【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

輝石玲

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崩れていく、何もかも

39話 アズの誕生日

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心地の良い朝日の刺す寝室
あまりにも眩しく、僕は手で目を覆った
………いや、目を覆った理由は

「アズの誕生日になってしまった……」

にも関わらず、プレゼントが用意出来ていないどころか決まってすらいない絶望だった



僕の誕生日から2週間経った
アズやグド、沢山の人から沢山のお祝いを貰っておきながら僕は何も思い浮かばなかった
誰かの誕生日を祝うなんて11年ぶりだ
そもそも祝った事があるのはアイリスと亡くなった母様と……公爵は祝った事ないか
昔から公爵は僕と極力関わらないようにしていたから
あとは前世の僕の姉
つまり血縁者しか祝った事が無い
ハルジオンは王太子だったから城でパーティーが行われたし


つまりは、こういう時どうすればいいのか分からないのだ
何か贈る財力も自由もあるというのに、全く思い浮かばない
何が喜ばれるだろうか?
とはいえアズは王子
欲しいものは自分で大体は手に入る
僕にしか贈れない物?

何かあるのか?


“あるじー!目が覚めてるのに何で起きないんだ?”
「グド……どうしよう…………」
“あー、なるほどぉ……”


心を読み、苦笑するグド
ふわふわと飛んだまま、口を尖らせ首を傾げて悩んでいる
一緒に考えてくれているようだ
考え始めて間も無く、グドはニヤリと笑った


“まー大丈夫じゃない?帰ってきたら直接聞いてみよう!”
「それじゃあ駄目でしょ?」


なんて言って僕も苦笑した
していたら………

あっという間に夜になった
結局何も思い浮かばず、何も用意出来ないまま一日が終わりかけていた
大きなため息を吐き気分が底辺まで落ちていると、部屋にアズが来た


「アズ様、お誕生日おめでとうございます。あの…」
「?ありがとうございます。元気がない様に見えますが……」
「その……ずっと考えてたんですけど、贈り物が何が良いか決められなくて……。ごめんなさい、アズ様はとても素敵なものをくださったのに」


2週間ずっとずっと考えて思い浮かばないなんて、とてつも無く失礼だろう
印象が悪くなってしまっただろうか
ガッカリさせてしまっただろうか


「……それなら、一つお願いを聞いてくれますか?」
「あ、はい!もちろんです!なんでもしますよ」
「何でも……では」


流石になんでもは言い過ぎただろうか
それでも、あんなに素敵なものをくれたアズに妥協するつもりは一切無い
一体何を望むのだろうかとドキドキしていると、いつの間にかアズの顔は文字通り目と鼻の先にあった


「ぇ……」


僕は驚き条件反射で目を閉じた
唇が熱くなったと思うと、僅かに魔力が消えた
が、魔力の消費はどうでも良かった


「い、今…えっ……!?」
「やはり、随分と特殊な……」
「何したんですか!?」


何の為にとか関係無く、僕のファーストキスはこの瞬間奪われてしまった
かなり動揺している僕にアズはずっと謝っていた
専属魔法士になる時に手の甲に口付けた時と同じように、僕の唇はしばらく熱を持っていた
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