余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈

文字の大きさ
上 下
84 / 204
第二章

3

しおりを挟む

 今にもソファーの上に押し倒されそうだったリカルドと、押し倒す気満々だったアリシティアが声の方に視線を向ける。
リヴィアの姿を認識した瞬間、リカルドはアリシティアを突き飛ばした。

「これは、リヴィア嬢。お見苦しい姿をお見せして申し訳ございません」

 救いの神とばかりにリカルドはアリシティアから離れて、ソファーから立ち上がった。


「リー様、少しミレディとお話しさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 優雅に微笑むリヴィアのその立ち姿は、とても洗練されていて、際立って胸元の空いた扇情的なデザインのドレスでなければ、どこかの高位貴族の御令嬢だと思われるような所作だった。

「もちろんです。よろしければお掛けくださいリヴィア嬢」

 アリシティアから離れたリカルドはリヴィアのそばまでいき、エスコートの手を差し出した。

「まあ、ありがとうございます、リー様」

「いえ。これくらいの事は礼を言われるような事ではありません」

 リカルドが心底嬉しそうに、リヴィアに重ねられた手をひいて歩いてくる。
まさに『鼻の下が伸びている』という表現に相応しい顔をしているだろう事は、仮面越しであっても容易に想像がついた。

 そんなリカルドを見て、アリシティアは『天然物の巨乳(前世で言うならHカップ)に弱すぎだろ?!』と、文句を言いたくなった。が、アリシティア自身もリヴィアの胸の谷間には顔を埋めたくなるので、口に出すのはやめた。

「ねえ、ミレディ。伯爵様が貴方とのダンスをご所望なのだけど……」

 アリシティアの隣に浅く腰をかけたリヴィアが、少し戸惑いがちに用件を切り出した。


──── よし来た!!


 心配そうに用件を告げるリヴィアをよそに、アリシティアは内心ガッツポーズをしていた。




「もちろんですわお姉様。わたくし今、リー様に振られたばかりでフリーですの」

「おおい! 勝手に振られるな。こんなところでおまえを自由になんてさせてみろ、間違いなく俺の出世街道は閉ざされるだろうが」

 アリシティアの言葉に思わずリカルドが、声をあげる。




「もう、リー様うるさい。誰も私の事なんて気に留めてはいないし、ルイス様は私に興味などないから、そんなに心配しなくても大丈夫だってば」

 アリシティアの言葉に、リヴィアが少しだけ目を見張る。

「まあ、リー様は…ルイス様の事をご存知なのですか?」

「私の婚約者と言うことだけね。リー様は王女殿下の護衛なの」

「おおーい、勝手にばらすな」

「まあ、申し訳ございませんリー様。ミレディに代わってわたくしがお詫びいたします」

 立ち上がって頭を下げようとするリヴィアを、リカルドは急いで押し留めた。

「いえ、貴方に詫びていただくようなことは何一つありません。どうかそのまま。こう見えても俺とこの女王様は友人でして、今日もこいつがどうしても仮面舞踏会に来たいと我儘を言うから連れてきただけなんです。しかもこいつこの舞踏会の主催者の伯爵とお近づきになりたいとか言い出して、本当に困っていたところなんです」


 リカルドは、油をさしたようによく滑る口で、ペラペラと事情を話す。アリシティアがお姉様と呼んだ事で、リヴィアを王国の影の一員だと判断したのだ。それは間違いでは無い。だが、アリシティアは「やっぱり脳筋はダメだ」と、自分の事は棚上げして、内心で悪態をついていた。



「あの、お姉様。ル…主様にこの事を黙っていて欲しいとお願いするのは…」

「主様に内緒にはできないわ。ごめんなさいね。わたくしには何よりも主様からの信頼が大事だから…」

「ですよね」

 アリシティアはがっくりと頭を落とした。



「それにしても、あなた伯爵様とお近づきになりたかったのね。道理で驚く位タイミングが良いと思ったわ」

「実は、お姉様たちが伯爵様に挨拶をしに行くのではと、様子を伺っていたのです」

 頷くアリシティアを見下ろして、リカルドは驚いたような表情を浮かべた。

「偶然じゃなかったのか?」

「お姉様がここにくる事は想定していたし、お姉様の旦那様が伯爵様とお知り合いだと言うことも知ってはいたの。だから、上手くいけば伯爵様にお近づきになれるチャンスはあるかもと思って、タイミングを見計らっていたの。あとは伯爵様が私の美貌に骨抜きになってくれれば、すべて私の計画通りよ」

「どんな計画だよ」

 胸を張って自慢げに宣言するアリシティアを見て、リカルドはがっくりと肩を落として深いため息を吐いた。 



 そして、自分の出世街道の為にも、ここでアリシティアを自由にさせてはいけないと改めて認識した。

    


しおりを挟む
感想 111

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。