余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈

文字の大きさ
159 / 204
第三章

9.事件と事故と秘密の粉1

しおりを挟む
 透き通った青い空は高く、絡みついた繊維のように細く薄く伸びた雲が、ゆっくりと風に流されていく。
 小高い丘の上のひときわ高い木の横に立ったルイスは、木に沿って遥か上を見上げた。

 彼の視線の先には、空に近い枝の上に危うげなく立つ少女と、その少し下の枝に座り、足をぶらぶらと揺らす黒髪の少年がいる。少年は平民のように生成りのシャツに黒いズボンを身に着け、その上には旅人のような、なめした革の茶色いマントを羽織っていた。



「ねえドール。なんか見えた~?」

 黒髪の少年、ノルことディノルフィーノは、口に含んだ飴をころころと転がしながら、近くの枝の上に立つアリシティアに問いかける。

「まだ見えないよ。暇ならここから降りて下でヴェル様と遊んでたら?」

 彼らの眼下には、広大なライ麦畑が広がり、その中心には、東西を結ぶ馬車道が伸びていた。東には王都が、はるか西にはメルクオリ侯爵領がある。

 

 アリシティアのピンクに染めた長い髪が、強い風により八方に散らばる。

 今日のアリシティアは、ピンク髪のメイド服ではない。身体のラインに沿った黒いシャツを着て、半ズボンというには短すぎる、股下5センチ程のズボンを履いていた。
 その短すぎるズボンの上には、同じ丈の革製のスカートを重ね、スカートの裾から伸びた二本の細いベルトの先は、膝上まである乗馬用ブーツカバーチャップスに繋がっていた。

 ズボンとブーツカバーチャップスの間に見える左足の太ももには、5本の短刀を収めたシースのついた革ベルトが巻かれ、肌色の領域が彼女の姿をどこか退廃的に見せている。



「やだよ。今下に降りたら、絶対意地悪されるもん」

「ノルとヴェル様って仲良しよね」

 ディノルフィーノは地上に立つルイスに視線を落とした。

「ん~?ヴェル様って、あの顔の割には、仲良い人多いよ?まあ、貴族の令息には嫉妬や妬みの対象だけど、近衛とかの騎士には友達多いし。毎年何人かはヴェル様のせいで道を踏み外しそうになる騎士がいるのは困った話だけど。ていうかぁ、なんでヴェル様を連れてきちゃったのさ?」

「ん~、なんか勝手についてきちゃった」

「ついてきちゃったじゃないよ。王位継承権第二位の王子様と第四位のヴェル様が、揃ってこんな事件にかかわって良いと思ってるの? レティシア様が大好きすぎる王子様を置いてくるのは無理でもさあ、せめてヴェル様は置いてこなくちゃ。何かあったらどうするの」

 ディノルフィーノが言うレティシア様とは、今回令嬢誘拐事件のターゲットとなっているレティシア・マクレガー公爵令嬢だ。彼女は、第二王子であるエリアスの長年の想い人でもある。

 

「そうは言っても、私の言う事とか全く聞いてくれないの。後で王太子殿下にでも叱られたらいいんだわ」

「まぁ、ヴェル様はあんなお綺麗な顔の割に、結構小狡い戦い方するし、剣も体術も得意だから、大丈夫だとは思うけどさぁ」

「顔は関係ないんじゃ無い?」

 確かにルイスは、剣で戦いながらも、足を引っ掛けたり、土や砂で目潰しをしたりと、小狡いと言われる戦い方をする。
 ディノルフィーノの言葉にアリシティアが小さく苦笑した時。

「あっ、来た」

 ディノルフィーノの声が楽し気に弾んだ。

 少年の眼下には、見通しの良い直線の街道が東西に広がり、その街道を一台の質素な馬車と、少し離れた後方を、十頭程の馬群が駆け抜けて行く。

「ノルの調べた通りだったね。先回りしておいて良かった」

「あいつらが下準備のために、何回もあの空き別荘に出入りしてて助かったね」

「そうね。いきなりあの道を走られたら、かなり距離を開けなきゃならなくて、見失しなう可能性もあったわね」

「よし、行こっか」

 馬車の行き先をしっかりと確認した後、ディノルフィーノは座っている枝の上から立ち上がった。枝を渡るように降りていき、最後は三メートル程の高さの枝にぶら下がり、トンと地上に降り立つ。

「ヴェル様、お待たせ~。予定通りだよ~」

 にぱっと笑うディノルフィーノの隣に、アリシティアも同じように飛び降りてくる。そんな二人を見て、ルイスは眉根を寄せた。

「ねぇ、君達って実は猿なんじゃないの?」

 ルイスはアリシティアの肩に膝下丈のローブをかけ、しっかりと全ての釦を閉じながら、拗ねたような声を出す。

「ヴェル様ってば、自分が木に登れないからって、僻むのは良くないよ~?」

「僻んだりしないし」

 話しながらすぐ近くの木に繋いであった鹿毛の馬の所まで行き、ルイスはその首筋を撫で、手綱を枝から外す。

「ごめんね、ハミつけたまま待たせちゃって。じゃあ、行こうか」

 ルイスは馬に話しかけながら、あぶみに足をかける。軽々と馬に飛び乗ると、ディノルフィーノとアリシティアも同じように馬に跨り鐙を履く。

 ルイスは馬の腹を蹴りながら片手で手網を軽くひき、馬首を左にめぐらせた。

「エリアスが暴走する前に、片付けてしまおう」

「イエッサー!!」

「はーい」

 ディノルフィーノとアリシティアが返事をし、馬の腹を蹴る。

「ねぇ、前から思ってたんだけど、その、イエッサーって何?!」

 馬を勢いよく走らせ、丘を掛けおりながら、ルイスが声をあげる。

「じーちゃんが上官にはそう言えって言ったの!!じーちゃんアメリカ軍の軍人だったんだって!!」

 軽々と馬をあやつり、あえて小さな木を飛び越えながら、ディノルフィーノが楽しげに笑った。

 そんな軍あったっけ…と呟くルイスに並走しながら、アリシティアは思わず笑いだした。


────────────────

ここまで読んでくださりありがとうございます。
ようやく、強欲令嬢と黒幕な王子様に、時系列が追いつきました。強欲令嬢から来てくださった皆様、本当にお待たせ致しました。そして、わざわざ長い広告を見てまで、エールを下さった方、感想をくださる方、本当にありがとうございます。

ハミ
馬の口に噛ませる。手網と繋がっていて、馬に指示を伝える。

あぶみ人が座る鞍の両端にある、足をかける所。
しおりを挟む
感想 111

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。