【完結】よくある異世界の、とことん不毛な私の婚約事情。〜無口でクールな美形婚約者候補の頭の中には、どエロい事しか詰まってなかった〜

つゆり 花燈

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乙女ゲーム的な異世界事情

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 私の視界に真っ先に飛び込んで来たのは、ピンクブロンドの髪の女性。顔は見えないが、その服装から考えるに十代後半位。
 そして少女の前には、この国の王太子と第二王子が立っているではないか。他にも、呼吸が止まる程の圧倒的美貌を持つプラチナブロンドの青年に、長い黄金の髪の縦ロールの清楚な美人までいる。

 魔女のオネェさんの言うとおり、確かに社交界には美形がゴロゴロしていた。王子達の周囲だけ、ぶっちぎりで顔面偏差値が高すきる。

 その神々しさたるや、鼻血を通り越して、グハッと鼻と口から血を吹き出しそうだ。



 残念ながら、いつまで経ってもピンク髪の少女は第二王子の後ろで俯いていて顔が見えない。だが、ピンクな髪色に折れそうな細い腰、パーフェクトな形のお胸のわがままボディが、彼女がただのモブではない事を主張している。


 これらの光景から、私の灰色の脳細胞は、一瞬にして正解を弾き出した。

 そう。ここはあのピンクの髪の少女をヒロインとし、今まさに逆ハーレムが完成しつつある、乙女ゲームの世界であると。

 笑顔の王太子は、優秀過ぎて全てがつまらなく、世界が色褪せて見えていたメインヒーロー。ヒロインとの出会いで、彼の世界は色付き、初めて感情の動きと、恋を自覚したに違いない。
 第二王子は常に出来すぎた兄と比べられて、劣等感を抱える俺様な王子。出来の悪いスペアとしてではなく、彼自身を見てくれるヒロインに惹かれているのだ。
 プラチナブロンドの超絶美形は、どの女にも甘いチャラ男。女をとっかえひっかえしつつも、誰にも本気にならなかったのに、ヒロインに出会って本気の恋を知る。多分彼の身分は公爵令息辺りだろう。
 そして、私の隣には無口クール系な騎士。実直真面目で、常に彼女を影から守るタイプの騎士だ。
 マグロとはいえ、頭の中がエロで溢れているのは、きっとここがR18なエロエロ乙女ゲームの世界だからに違いあるまい。

 ついでに、ピンク髪ヒロインの隣には、わんこ系っぽい青年もいる。だが、コイツは美形は美形だが、キラキラ度とか他者を圧倒するオーラとかがイマイチだ。よって、攻略対象なのかモブなのか、微妙なところである。もしかしたらお助けキャラかもしれない。

 もちろん金髪の清楚系な超美人は、悪役令嬢だ。間違いあるまい。なにせ縦ロールなのだ。
 我ながら、見事な推理だ。小学生探偵も、名探偵の孫も、私の推理力をほめたたえるに違いない。

 ただあの場に、乙女ゲームの定番とも言える、頭脳担当な宰相の息子っぽい男がいない。眼鏡をかけ、常に敬語の頭の良い男は、乙女ゲームの攻略対象者には必須な筈であるが、何故いない?


 だがまあ、しかしだ。リアルな世界で逆ハーかますヒロインなど、普通に考えると有り得ない。だからもしかすると、あのピンク頭のヒロインは所謂“ヒドイン”で、ここはあの清純派悪役令嬢に“ざまあ”される、TL小説の世界かもしれない。


 うむむ、どっちだ?! と、脳みそをフル回転させつつ、私はリアル乙女ゲームをガン見していた。そんな私の頭上で、レオナルドが小さく舌打ちした。


『くっそ、最悪だ。あいつあんな所で何してるんだ。しかも何であんなやつと一緒にいるんだ』

 レオナルドが頭の中でぶつぶつと文句を言ってる。誰が“あいつ”で、誰が“あんなやつ”かはわからないけれど、そんな事は気にしていられない。
 何故なら、目の前ではリアル乙女ゲームのイベントが進行しているのだ。これを無視できる転生者がいようか?いや、いないと断言出来る。
 ならば、私の行動はただ一つだ。

「レオナルド様。もしかして殿下達と一緒にいらっしゃるのは、レオナルド様のお友達ですか?」

「えっ?あ、そう…ですが」

 やっぱり歯切れ悪いな。

「なら、ご挨拶に行かないといけませんね」

 私が満面の笑みで微笑むと、レオナルドは渋々ではあるが頷いた。

 よし!!いざ、出陣!!

