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第二章
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しおりを挟む「勝つまでって。勝負の意味…。いや、今はそれはいい。いや、よくないか? まあいい。それで、君の方は、その招待状を手に入れるために、何を賭けたんだ?」
「何をと言われても、私が勝つまでやったので、色々賭けましたが…」
レオナルドの問いに、アリシティアは唇に人差し指を当てて、左上に視線を向けうーんと考え込む。
「甘いお菓子が一番多かったかな?」
「はあ? 甘い菓子??? どこか有名店とかの?」
思わずリカルドが口をはさむ。
「いいえ、私が作った揚げ菓子とか焼き菓子です。あとは飴玉とか?です。一緒に勝負していた人はペンとか、封筒とか。あ、あと、お願いをなんでも叶える券とかも作って賭けていました。まあ、基本はその辺にあるものですね」
青い月明かりの下で、テーブルに揺れるいくつもの灯りに照らされ、面接に挑む就活生のようにアリシティアはにこやかに答える。そんな彼女を前に、二人の騎士は絶句していた。
お願いをなんでも叶える券を、前世でいうところの、子供のお手伝い券や肩たたき券などと、同様にみなしたのかもしれない。実際には、王弟の発行した印章入りの誓約書なのだが。
他の二人の出してくる物とはレベルが違い過ぎる物を賭けていたのはアリシティアくらいだ。だが、アリシティアにとっては、それこそどうでも良い事だった。
「結果的には、一通はなんとか自力で頑張って勝ち取ったのですが、ソニア様がお強すぎて、何度挑んでもソニア様に二度は勝てなかったので、とりあえずもう1人から勝ち取ったお願いをなんでも叶える券を使って、その人が手に入れていたソニア様の招待状を、私が手に入れました」
さも、正々堂々勝負して手に入れたかのようにアリシティアは言う。実際には子供が親にわがまま放題な条件を押し付けて遊んで貰い、勝ったと自慢しているような状態でしかない。
そんなアリシティアの言葉に呆然とした二人の騎士の耳には、虫達の求愛のノイズがやたらと響いていた。
「その辺にあるもの扱い…。ソニア・ベルラルディーニのサロンの特別演奏会への招待状が…」
呆然と呟くリカルドの目は死んだ魚のようにうつろで、レオナルドからは表情が抜け落ちた。
虫達の鳴き声が、やたらと耳についた。風が心地よくすり抜ける。蚊がいないのは、流石異世界と言うところだろう。
そんなどうでも良い事を考えながら返事を待つアリシティアの前で、二人の青年は、ただひたすら呆然としていた。
それをしばらく眺めていたアリシティアは、自分の作戦がうまくいかなかったと判断した。そうなると彼女に残された道は、迅速な撤退のみだった。
「…やはり、非常識なお願いでしたか。どうか、この事は、お忘れください」
そう言いのこして、立ち上がろうとした瞬間。
「ちよっ、待った!! 実は俺、今まで取り繕っていたけど、めっちゃくちゃやばい所に平気で出入りするような屑なんだ」
リカルドが突如、告白を始めた。
リカルドについて、調べ尽くしているアリシティアは、「こいつは何を言い出したんだ?」とでも言う風に、キョトンとした顔で小首を傾げた。
実はリカルドは熟女好きで、自重に耐えられなくなり垂れた巨乳の胸の谷間に、顔を埋めてその感触を楽しむのが好きだ。ほんのり微妙な性的嗜好の巨乳フェチではあるが、屑とは言い難い。
その言葉に続いてレオナルドまで、「実は俺も、勘当寸前のろくでなしだ」等と自己申告をする。それを聞いて、顎に指をあてたアリシティアは「んん?」と考え込んだ。
たしかにレオナルドは結構遊んでいる。付き合う女性の取っ替え引っ替えが激しい。もしアリシティアがレオナルドの婚約者なら、レオナルドのあそこを輪切りにして切り落としているレベルだ。
けれど、そんな彼にこれ幸いと、過去お試しで何人か細マッチョ好きな女性を送り込んでみたりもした。
だが、分かったのはベッドの上では意外とねちっこくて言葉攻めが好きで、お相手の女性に隠語を言わせて楽しむという性癖だけだった。自分が彼女なら御免被りたいが、他人なのでどうでもよいと思える情報以外はなにも得られなかった。
別に言葉攻めが好きでも問題はないし、女を取っ替え引っ替えしていても、勘当されるレベルのろくでなしではない。
とはいえ、レオナルドは小説の中でエヴァンジェリンと結ばれるのだ。消去法で彼しか残らなかった事もあるが…。小説のヒーローがこんなに下半身が緩くて良いのだろうか。
──── あれか? ヤリチンチャラ男がヒロインに恋をしたら、一途になるというやつか?!
そんなことを考えながら、アリシティアは思わず遠い目になった。
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