【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

輝石玲

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「私」の秘密を

7話 分かっていても

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弟が出来た
同じ歳の弟が
心を開いてくれたのかはさておき、僕のことを姉と呼んだ

「さて、もう朝になってますし部屋に戻りましょう」
「…そうですね」

まだ、思う事はあった

「アズ様は、正直気持ち悪いって思いましたか?」
「え?」
「男が男を好きでいる事を」

前世、全ての人がと言うわけでは無いにしても受け入れてはもらえなかった
だからこそ囃し立てられてしまったのだが
受け入れてくれた友人の1人は、少しずつ距離を置き始めてしまっていたし……
結局、最後に残った友人は僕と似て異なる『普通から外れている』人だけだった

「気持ち悪いとは思いません。ただ、考えた事すら無かったので…」
「そうですか…まぁ、そうですよね」

ここは乙女ゲームの世界なのだから
ヒロインの為だけの世界なのだから……

アズは籠から綺麗に畳まれたショールを持って来てくれた


「ありがとうございます。それでは私は部屋に戻りま…っ!」
「姉上!無茶はしないでください」


体力が回復していないのだろうか
立ち上がることすらままならない
息を整えてもう一度立ち上がろうとすると、ノックの音が聞こえた

「アズ、入るぞ」
「兄上…!」

ドアが開き入って来たのは、僕の夫であるハルジオンだった
当たり前だが、弟の部屋のベッドに寝巻きで座る妻にいい顔はしない
だが、僕達はただのでは無くとも兄弟で、何も後ろめたいことは無い


「アズの部屋に何故お前がいる?」
「申し訳ありません、お話していたところ体調を崩してしまい……」
「アイリス、お前もここまでするとはな」
「え…?」


冷たい目をしている
そもそもハルジオンが僕にいい印象がない事は分かっている
だとしても、何も信用されて無いとは思いたく無かった


「大切な弟にまで手を出すとは思わなかったぞ」
「……していません」
「なら何故いる?」
「だから、体調を崩して………」


どれだけ言っても聞きはしないだろう
全てが無駄に思えて来た
どう足掻いたところで僕はヒロインにはなれない
愛される事も、信じて貰うことすらも出来ない

意味なんて無い


「沈黙は認めたと言う事でいいんだな」
「兄上、姉上の言っている事は本当です」
「「!」」

僕を庇ってくれたのはアズだ
つい先程まで僕のことを『兄に害なす存在』として見ていた彼が、僕の正当性を唱えてくれた

「今、姉上は立つ事すら出来ない状態です」
「何故?」
「姉上を部屋まで送ったら説明します。それまで私の部屋で待っていてください。姉上、失礼します」


アズは軽々と僕を横抱きで抱えた
どうすればいいのか分からないまま、大人しくしていた


「アズ、お前には重いだろう。俺が…」
「女性に重いは失礼です。とても軽いのでご心配無く」
「だが…」
「触れたくも、無いのでしょう?」
「っ、部屋で待ってる」

2人の冷たい声
数時間前に仲睦まじく話していた時と全く違う、冷たい空気
僕の所為だろう
僕の所為で2人の間に亀裂が入ってしまったのかも知れない


「ごめんなさい、姉上。姉上の前で言う事じゃ無いですよね」
「いえ、分かってましたから。私にはむしろ都合が良いですよ」

せめて、僕が妹として産まれていれば違かっただろうか


「ところで…アズ様は演技をしてたのでしょうか」
「…ん?」
「昨夜とあまりにも違いすぎて…」
「姉上、忘れてください」

どうやら猫を被っている様だ
思いっきり目を逸らされた
思わず少し笑ってしまった


「………そういう風に笑えるんだ」
「? 今、何か?」
「いえ、なんでも」



緊張が解けたからか、部屋に着く頃には歩ける様になっていた
支えが無いときつかったが、壁伝いに部屋に入り休んだ
起きたばかりなのにまた、眠ってしまった
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