【完】『優等生』な援交男子の背中に隠された異常性癖

輝石玲

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4.救済

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 タクヤがリオの背中を見た日から1ヶ月。リオはずっとタクヤを無視し続けていた。メッセージも着信も全てスルーしている。それでも、ブロックは出来なかった。

(また不在着信…?もう、俺のことは忘れろよ。)

 リオが傷痕をひた隠すのには裏があった。ただ傷を見られたく無い訳では無い。本当に隠したかったのは、過去の虐待の影響で被虐嗜好があること。体の自由を奪われ、権利を奪われ、蹂躙される事が悦びだと体が覚えてしまったこと。それを悟られないように傷を隠し続けた。
 そんな嗜好があるリオにとってはタクヤはまさに理想。こちらの言葉や行動を無視してひたすらに虐められる。それも痛みでは無く快楽で。それはリオが今まで求めていたものだ。


「リオ?ぼーっとしてどうした?」
「ごめんヒビキ。ちょっと考え事してた。」

 今は大学から帰宅している途中。クラスメイトの響紀ヒビキに誘われ、寄り道をしている。元々仲がいい訳ではないが、この日はヒビキから相談があると言われ寄り道をしながら帰っている。

「でさー、どうすれば好きな人から好かれるのか、モテてるリオならわかるかなーって思ったんだけど。」
「俺は別にモテて無いと思うけど…。人に好かれる要素無いし。」
「え、じゃあやっぱ顔?」

 相談内容は恋愛相談だったが、リオも恋人なんていた事が無いのでわからない。男女問わず人気があるのはその容姿からだ。本人は何も知らない。
 しばらく駄弁りながら歩いていると、いつの間にか人通りの少ない廃ビルの駐車場に来ていた。

「あれ、ここどこ?なんか変なとこに来たんじゃ…」
「なぁなぁ、リオって恋人とかいるか?」
「えっ?いないけど……?」

 突然の質問。明らかにタイミングがおかしい。
 ヒビキはスマホを取り出し、リオに一枚の写真を見せた。その写真は、リオとタクヤがホテルから出た時の写真だった。

「じゃあさ、この男ってもしかして援交?お前売春でもしてんの?」
「……ぇ、なんで…」

 ヒビキが見せた写真は学校から離れてる方、そこそこ安いホテルの写真だ。徹底していたはずが、運悪く見つかってしまった。学校から離れていても生徒が近くに住んでいないとは限らなかった。

「だいぶ柄悪い人だね。この写真、学校にばら撒いたらどうなるかな。」
「は……?」

 悪質な脅迫。最初からこれが目的だったのだろう。
 リオはこの脅迫に逆らえない。なんとか入学出来た大学で最悪退学になるかもしれない。でも今はそれ以上にタクヤに迷惑をかけたく無い。そう思っている。

「何が…望みだよ。」
「そう難しくは無いよ。ただ、僕の性処理道具になって欲しいだけ。だっていつもしてるんだよね?出来るよね?あ、言っておくけど、ただの道具だからお金は払わないよ。」

 伸ばされる手に身動き一つ取れない。リオは確かに被虐嗜好があるが、今は恐怖でしか無かった。気持ち悪い、嫌だ、そんな感情を全て無視され犯されそうになる。が、ヒビキは止まった。

「は…?何コレ。」

 リオを後ろから壁に押し付けシャツを上げた時、ヒビキは火傷を目にした。

「うわ、気持ち悪…」

 ヒビキはリオに聞こえる声で言うと、シャツを戻してズボンだけ脱がそうとベルトを外し始めた。

「…だ、やだ……助け……」
「誰も来る訳無いよねぇ。うるさいから黙って……」


「なぁ、何してんだ?」


 突如聞こえた声。たった一言に乗せられた怒りの圧。
 タクヤの声だった。

「誰かと思ったら、リオとホテルから出てきた人か。別にあなたもしてるんでしょ?」
「てめぇと一緒にすんなよ。」

 タクヤはリオを抑える手を無理矢理引き剥がした。

「おい、大丈夫か?」
「ぁ…タクヤ…さん……?」
「やっと名前呼んだな。」

 目と耳を塞ぐようにリオをキツく抱きしめたタクヤは、そのままヒビキを睨みつけた。タクヤにも焦りがあったのだ。もしリオを見つけられなかったら、助けられなかったら。そんな恐怖が。

