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第三章
5.魔女と狼と赤ずきん1
しおりを挟む喧嘩しているのか戯れあっているのか分からないルイスとディノルフィーノを無視して、アリシティアは優雅に紅茶のカップを口に運ぶ。そんな3人を横目に、アルフレードは嘆息した。
「アリス。申し訳ないけど、君がいるとディノルフィーノとルイスが君を取り合って鬱陶しいから、君は席を外してくれる?」
「え?でも、私も今回は影として、レティシア様をお守りしたいです。ルイス様を追い出せば良いのでは?」
アリシティアの意見に、アルフレードは苦笑した。
「そうなんだけど、今回はルイスの影達を使うからね。大丈夫、君にはドールとしてレティシアのサポートに動いてもらう事は決めてるから。計画が整えば知らせるからね?」
「でも…」
「このままでは、話が進まないから。あ、エリアス。お前も出ろ」
「え? なんで俺まで?!」
アルフレードの言葉に、エリアスが眉を寄せる。
「お前が一番邪魔なのは、わかるだろ?」
「だってそれは兄上が…」
反論しようとしたエリアスの言葉を、アリシティアは遮った。
「承知しました」
アリシティアはあっさりとアルフレードの提言を聞き入れた。彼女はそのまま肩に乗ったルイスの手を外して立ち上がる。
「えー? アリアリ行っちゃうのぉ?」
ソファーに腰掛けたままのディノルフィーノは、立ち上がったアリシティアを見上げた。
「うん、またねノル。王太子殿下、それに皆様も、失礼致します」
室内にいる人達に向けて略式の礼をとり、アリシティアは扉を開ける。そんなアリシティアにルイスが背後から声をかける。
「ねぇ、アリス。後で会いにいくから」
「必要ありません」
「だけど、話し合いの結果は聞きたいだろう?」
ルイスの返事にアリシティアは思わず軽く彼を睨んで、それ以上は何も言わず扉を閉めた。
***
王宮内では淑やかに歩いていたアリシティアだったが、庭園を抜けて錬金術師の塔が見えてきた時、思わず走り出した。
錬金術師の塔のドアを勢いよく開け放ち、そのままの勢いで階段を駆け上っていく。受付の人間は、ちらりとアリシティアを見ただけで、いつものように無表情のまま、手に持った本に視線を戻した。
5階まで一息にかけ上ったアリシティアは、最奥の部屋の扉をノックもせず開く。
「ベアトリーチェ!!一発殴らせなさい」
「は?何よ突然」
室内に走り込むと同時に、アリシティアは声を荒げる。
その声に驚いたように小さく肩を震わせたベアトリーチェは、いつもの如く怪しげな液体を手に持ったまま振り返った。
「突然じゃないわよ。よくも私を売ってくれたわね」
「待って待って? 何の事を言ってるの?」
怒りのままに腕を振り上げるアリシティアを見て、ベアトリーチェは部屋の隅に逃げ込んだ。
「何の事じゃないわよ! あなたでしょう!!仮面舞踏会でお姫様を誑かして、私を闇オークションの競売にかけたの」
「え?何で今更怒ってるの?」
唖然とするベアトリーチェに、アリシティアは詰め寄った。
「今さらも、何もないわよ。いったい何を考えて、あんなことしたのよ!!」
「あんなことも何も、あなたに協力してあげたんじゃない?」
「協力?何を協力したって言うのよ」
「だってあんた、過去にリーベンデールの生きた人形を買った人を探してるじゃない。だったら、あんたをオークションで売り払えば、リーベンデイルの生きた人形を欲しがっている奴らが、あんたに群がってくるでしょ? だってほら、あんたって見かけだけはお人形みたいだし」
「確かに私は、すっごく高値で売れたけどね」
「落札者はあんたの婚約者じゃないの。しかも払う気のない金額だし。正当な評価額じゃないわよ。まあ、何にせよ、入札者は過去にリーベンデイルの生きた人形を買った可能性が高い人間ばかりだし。それに、ああいう所に出入りする人間は、闇社会の横の関連もあるじゃない?」
「それで私を生き餌にして、変質者の巣窟に放り込んだ訳? そういうのって、先に私に一言言うべきじゃないの?」
「あら? 言ってなかったかしら?」
小さく小首をかしげるベアトリーチェを見て、アリシティアは脱力した。
「……聞いてないわよ。全くこれっぽっちも」
「あらそうなの? でもあんた、あの時わざと誘拐されたじゃない? だからそのつもりで競売にかけられたんだと思ってたけど?」
「なんでみんな、揃いも揃ってわざと誘拐されたって言うの? 確かに、最終的には、闇オークション参加者を確かめたかったからなんだけど」
とはいえ、アリシティアが競売品としてオークション会場の壇上に上げられた時、アリシティアは客の姿が見えないように目隠しされていた。そのせいで、彼女は直接客の姿を見る事は出来なかった。
だが、エリアスの指揮で、第三騎士団と警吏が、参加者ごとオークション会場にいた人間を捕らえる事に成功したので、結果として欲しい情報は手に入った。
「よく言うわね、その辺のごろつきにあんたを誘拐できるわけないでしょ。わざとじゃなきゃなんだって言うのよ」
「はぁ?こんなか弱い深窓の令嬢に向かって何を言うのよ」
「あんたが深窓の令嬢なら、私は永遠の淑女よ」
「あんたみたいな、雄っぱい付きのマッチョな淑女がいるものですか!!」
「ちょっと、下品な表現しないでくれない? このスレンダーなセクシーボディに向かって。…ていうか、なんで今になってそんなこと言い出したのよ?」
「今になって、あの時の黒幕がベアトリーチェだって気がついたからよ」
「え?嘘でしょ?! ちょっと鈍すぎない?」
ベアトリーチェは心底驚いたような声を上げる。その反応に、アリシティアは恨めしげにベアトリーチェを睨めつけた。
「まあ、私もそう思うけどね。あなたがわざわざ解毒剤を作ってルイスに渡したって聞いた時点で、気づくべきだったのよね」
「本当にそれよ。あんたってばお馬鹿過ぎて、不安になるレベルよ。そんな事じゃ、狼さんにぺろりと食べられちゃうわよ、赤ずきんちゃん」
「天才のベアトリーチェに比べたら、誰だって馬鹿よ」
ベアトリーチェの全く悪気のない反応に、アリシティアは殴る気も失せて、そのままずるずるとソファーに倒れ込んだ。
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お知らせ
一年後に死亡予定の嫌われ婚約者が、貴方の幸せのためにできること (モブで悪女な私の最愛で最悪の婚約者は、お姫様に恋している)第二章ラストシーンに伴い、ベアトリーチェがストーリーテラーとなる、大人のマザーグースっぽい作風のお話を掲載しました。
私が愛した彼は、私に愛を囁きながら三度姉を選ぶ(天狗庵の客人の元のお話です)
7000文字の一話完結のショートショートです。
この物語を読んでいただけますと、ラストシーンの言葉の意味がほんの少しわかっていただけるかと思います。ただ、救いも何もない悲惨なバッドエンドですので、DVや復習が苦手な方は避けてください。
第三章のスピンオフ、令嬢誘拐事件の誘拐された令嬢サイドのお話もよろしければお楽しみください。
強欲令嬢が誘拐事件に巻き込まれたら、黒幕?な王子様に溺愛されました【R18】
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