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第二章
26.屑と下僕と招待状 1
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夜空にはぽっかりと青い二つの月が輝き、王宮の美しい庭園には秋の風が吹き抜け、虫達の声が幾重にも響き渡る。
そんな庭園の中にあるガゼボの椅子に腰をおろした2人の青年は、テーブルの上の招待状から、いまだ視線を逸らすことができずにいた。
招待状と2人を遮るように置かれているいくつものキャンドルの灯りが、夜風に揺れていた。
レオナルドは一呼吸おき、冷静さを取り戻す努力をする。
芸術の神の愛し子とも呼ばれるソニア・ベルラルディーニのサロンへの招待状は喉から手が出る程に欲しい。欲しいが、その代わりに求められた事を実行すれば、間違いなく一部の人間を激怒させるだろうと思われた。
目の前でちょこんと座っている少女を改めて見据える。まさにいま咲き誇ろうとする花のように、刹那的な色香を持つ少女。彼女の要求を呑むのは簡単だった。
だが、それを実行した事がバレた時のことを考える。表情には出さなくても、間違いなく怒り狂う人物を思い浮かべると、レオナルドの眉根に寄った皺は消えないままだった。それはリカルドも同様だ。だが、断る選択肢は二人にはない。
「とりあえず、いくつか質問していいか?」
「もちろんです」
アリシティアはにっこりと微笑んだ。
対人関係を良好にするには、笑顔は基本だ。
この2人には、チューダー伯の仮面舞踏会の招待状を手に入れてもらいたい。そして、アリシティアと友達になってくれる、身元のはっきりした屑でろくでなしな友人を紹介して貰わねばならないのだから。できれば、モブに相応しい地味な顔の屑を希望したい所存だ。
「ルイスはこの事を知っているのか?」
「いいえ。ルイス様には関係のない事ですから」
「関係ない…」
レオナルドの質問に、アリシティアは爽やかな笑みを浮かべて端的に答えた。呆然とするレオナルドに続いて、リカルドが質問する。
「あのさ、王太子殿下はこの事を知ってる?」
「いいえ。今回の事については、私的な目的ですので、アルフレード王太子殿下には関わり合いのない事ですから、お知らせはしません」
「私的…あの変態の所にいく私的な理由って…」
再びレオナルドが呟いた。
「えっと、じゃあさ、流石にエリアス殿下は知っているよね?」
「いいえ。事後報告で済ませる予定です」
主語だけを変えた同じ質問が繰り返されるが、アリシティアは基本に忠実に、微笑みを崩さず好感度をあげようと、目前の面接官ならぬ二人の騎士に爽やかに答えていく。
同じような質問を繰り返すリカルドの声を遮り、今度はレオナルドが再び問う。
「その招待状をどうやって手に入れたのか聞いても?」
「カードです」
「カード?」
「カードゲームの事で、七並べという、七を基準に数字を並べるだけの単純なゲームをして…」
「いや、微妙に気になるけど、カードゲームについての説明は今はいい。誰とカードをして、その招待状を手に入れたのか聞いても?」
レオナルドの質問に、アリシティアは不思議そうに瞬きする。
「もちろん、ソニア・ベルラルディーニ様です」
アリシティアは当たり前だとでもいう風に答えたが…。
「もちろん? もちろんって言ったか??? もちろん…」
レオナルドは信じられないとでもいうように、目を見開き、アリシティアを凝視した。
「ソニア・ベルラルディーニ様と、私と、後もう1人の3人で、七並べをしました。どうしてもソニア様の招待状が欲しかったので、私が勝つまで何度も勝負を挑んだせいで、かなりの長丁場になりましたが、がんばりました」
何故か自慢げなアリシティアの答えに、レオナルドが「はぁっ?」と小さな声を漏らした。
アリシティアが、『あともう1人』という言葉で済ませた人物は、王弟であるガーフィールド公爵だ。その公爵の側に侍女として、ソニア・ベルラルディーニがいる時に、アリシティアはトランプを持って乗り込み、勝負を挑んだのだ。
