ無いでしょうね!」

あ、そうしよっかな
なんて余計な思考は一旦しまって
僕が剣を習っているのは、あくまでも守る為のもの
誰かを傷つける物では無い
そう告げたが、聞く耳持たずに騒いでいる

そんな時に、ノックが聞こえた

「姉上、昨日言っていた物を受け取りに来ました」
「アズ様!すいません、部屋に入って待っていてもらえますか?」

アズの声が聞こえると、ローズは驚きで絶句していた
ローズはアズの声が聞こえるなりパッパとドレスを整えた
心無しか普段よりも目を輝かせているようにも見える

「失礼しま……」
「アズ様ぁ!びっくりしました!まさかこんなところで会えるなんて!」
「……何故、貴女がここに?」

アズは露骨に嫌そうな顔をした
引き攣った苦笑いで
それもそうだろう
そしてそれに気付かないローズ
どこまで脳内お花畑なのだろうか

「アイリスとお話ししてたんです!ね、アイリス!」
「私は貴女の入室を許可した覚えはありません。一方的に話しているだけです」
「え?なんでそんな冷たい事言うんですか……?」

肩と声をふるふると震わせて僕を悪役に仕立て上げようとしている
が、残念ながらアズには効かないだろう
僕が彼女を良く思っていない事をアズは知っているし、アズも彼女を良く思っていない事は見て取れる

「聖女様、すみませんが大切な用がありますのでご退室をお願いします」
「あ、アズ様…?私、アイリスに……」

アズの対応に驚いているローズは、アズに手を伸ばした
が、その手は無慈悲に払われてしまう
アズ自身に
そして、彼が放った言葉により、ローズは絶望の顔に染まった

「私の主に対する侮辱をしないで頂きたい」
「あ、るじ……?」

アズは僕の専属魔法士だ
一応は主従関係にある
普段は主従では無く兄弟として過ごすようにお互いにしている
が、ここで僕とアズの関係を利用するのは一番効率がいいと言えるだろう
事実、ローズは一言も発する事無く部屋を後にした
攻略対象全てを攻略する逆ハーレムエンドを狙っていた彼女にとっては大きな誤算と痛手だったのだろう
心の中で僕は思った

このヒロインになら勝てるような気がする、と
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

全マシ。チートを貰った俺の領地経営勇者伝 -いつかはもふもふの国-

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:4,226

人違いの婚約破棄って・・バカなのか?

BL / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:3,679

ボクは隊長さん?

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:449

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:197,363pt お気に入り:7,485

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:341

演劇少女は、新妻(ジュンヌ・マリエ)の人生を紡ぐ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:11

処理中です...