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「私」の秘密を

8話 初めて兄に逆らった日 (アズ)

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姉上を部屋まで送り、姉上の唯一の侍女に一部だけを報告した
話している最中に体調を崩した事
休ませて吐き気止めを飲ませた事
それだけを説明した

恐らくあの侍女は姉上がカメリアである事を知っている
だから1人なのだろう




10年前、兄上が11だった頃

事故の前までは仲が良さそうだった
アイリス嬢に会った後、内容こそ覚えてはいなかったが兄上は楽しそうに話をしてくれた
会っていない間に悪女と呼ばれるようになったからと、あそこまで信頼性を失うだろうか

何か理由があるのでは無いだろうか



自室に戻ると、兄上は屑籠や作業台を見ていた

「戻ったか」
「ええ、何を見てるんですか?」
「お前が作業台を散らかしているのが珍しくてな。それに、屑籠に液体が入ってるのも不思議で…」


早く片付けておくべきだった
昨夜の事が今の事ように脳裏に映る
薬の調合をした器具も、姉上の吐物もそのままだった


「言いましたよね、姉上が体調を崩したと」
「まさか薬を?軽い体調不良ならお前が魔法で治せるだろう」
「そうですね。本当に治せますよ」


姉上の体調不良は精神的な問題だろう
魔法を使っても意味は無かった


「まさか、重い病だとでも?」
「そこまではまだなんとも言えません。ただ、私が姉上を運んだ時に違和感を感じませんでしたか?」
「違和感?」
「何故、腕力の無い私があんなに簡単に運べたと思います?」
「魔法を使ったからじゃないのか?」
「違いますよ。魔法を使わなくても運べるくらい軽かったんです」


同じ歳で本当に男女くらいの身長の差があった
だとしてもだ


「いくら何でも…」
「体感で言えばまだ12のフリージアと同じくらいでした」


第4王子のフリージアは姉上より小さい
決して太っているわけでも無い
それと同じ位だ
軽すぎる


「アズ、さっきからアイリスを守ってはいないか?」
「本当の事を言ったまでです」
「何を吹き込まれた」
「何も吹き込まれてなどいません。ただ…あの状態を見て姉上が“悪女”だなんて信じる方が難しいです」


どれだけ何を言っても意味はないだろう
それでも私だけは姉上を、カメリアを守ると決めた
私が嫌いな事の1つが『理不尽な事』
それを私がしてしまった
私が出来る事をしたい
そして償いたい



「何故、兄上は姉上を嫌うのですか。姉上が悪女と呼ばれているからではないですよね」
「アイリスさえ、あの女さえいなければ大切な人が俺の元を離れる事は無かった。それが理由だ」
「………兄上、想っている人がいるんですか?」
「もう今更だ。俺はあの女に復讐する、手伝ってくれるよな?」


「……申し訳ありません。私は姉上を守ると決めたのです」



この日、私は初めて兄上に逆らった
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