【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

輝石玲

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変化とはあまりにも速い

22話 本当の名前を

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大振りの雨は瞬く間に血を洗い流していった
錆びた鉄の臭いも、目の前に広がる赤色も
それでも自分の赤色だけは消えない
だからこそ僕はずっと怯えていた


「姉上!気を確かに、姉上!」


アズは、雨の中ずっと僕のそばに居た
傘も刺さずに
いつもの僕なら『アズ様まで濡れて風邪をひきますよ』『私は大丈夫です』何かしら言葉をかけるだろうけど、今はそんな余裕はなかった


「ごめっ、ごめんなさっ…!僕は…僕、が……!違っ、僕じゃ……」
「姉上っ…!」


何もかも分からずにただ何かを言い続けている乱心した僕には、自分の髪の毛すら血に見えてしまっていた
ジルに隠してもらっていた記憶は今までで一番鮮明に思い出し、正気を保って居られる訳もなく
言葉にならない声をずっと吐き出していた


「ごめ…!僕、こんな…!ゔっ、ぼ…く、が、殺しっ……!」
「姉上、姉上!っ………カメリア!」


僕が正気に戻ったのは、アズが僕の本当の名前を呼んで抱き締めてきた時だった
アズは僕を抱き寄せて肩で目を塞いだ
目の前は真っ暗になり、赤が見えなくなった


「落ち着けカメリア、私は何があってもお前の側にいるから。護れなくてすまない」
「あ、ず……?」
「ああ、私はここにいる。今度こそ、ちゃんと護るから今は『おやすみ』カメリア」


脳内に直接響くような声
僕はいつの間にか眠っていた







「アズ兄様」

ボクは眠った姉様を抱えた兄様の後ろから声をかけた
本当はずっと兄様の後ろにいたんだ
だから、全部聞いていた


「兄様、どういうことですか?」


ボクは、姉様が『悪女』と呼ばれている事を知っていた
なんでそう呼ばれていたかも
最初から知っていた
それでも、初めて見た時から何かを感じていた

ハル兄様と姉様の結婚式の時
式が行われたのは城なのだから当然ボクもいた
とは言え自室から式を行なっていた庭園を見るくらいだったけど
ボクは人より五感が優れているらしい
遠目でもハッキリと見えた姉様はとても美しく、あの容姿と振る舞いなら悪女と呼ばれていてもおかしくはないと思っていた

でも、人目の無い場所だと違った
他の人達が兄様に注目している時、姉様から注意がそれた時は本当の顔が見えたような気がした
苦しそうな、悲しそうな顔
本当に悪女なのだろうかと一度疑問を持ってしまえば気になって気になって仕方が無くなる
だから、初めてちゃんと話した時に知らないフリをした
案の定、姉様はとても優しい人だった
だからボクは姉様の大きな嘘に気が付かなかった
よく見れば分かったのに


「姉様は、アイリス様はカメリア様なんですか?アイリス様の弟の……」
「っ……リージュ、絶対に他の人には言わない事。兄上にも、カメリア本人にも、だ」


アズ兄様がここまですると言うことは何かあるのだろう
でもまさか、姉様が兄様だなんて考えもしなかった
後で兄様にちゃんと事情を聞かないと、だな
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