「ったく…人の敷地内でよくもまぁやってくれたな。おかげでなんとか見つけられた。」
「何、このビルの所有者みたいなこと言っちゃって……」
「正確には俺じゃねぇけどな。身内の所有地だ。」

 だからこそ偶然見つけられた。他の場所だったら助けることはできなかった。気付けたのは駐車場入り口の防犯カメラに映ったからだ。

「……っこの写真、あなたもばら撒かれたら困るんじゃないです?」
「脅迫、不法侵入、強姦未遂……あぁ怖い怖い。その写真、ばら撒いたら脅迫の証拠になるだけだろ。むしろてめぇが困るんじゃねぇの?」
「くそっ……」

 タクヤがヒビキを抑制してる間、リオはずっとタクヤの胸の中で泣いていた。

「ごめっ…ごめん、なさ……!」
「ホントにな。お前を諦めなかった俺を褒めてくれよ。……こっち向け。」
「ん……んっ…!」

 ヒビキに見せつけるように2人は深いキスをした。自分から身を委ねるリオを見たヒビキは、完全敗北に悔しそうにした。

「はっ……おい、次こいつに何かしてみろ。その時は社会的に潰す。」
「あーあ、相手が悪すぎるのは流石に嫌でもわかる。ほら、写真も消しましたよ。これで今のことは無かったことに……だっ!?」

 簡単に許す気の無いタクヤはトドメの金的を喰らわせた。

「これで一旦良しとする。けど帳消しに出来ると思うなよ。」

 そう言ってタクヤはリオの手を引いてその場を離れた。
 そして2人が向かったのは、すぐ近くにあるマンション。タクヤの家だ。この状態で他に行ける場所も無いだろうと、一時的に家に入ることにした。

「落ち着くまでここにいるか。ほら、自由に座ってろ。」
「…あんたの隣がいい。近く、触れるくらい近くに。」

 ソファに2人並んで座った。2人がけのソファだが、半分以上も空くくらいに密着している。ソファの上でも向き合って抱き合っている。

「ごめん…なさい……。」
「謝るな。」
「怖かった。」
「俺がいるから大丈夫だ。」

 泣き止んでも震えが止まらないリオは、避け続けてたことなんて忘れて縋っている。タクヤ相手であれば、背中を触られる恐怖も無く安心できた。

「タクヤさん…。」
「『さん』いらない。呼び捨てでいい。」
「……タクヤ。」
「どうした?」
「俺の本名……リオって呼んで……」

 今まで誰にも教えなかった本名を教えた。それは、援交だけの関係を辞めようとする意思だった。

「リオ。……リオか、お前に合う可愛い名前だ。」
「…タクヤ、俺……、虐められるのはタクヤだけがいい。あんなのもうやだ。」
「虐め……って、やっぱドMだったんだな、リオは。」

 知られたく無いこと、知ったら嫌われるかも知れないと隠してきたそれを打ち明けた。大きな傷とトラウマを持ちながらも支配されたいという願望があることを。

「俺に虐められるの好きなんだ?」
「……ごめんなさい。」
「なぁ、好きなのは虐められることだけか?」

 タクヤはまたディープキスを始めた。リオは舌の動きに合わせるように舌を絡めた。それは無意識の行動であり、答えでもあった。

「…俺、タクヤが好き…なのかも。」
「なのかもってなんだよ。俺は簡単にお前に落ちたってのに。」
「え……?」
「じゃなかったら俺もお前をただの性処理としてしか使わなかった。ほら、俺って相当クズだからさ。」

 自分でそう言っちゃうタクヤに、リオはクスッと笑った。でもタクヤの言ったことは事実だ。体の関係であったものの、タクヤは『リオがいい』と思うまでに時間はかからなかった。たったの3回、数時間で2人は互いを求めるようになっていた。
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