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第二章

22.【R18】ドSな婚約者と淫魔の下半身の矜持的な事情 1

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 アリシティアを膝の上に抱き上げたまま、目の前の男は妖艶に笑う。ぞわりとした感覚が彼女の背筋を襲った。

「……なんで?」

 アリシティアは勝ったはずなのに、何故か身体を拘束されて、硬くなったモノを擦り付けられている。捕えられた身体を捻り、必死に逃げ出そうと試みるが、身体を拘束した手は全く緩まなかった。




──── 賢者タイムあるよね? 一回やって自分が出したら、背中向けて寝ちゃうか、さっさと出ていくタイプよね?!



 アリシティアは怯えた顔をルイスに向けた。頭の中でなんとか現状打破する方法を画策してみるも、何も思い浮かばない。
ただ、このままではまずいということだけは、本能が告げている。




 ルイスがアリシティアの体の下で、擦り上げるように腰を動かすたびに、アリシティアから鼻に抜けた小さな声が漏れる。


「ねぇ、賢者タイムってなに?」

 ルイスはアリシティアの腰を抱きよせ、首筋にキスをする。ちくりとした痛みが走った。

「何するの?!マナー違反よ?!」

 首にキスマークをつけられたと気付いて、アリシティアはルイスの腕の中で必死にもがいた。

「じゃあ、答えてよ。賢者タイムって何?」

 ルイスは首筋をぺろりと舐めて、アリシティアの答えを促す。

「…賢者タイムっていうのは…、えっと、確か、射精後不応期しゃせいごふおうきっていう、脳から、ドーパミンを押さえ込むプロラクチンが分泌されて……」

 アリシティアは必死に前世の記憶を手繰り寄せて、雑誌のSEX特集で得た専門知識を披露しようとするが、

「いや、余計わかんないから。何語?」

 ルイスに遮られ、再び小さな痛みが走る。肌の表面がざわついた。寒気にも似た感覚にぴくりと震える。

「ちゃんと、説明してるのに……」

 半泣きで、アリシティアはルイスを睨む。けれどルイスの拘束する強さはさらに強くなり、熱の塊を押し付けられる。その度に甘い声が短く漏れた。

「わかる言葉で、説明して」

「わかるでしょ? パトリア語英語、習ったよね?」

「経典に出てこない単語は殆ど習ってない。ああ、そういや、それについても聞きたかったんだ」

「だって、当てはまる単語かないんだもん」

 今度は肩に噛みつかれた。痛くはないが体が跳ねた。

「歯形!!」

「うん、ついちゃった」

「ついちゃったじゃなくて、つけたんでしょ!!」

「だけどこれくらいなら、すぐに消えるよ。痛くはなかっただろ?」


 アリシティアの小さな抗議など気にも止めずに、ルイスは左手でアリシティアの腰を拘束したまま、右手でお尻の肉を鷲掴かんだ。

「ちょっ…」

 アリシティアは両手でルイスの胸を押して、距離を取る。彼女の今の気分は、肉食獣に喉元を狙われた非力で哀れな草食動物だ。

「ほら、良い子だから、無知な僕にわかるように教えて」



──── 何が良い子よ!!!



 叫びたかった。だが、この問題を終わらせる方がマシだと、とりあえずはあまり動かない頭で考える。


「…一度射精してしまうと、急激に冷めて煩悩を捨てた賢者みたいに、脳が性的な事には、まったく反応しなくなるような現象? 数秒前まで熱に浮かされていても、唐突に正気に戻るって…」

「ああ…。あるね、たしかに。一人でした後とか…」



─── 一人でするの、その顔で?!




 思わず声に出しそうになるも、アリシティアはなんとか口をつぐんだ。この目の前にいる、人を視線だけで妊娠させる事ができるような、あざとエロ可愛いドSな淫魔が、一人で性欲処理をするなど考えられない。

 アリシティアにはドSで嫌味ったらしくても、基本的にルイスは身分問わず誰にでもとても優しく甘い。だからこそ、性別問わず人に好かれている。近衞など、ルイスの友達ばかりだ。



 そもそも、下手に貴族令嬢に手を出せないにしても、ルイスは14歳からこの国の最高級の娼館に出入りしていた筈だ。

 そして王弟であるガーフィールド公爵から、16歳であのゴシック建築の荘厳な娼館を引き継いだ。ルイスの前にはこの国の中でも、最高級なお姉様方が列をなしているはずだ。


 などと、アリシティアは延々と考えていた。



 そんなアリシティアの胡乱な目を見て、ルイスはクスクスと笑いを漏らした。

「言っておくけど、僕は館の女の子とは寝たことはないよ? というより、アリスしか抱いた事ない」

「はあ?!」

 反射的に声が出た。

「だから、アリスを抱けない時は自分でする」

「絶対嘘!!」

 思わずいいきったアリシティアに、ルイスはムッとした表情でアリシティアを睨んだ。

「何で嘘だと思うの?」

「だって、館のお姉様方が14歳から出入りしてたって」

「それは叔父上からあの館と、人を引き継ぐ為だよ。まあ、知識としてはそれなりにいろんな事を習ったし、人の行為を目にする事もあった。でもアリスしか抱いてない」



 まったく…とでも言うように、ルイスは顔を横に振って、大きくため息を吐き出した。だがルイスの言葉が本当なら、彼が初めてアリシティアを抱いた時、彼も初めてだったという事で。




──── 童貞だった?!!!!




 初めての時とても痛かったのは、ルイスがわざと適当にした訳ではなく、経験値がなくて下手だったのだろう。

 今更ながら知った真実に、アリシティアは言葉を失った。



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