【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

輝石玲

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「私」の秘密を

3話 あの人には言わないで

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風の冷たい夜
入浴を済まし、ベッドの中で微睡んでいた
また無意味な1日を過ごしてしまったと、日課のように思いながら

しかし、突如扉を軽く叩く音がした
部屋を出ようとしたジルが客人を確認しに行くと、そこに居たのはアスフォデルだったようだ
僕は急いで大きめのショールを掛けてアスフォデルの元へ向かった


「申し訳ありません、こんな夜更けに。少しお話し出来ないでしょうか」

優しい瞳で笑いかけるアスフォデル
特に断る理由も無いため、ついて行くことにした


アスフォデルの後をついて行くと、そこは屋根裏部屋だった
シンプル且つ繊細なデザインの机とソファ
大きな窓
屋根裏部屋と言ってもやはり王宮内
とても清潔だ


「ここなら落ち着いて話せると思いまして。ほら、外の眺めも綺麗ですよ」
「そうですか…私はあまり高いところは……」
「あ、申し訳ありません。配慮すべきでしたね」

前世でも今世でも僕は事故で崖から落ちているからか、高い所は得意で無い

「所でアスフォデル王子殿下…」
「アズで結構です」
「分かりました、では私もアイリスで。それで、アズ様は何か聞きに来たのですか?」


こんな時間に2人だけで話そうとするなら、それなりの要件があるはず
ゲームで見た情報から、僕が悪女と呼ばれているからと遊びで手を出すような人では無いから安心していた
アズが入れてくれた温かいミルクティーを飲みながら会話を始めた


「兄上に聞きました。お互いに愛の無い結婚だったと」
「お互いに……」

僕の一方的な片思いではあるが
それでも望まない結婚に違いはない

「正直な所、アイリス様は兄上の事をどう思ってますか?」
「どう、とは………?」

質問の意図が掴めずに内心焦った僕は、甘い花の香りのするミルクティーを飲み落ち着こうとした

「兄上に対して、どう言った感情を持っているのでしょう」
「私は王太子殿下を愛してますよ」

これは嘘では無い
愛されないからと嫌いにもならないし、必死にもならないけど
しかし、アズの瞳は昼間に感じた冷たい瞳だった
僅かな月明かりを吸い取ったように輝く黄金の瞳
僕は身動き一つ取れなくなった

「本当にそうでしょうか」
「え?」
「貴方も兄上の暗殺に来たのでしょう?」
「何を……あ、れ…………?」

突然目の前が真っ暗になった
体から力が抜け、気付けば僕は深く眠っていた





目を覚ますと知らない光景だった
僕の部屋でもない、誰かの部屋
僕は部屋の隅に立っている細い柱にもたれかかっているらしい

「目を覚ましましたね」
「アズ、様……?」
「全く、暗殺に来たのに無用心ですね。飲み物に薬を盛られるだなんて考えてないのでしょうか」
「!」

ここにいては危険だと立ち上がろうとしたが、魔法で手足が拘束されていることに気が付いた
薄く光る鎖が柱に繋がれている

「逃げられる訳無いでしょう。それにしても、よくもまぁ簡単に嘘が付けますね。本当は兄上を愛してなどいないのでしょう?」
「ちが…」
「ねぇ?カメリア」


頭の中が真っ白になった
よりによって王子に知られた
魔法の使えない、力の無い僕はこのまま死を待つしかないのだろうか


「恐らくアイリス嬢が亡くなり、暗殺の為にどうしても兄上に近づきたかった公爵が貴方を代わりによこしたのでしょう」

その通りだ
アズの冷静さにもっと警戒すべきだった
きっと国王の次に気付かれてはいけない人物足り得る存在なのに

「ですが、貴方がアイリス嬢ではないことは最初から分かってました。兄上にはまだ伝えていませんが」
「言わないでください……」
「まだ自分の立場を理解していないのですか?」

冷たい声が余計に不安を煽る
しかし、アズからすれば当然だろう
それでも僕にはまだやらないといけない事がある

「僕が、公爵が暗殺を企んでいる証拠を集めるまではどうか……!」
「信じられると思うか?」

アズから敬語が崩れ、威圧感が増した
ゲームでも語られていた彼の二面性
親しい人、初対面の人には紳士に振る舞う
その反面、敵と見做したものには本性を見せる
その本性は…

「大切な兄を殺そうとしてる人の言うことを何故聞かなければならない?無駄な抵抗はせずに大人しく死んで貰おう」

冷酷で、無慈悲で、殺伐とした姿

怒っている
当たり前だろう
それでも僕にも譲れないものがあった

「好きに言えばいい…それでも僕はまだ引く訳には行かない」
「まだ言うか」
「何度だって言うさ、僕だって大切な人を殺したくない」

大切な人じゃ無くても本当は殺したく無い
当たり前だ
元々、命のやり取りが普通で無い世界に居たのだから
余程の理由も無しに殺したいとは思えない
それに

「そもそも、僕の暗殺は失敗する事も知ってる」
「…は?」

言わない方がいいと分かっている
それでも、公爵が生きたまま死ぬ訳には行かない
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