 レオナルドの腕を取って歩き出したわたしに、珍しくレオナルドが表情を歪めた。

『よりにもよって、なんであんな目立つ場所で、目立つ奴らと一緒にいるんだ。フィーナとは絶対に合わせたくなかったのに』

 レオナルドの重苦しい声が、私の脳内に聞こえた瞬間、私の中に苛立ちが湧き上がった。


 ──── はぁ?ピンク髪の本命ヒロインに、別の女をエスコートしている姿など見せたくは無いって事?!


 思わず足が止まりそうになったが、私は頬の内側を噛んで、真っ直ぐに前を向いた。苛立ちと共に感じた小さな痛みには気づかなかった事にする。

 だって、そもそも私はこの男の婚約者候補から外れたいのだ。こんな不毛な恋を終わらせる為に、ここにきたのだから…等と思ったその時。


『あいつに会わせて、俺のフィーナが妊娠したらどうしてくれる』


 ──── は?妊娠??!


 思わず声に出そうになった言葉を、私は必死に押さえ込む。
 妊娠と言うからには、女をとっかえひっかえしているプラチナブロンドのチャラ男(推定)の事だろうか?
 あれ?もしかして私と合わせたく無いというのは、ピンク髪のヒロインでも悪役令嬢でもなく、攻略対象のことなのか?!

 私は歩きながらレオナルドをじっと見上げると、レオナルドも私を見た。

「フィオレンティーナ嬢は、殿下方とは面識がおありですか?」

「王太子殿下と第二王子殿下とは、ご挨拶と雑談位でしたら何度か…。ただ、あまり社交界には顔を出しておりませんので、他の王族の方や高位貴族の方との面識はありませんの」

「ああ、お体が弱くて、長い間領地で静養していらしたのですよね」

「ええ」

 嘘だけど。普通に王都にいるけど。貴族の出没ポイントにいないだけ。
 茶会だパーティーだと、面倒だからね。社交も貴族の仕事?そんなの知らん。

「ではあそこにいる金の髪の女性には、くれぐれもお気をつけ下さい。彼女は第一王女殿下ですが、本当に欠片も悪意なく、唐突にとんでもない事をしでかす人ですから。彼女の思いつきに巻き込まれると痛い目をみます」

「はぁ…」

 金髪縦ロールな悪役令嬢は、王女だったようだ。つまり彼女こそが、レオナルドの筆頭婚約者候補。あ、レオナルドが彼女の筆頭婚約者候補か。
 にしても、王女に対して酷い言い方だ。まあ、悪役令嬢は危険だと覚えておこう。悪役令嬢だしな。

「それから、第二王子の後ろのピンク髪の女性、あいつの言葉には耳を貸さないでください。とてつもなく魅力的な事を言って、誘惑して来ます。ですが、その誘惑にのってしまえば、破滅まっしぐらです。あいつは人を惑わす悪魔で、あいつの後ろには魔王がいると覚えておいてください」

 ほほう?ピンク髪のヒロインはやはりヒドインで、魅了かなにかをつかうのかもしれない。逆ハー狙ってる所からして、彼女はこの乙女ゲームに詳しい転生者か?
 もしかすると、その魔王が隠しキャラで、逆ハーに成功すると、魔王ルートが開くのかもしれない。

