【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

輝石玲

文字の大きさ
上 下
19 / 161
変化とはあまりにも速い

19話 臆病者に剣を

しおりを挟む
空模様が変わった
日差しの強かった空は暗雲に包まれた
冷たい風が吹き始め、今にも振り出しそうな空気が漂っている


「アイリス様、少々よろしいですか?」
「騎士団長様?ええ、大丈夫ですよ」


騎士団長は一礼し跪き、手に持っている細身の剣を差し出した


「こちらをお渡ししようと思いまして…」
「剣を私に…?それもこんなに綺麗な………」


細かなデザインで彫られた深紅の陶器のような鞘に納められている剣
傷も汚れもない美しいものだ


「一度人の手に渡った物で申し訳ないですが、細身で軽いのでアイリス様にどうかと思いまして。あ、一度も使った事はありません。私に赤は似合わなかったので……」
「あ、ありが………」


剣に触れようとしてハッとした
僕は騎士を殺した悪女と呼ばれてるのに、何故剣を渡そうとしたのだろうか
何を考えているのか分からない
これは受け取るべき?
それとも断るべき?
僕は試されているのだろうか
なんでもいい
僕はこれを受け取るべきではない
受け取っていいような人じゃ無いから


「申し訳ありませんが、受け取れません」
「え…?何故ですか?」
「私が誰か分かって言っていますか?」


何も分からない
善意だとは考えられない
何を企んでいるのだろうか


「やはり……そうですよね」
「っ!」
「レディに剣を贈るのはやはり不躾でしたか」
「え……?なっ、違いますよ!だって、私は悪女なんですよ?騎士を何人も殺した……。そんな人に何故剣を贈るなんて考えられるんですか!?」


分からない
分からない分からない分かんない!
僕が悪女だと聞いたことが無いのだろうか
いや、そんな筈ない
一般騎士達まで噂する程なのだから耳に入っている筈だ



「何故、か……。剣を交えて確信しました。アイリス様が本当は心優しい方だと」
「え……?」
「強い防護魔法をかけているにも関わらず、相手に怪我をさせないように立ち回ってましたよね。本当はもっと速く私に勝てたのに」


何を言っているのだろうか
僕は全力だった
勝てたのだってまぐれだ
なのに一体……



「私はあれが最大限の力でした。貴女の攻撃を防ぐことしか出来なかった…。けど気付いたんです。わざと防げるように動いていたと……」

………それはその通りだ

「本来ならば死んでいるであろう状況を作れば確実に勝ちです。腹部を突く、頭を叩く、足払いをかける…。方法はいくつもある中で何故体の限界まで動いたのか、それは首にそっと当てる以外に直接剣を当てる必要が無いようにしていたから。違いますか?」


その、通りだ……


ようやく自分で気付いた
頭の中では本気で行っても大丈夫だろうと思っていても、体はそれに逆らって遠回りをしていた
ただ殺すだけなら、相手より速く動いていくつか傷をつければいい
でも僕はしなかった

僕は心優しくなんて無い

僕は自分で思ってる以上に、臆病者だったんだ
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ
BL
貴族の間で婚約破棄が流行し、歪みに歪んだサンドレア王国。 飛竜騎士団率いる悪役令嬢のもとに従者として転生した主人公グレイの目的は、前世で成し遂げられなかったゲームクリア=大陸統治を目指すこと、そして敬愛するメルロロッティ嬢の幸せを成就すること。 前世の記憶『予知』のもと、目的達成のためグレイは奔走するが、メルロロッティ嬢の婚約破棄後、少しずつ歴史は歪曲しグレイの予知からズレはじめる…… *主人公の股緩め、登場キャラ貞操観念低め、性癖尖り目、ピュア成分低めです。苦手な方はご注意ください。 *他サイト様にも投稿している作品です。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...