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変化とはあまりにも速い
19話 臆病者に剣を
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空模様が変わった
日差しの強かった空は暗雲に包まれた
冷たい風が吹き始め、今にも振り出しそうな空気が漂っている
「アイリス様、少々よろしいですか?」
「騎士団長様?ええ、大丈夫ですよ」
騎士団長は一礼し跪き、手に持っている細身の剣を差し出した
「こちらをお渡ししようと思いまして…」
「剣を私に…?それもこんなに綺麗な………」
細かなデザインで彫られた深紅の陶器のような鞘に納められている剣
傷も汚れもない美しいものだ
「一度人の手に渡った物で申し訳ないですが、細身で軽いのでアイリス様にどうかと思いまして。あ、一度も使った事はありません。私に赤は似合わなかったので……」
「あ、ありが………」
剣に触れようとしてハッとした
僕は騎士を殺した悪女と呼ばれてるのに、何故剣を渡そうとしたのだろうか
何を考えているのか分からない
これは受け取るべき?
それとも断るべき?
僕は試されているのだろうか
なんでもいい
僕はこれを受け取るべきではない
受け取っていいような人じゃ無いから
「申し訳ありませんが、受け取れません」
「え…?何故ですか?」
「私が誰か分かって言っていますか?」
何も分からない
善意だとは考えられない
何を企んでいるのだろうか
「やはり……そうですよね」
「っ!」
「レディに剣を贈るのはやはり不躾でしたか」
「え……?なっ、違いますよ!だって、私は悪女なんですよ?騎士を何人も殺した……。そんな人に何故剣を贈るなんて考えられるんですか!?」
分からない
分からない分からない分かんない!
僕が悪女だと聞いたことが無いのだろうか
いや、そんな筈ない
一般騎士達まで噂する程なのだから耳に入っている筈だ
「何故、か……。剣を交えて確信しました。アイリス様が本当は心優しい方だと」
「え……?」
「強い防護魔法をかけているにも関わらず、相手に怪我をさせないように立ち回ってましたよね。本当はもっと速く私に勝てたのに」
何を言っているのだろうか
僕は全力だった
勝てたのだってまぐれだ
なのに一体……
「私はあれが最大限の力でした。貴女の攻撃を防ぐことしか出来なかった…。けど気付いたんです。わざと防げるように動いていたと……」
………それはその通りだ
「本来ならば死んでいるであろう状況を作れば確実に勝ちです。腹部を突く、頭を叩く、足払いをかける…。方法はいくつもある中で何故体の限界まで動いたのか、それは首にそっと当てる以外に直接剣を当てる必要が無いようにしていたから。違いますか?」
その、通りだ……
ようやく自分で気付いた
頭の中では本気で行っても大丈夫だろうと思っていても、体はそれに逆らって遠回りをしていた
ただ殺すだけなら、相手より速く動いていくつか傷をつければいい
でも僕はしなかった
僕は心優しくなんて無い
僕は自分で思ってる以上に、臆病者だったんだ
日差しの強かった空は暗雲に包まれた
冷たい風が吹き始め、今にも振り出しそうな空気が漂っている
「アイリス様、少々よろしいですか?」
「騎士団長様?ええ、大丈夫ですよ」
騎士団長は一礼し跪き、手に持っている細身の剣を差し出した
「こちらをお渡ししようと思いまして…」
「剣を私に…?それもこんなに綺麗な………」
細かなデザインで彫られた深紅の陶器のような鞘に納められている剣
傷も汚れもない美しいものだ
「一度人の手に渡った物で申し訳ないですが、細身で軽いのでアイリス様にどうかと思いまして。あ、一度も使った事はありません。私に赤は似合わなかったので……」
「あ、ありが………」
剣に触れようとしてハッとした
僕は騎士を殺した悪女と呼ばれてるのに、何故剣を渡そうとしたのだろうか
何を考えているのか分からない
これは受け取るべき?
それとも断るべき?
僕は試されているのだろうか
なんでもいい
僕はこれを受け取るべきではない
受け取っていいような人じゃ無いから
「申し訳ありませんが、受け取れません」
「え…?何故ですか?」
「私が誰か分かって言っていますか?」
何も分からない
善意だとは考えられない
何を企んでいるのだろうか
「やはり……そうですよね」
「っ!」
「レディに剣を贈るのはやはり不躾でしたか」
「え……?なっ、違いますよ!だって、私は悪女なんですよ?騎士を何人も殺した……。そんな人に何故剣を贈るなんて考えられるんですか!?」
分からない
分からない分からない分かんない!
僕が悪女だと聞いたことが無いのだろうか
いや、そんな筈ない
一般騎士達まで噂する程なのだから耳に入っている筈だ
「何故、か……。剣を交えて確信しました。アイリス様が本当は心優しい方だと」
「え……?」
「強い防護魔法をかけているにも関わらず、相手に怪我をさせないように立ち回ってましたよね。本当はもっと速く私に勝てたのに」
何を言っているのだろうか
僕は全力だった
勝てたのだってまぐれだ
なのに一体……
「私はあれが最大限の力でした。貴女の攻撃を防ぐことしか出来なかった…。けど気付いたんです。わざと防げるように動いていたと……」
………それはその通りだ
「本来ならば死んでいるであろう状況を作れば確実に勝ちです。腹部を突く、頭を叩く、足払いをかける…。方法はいくつもある中で何故体の限界まで動いたのか、それは首にそっと当てる以外に直接剣を当てる必要が無いようにしていたから。違いますか?」
その、通りだ……
ようやく自分で気付いた
頭の中では本気で行っても大丈夫だろうと思っていても、体はそれに逆らって遠回りをしていた
ただ殺すだけなら、相手より速く動いていくつか傷をつければいい
でも僕はしなかった
僕は心優しくなんて無い
僕は自分で思ってる以上に、臆病者だったんだ
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