それだけでもとんでもない話だが、一回の七並べにかかる時間の長さを知っていれば、普通の人ならば間違いなく絶句しただろう。
そんな庭園の中にあるガゼボの椅子に腰をおろした2人の青年は、テーブルの上の招待状から、いまだ視線を逸らすことができずにいた。
招待状と2人を遮るように置かれているいくつものキャンドルの灯りが、夜風に揺れていた。
レオナルドは一呼吸おき、冷静さを取り戻す努力をする。
芸術の神の愛し子とも呼ばれるソニア・ベルラルディーニのサロンへの招待状は喉から手が出る程に欲しい。欲しいが、その代わりに求められた事を実行すれば、間違いなく一部の人間を激怒させるだろうと思われた。
目の前でちょこんと座っている少女を改めて見据える。まさにいま咲き誇ろうとする花のように、刹那的な色香を持つ少女。彼女の要求を呑むのは簡単だった。
だが、それを実行した事がバレた時のことを考える。表情には出さなくても、間違いなく怒り狂う人物を思い浮かべると、レオナルドの眉根に寄った皺は消えないままだった。それはリカルドも同様だ。だが、断る選択肢は二人にはない。
「とりあえず、いくつか質問していいか?」
「もちろんです」
アリシティアはにっこりと微笑んだ。
対人関係を良好にするには、笑顔は基本だ。
この2人には、チューダー伯の仮面舞踏会の招待状を手に入れてもらいたい。そして、アリシティアと友達になってくれる、身元のはっきりした屑でろくでなしな友人を紹介して貰わねばならないのだから。できれば、モブに相応しい地味な顔の屑を希望したい所存だ。
「ルイスはこの事を知っているのか?」
「いいえ。ルイス様には関係のない事ですから」
「関係ない…」
レオナルドの質問に、アリシティアは爽やかな笑みを浮かべて端的に答えた。呆然とするレオナルドに続いて、リカルドが質問する。
「あのさ、王太子殿下はこの事を知ってる?」
「いいえ。今回の事については、私的な目的ですので、アルフレード王太子殿下には関わり合いのない事ですから、お知らせはしません」
「私的…あの変態の所にいく私的な理由って…」
再びレオナルドが呟いた。
「えっと、じゃあさ、流石にエリアス殿下は知っているよね?」
「いいえ。事後報告で済ませる予定です」
主語だけを変えた同じ質問が繰り返されるが、アリシティアは基本に忠実に、微笑みを崩さず好感度をあげようと、目前の面接官ならぬ二人の騎士に爽やかに答えていく。
同じような質問を繰り返すリカルドの声を遮り、今度はレオナルドが再び問う。
「その招待状をどうやって手に入れたのか聞いても?」
「カードです」
「カード?」
「カードゲームの事で、七並べという、七を基準に数字を並べるだけの単純なゲームをして…」
「いや、微妙に気になるけど、カードゲームについての説明は今はいい。誰とカードをして、その招待状を手に入れたのか聞いても?」
レオナルドの質問に、アリシティアは不思議そうに瞬きする。
「もちろん、ソニア・ベルラルディーニ様です」
アリシティアは当たり前だとでもいう風に答えたが…。
「もちろん? もちろんって言ったか??? もちろん…」
レオナルドは信じられないとでもいうように、目を見開き、アリシティアを凝視した。
「ソニア・ベルラルディーニ様と、私と、後もう1人の3人で、七並べをしました。どうしてもソニア様の招待状が欲しかったので、私が勝つまで何度も勝負を挑んだせいで、かなりの長丁場になりましたが、がんばりました」
何故か自慢げなアリシティアの答えに、レオナルドが「はぁっ?」と小さな声を漏らした。
アリシティアが、『あともう1人』という言葉で済ませた人物は、王弟であるガーフィールド公爵だ。その公爵の側に侍女として、ソニア・ベルラルディーニがいる時に、アリシティアはトランプを持って乗り込み、勝負を挑んだのだ。
それだけでもとんでもない話だが、一回の七並べにかかる時間の長さを知っていれば、普通の人ならば間違いなく絶句しただろう。
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