上 下
64 / 191
第二章

2

しおりを挟む

「勝つまでって。勝負の意味…。いや、今はそれはいい。いや、よくないか? まあいい。それで、君の方は、その招待状を手に入れるために、何を賭けたんだ?」

「何をと言われても、私が勝つまでやったので、色々賭けましたが…」

 レオナルドの問いに、アリシティアは唇に人差し指を当てて、左上に視線を向けうーんと考え込む。

「甘いお菓子が一番多かったかな?」

「はあ? 甘い菓子??? どこか有名店とかの?」

 思わずリカルドが口をはさむ。

「いいえ、私が作った揚げ菓子とか焼き菓子です。あとは飴玉とか?です。一緒に勝負していた人はペンとか、封筒とか。あ、あと、お願いをなんでも叶える券とかも作って賭けていました。まあ、基本はその辺にあるものですね」



 青い月明かりの下で、テーブルに揺れるいくつもの灯りに照らされ、面接に挑む就活生のようにアリシティアはにこやかに答える。そんな彼女を前に、二人の騎士は絶句していた。

 お願いをなんでも叶える券を、前世でいうところの、子供のお手伝い券や肩たたき券などと、同様にみなしたのかもしれない。実際には、王弟の発行した印章入りの誓約書なのだが。


 他の二人の出してくる物とはレベルが違い過ぎる物を賭けていたのはアリシティアくらいだ。だが、アリシティアにとっては、それこそどうでも良い事だった。
 



「結果的には、一通はなんとか自力で頑張って勝ち取ったのですが、ソニア様がお強すぎて、何度挑んでもソニア様に二度は勝てなかったので、とりあえずもう1人から勝ち取ったお願いをなんでも叶える券を使って、その人が手に入れていたソニア様の招待状を、私が手に入れました」

 さも、正々堂々勝負して手に入れたかのようにアリシティアは言う。実際には子供が親にわがまま放題な条件を押し付けて遊んで貰い、勝ったと自慢しているような状態でしかない。

 そんなアリシティアの言葉に呆然とした二人の騎士の耳には、虫達の求愛のノイズがやたらと響いていた。

「その辺にあるもの扱い…。ソニア・ベルラルディーニのサロンの特別演奏会への招待状が…」

 呆然と呟くリカルドの目は死んだ魚のようにうつろで、レオナルドからは表情が抜け落ちた。




 虫達の鳴き声が、やたらと耳についた。風が心地よくすり抜ける。蚊がいないのは、流石異世界と言うところだろう。



 そんなどうでも良い事を考えながら返事を待つアリシティアの前で、二人の青年は、ただひたすら呆然としていた。

 それをしばらく眺めていたアリシティアは、自分の作戦がうまくいかなかったと判断した。そうなると彼女に残された道は、迅速な撤退のみだった。
 


「…やはり、非常識なお願いでしたか。どうか、この事は、お忘れください」

 そう言いのこして、立ち上がろうとした瞬間。

「ちよっ、待った!! 実は俺、今まで取り繕っていたけど、めっちゃくちゃやばい所に平気で出入りするような屑なんだ」

リカルドが突如、告白を始めた。

 リカルドについて、調べ尽くしているアリシティアは、「こいつは何を言い出したんだ?」とでも言う風に、キョトンとした顔で小首を傾げた。

実はリカルドは熟女好きで、自重に耐えられなくなり垂れた巨乳の胸の谷間に、顔を埋めてその感触を楽しむのが好きだ。ほんのり微妙な性的嗜好の巨乳フェチではあるが、屑とは言い難い。

 その言葉に続いてレオナルドまで、「実は俺も、勘当寸前のろくでなしだ」等と自己申告をする。それを聞いて、顎に指をあてたアリシティアは「んん?」と考え込んだ。


 たしかにレオナルドは結構遊んでいる。付き合う女性の取っ替え引っ替えが激しい。もしアリシティアがレオナルドの婚約者なら、レオナルドのあそこを輪切りにして切り落としているレベルだ。

 けれど、そんな彼にこれ幸いと、過去お試しで何人か細マッチョ好きな女性を送り込んでみたりもした。

 だが、分かったのはベッドの上では意外とねちっこくて言葉攻めが好きで、お相手の女性に隠語を言わせて楽しむという性癖だけだった。自分が彼女なら御免被りたいが、他人なのでどうでもよいと思える情報以外はなにも得られなかった。


 別に言葉攻めが好きでも問題はないし、女を取っ替え引っ替えしていても、勘当されるレベルのろくでなしではない。

 とはいえ、レオナルドは小説の中でエヴァンジェリンと結ばれるのだ。消去法で彼しか残らなかった事もあるが…。小説のヒーローがこんなに下半身が緩くて良いのだろうか。



──── あれか? ヤリチンチャラ男がヒロインに恋をしたら、一途になるというやつか?!


 そんなことを考えながら、アリシティアは思わず遠い目になった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。