 「あと、1番気をつけなければいけないのが、王女殿下のすぐ近くにいるプラチナブロンドの、立ってるだけで人を惑わせる淫魔のような男です」

「淫魔??」

「ええ、アレは社交界の歩く媚薬と言われている男です。目が合うだけで妊娠しますから、絶対に見ないでくださいね。声も聞いてはダメです。貴方の耳が妊娠すると困ります」

 ──── いやいやいや。すごいなチャラ男。どんだけヤりまくれば、そんな噂が立つんだ。

 なーんて、心の中で考えていたところまでは、私は確かに正気だった。

 けれどこの後、私がレオナルドを盾にして、無謀にも突撃した乙女ゲームの世界は、それはもう凄まじかった。遠くから見ただけならいけると思ったのだが、無理だった。目も眩むばかりのキラキラしい集団相手に、私の頭の中は真っ白になって、誰かと目が合うたびに、何度も吐血しそうになった。

 けれど、よく考えたらそれは当たり前だ。なにせ彼らは攻略対象以前に、王太子に第二王子、そして第一王女なのである。
 しかもレオナルド曰く、話しただけで妊娠する超絶美形なチャラ男は、王の甥だという。


 ──── って、レオナルドこいつも王族じゃん!!


 そう、レオナルドも隣国の王位継承権を持っている。という事は、この乙女ゲームの攻略対象者は、全員王族という事だ。等と考えつつ、私は鼻の血管の破裂防止に全気力を注ぐのだった。

 その結果、意識は朦朧とし、彼らとの会話は殆ど記憶に残らなかった。私の隣にいたレオナルドが、メタボっているおじさんに、どこかに攫われてしまった事だけは、なんとなく覚えてはいるのだが。
 そして私は、ありえない程煌びやかな世界に、ただ一人取り残されていた。


 ……正直に言おう。私は圧倒的な王族オーラを舐めちぎっていた。鼻血どころではなく、頭に血が上り顔は真っ赤になるし、鼓動はバクバクうるさいし、気を抜けば吐血して倒れそうだった。

 街でいきなりハリウッドスターに囲まれ、苦手な英語で道を尋ねられたような気分だ。(そんな体験は皆無だが)
 何にせよ、誰と何を話してどうなったかなど、緊張しすぎてさっぱり覚えていない。

 そんなこんなで、なんとかまともに頭が動いた時には、私は何故か悪役令嬢王女殿下と共に、控え室で一緒にお茶を飲んでいたのだった。


 ──── 何故こうなった?



 などと、お茶を飲みながら自分の行動を思い返していた時。
 ふいに私の手からカップが滑り落ちた。

 全身が一気に熱を持ち、どこもかしこも性感帯になったかのように、服の擦れですら、私にきつい刺激を与える。
 私は突然何が起こったのか分からず、熱くなった自身の身体を、震える手で抱きしめた。

 そんな私を見て、目の前のソファーに腰掛けた悪役令嬢王女殿下は、全く悪意のかけらも無い笑顔で、こうのたまったのだ。

「あ、もう薬が効いてきたのね。あのね、貴方が今飲んだお茶にはね、媚薬を入れてたの。すっごくよく効くんですって」

「……で…んか、何故…?」

「貴方がレオナルドの事を好きだからよ。貴方は今、王女である私に “お肌が綺麗になるお茶”と” 媚薬入りのお茶”を間違えて出されて、飲んでしまったの。そして貴方は今から、大好きな人との既成事実を作ってしまうの。そうなると大好きな人と結婚するしか無くなるもの。どう?素敵な考えでしょう?」


 瞠目する私の前で、王女殿下は花が咲き誇るような、純然たる笑みを浮かべていた。





 ──── いや、そんな理由通じる訳ないじゃないっすか?! てか、本気で意味がわからないんですけど?

 
 どうやら私は、今から知らない人と既成事実を作らされて、強制的にレオナルドの婚約者候補を降ろされ、どこぞの誰かと結婚させられるようだ。

 確かに悪役令嬢に、レオナルドの婚約者候補の地位から強制退場させて欲しいと願いはした。だが、さすがにこれは想定外である。

 良く考えれば、悪役令嬢に罠に嵌められるなど、『よくある話』以外の何物でもない。
 だが、一言だけ言わせて頂きたい。

 悪役令嬢の罠にはまるのは、ヒロインの役割だろう!!……と。



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