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第二章
2 【R18】
しおりを挟むぎゅっと心臓を鷲掴みにされているような、物理的な痛みが走る。
アリシティアは第二王子であるエリアスにも、王太子であるアルフレードにも大切にされている。多分、王弟であるガーフィールド公爵にも。
しっかりと周りに目を向けると、愛してくれている人がいる。アリシティアが感じている孤独は、あまりにも贅沢な物だ。
本当に欲しい人の心が、決して手に入らないとしても…。
ベアトリーチェがアリシティアではなくエヴァンジェリンを選ぶのは怖い。けれどその結果として、ウィルキウスに殺される事になろうと、それに対してはなぜか抗う気になれない。
仕方のない事だと思う。だってアリシティアは18歳で死ぬのだ。それは決まっているのだから。
アリシティアはカップをテーブルに置いて、ゆっくりと立ち上り、ルイスの隣に立つ。
「何を心配しているのですか? あなたがベアトリーチェの何に警戒しているのかわかりません」
アリシティアはわずかに首を傾げる。さらりと青紫がかった銀の髪が揺れる。
ルイスはアリシティアに手を伸ばした。細い腰を抱きしめ、その柔らかい胸に顔を埋める。アリシティアは少しクセのある絹のような手触りのプラチナブロンドに指を差し入れて、頭上にキスを落とし、優しく髪を撫でた。
「だってあいつは……得体が知れない」
ルイスのどこか苦々しげな声に、アリシティアは小さく笑った。
「何を今更。ベアトリーチェは魔女ですから、当たり前でしょう」
もとよりベアトリーチェは清廉潔白なタイプではない。魔女の薬と称した人を惑わせる怪しげな薬を売りさばく。その薬のせいで誰かが破滅したとしても、平然と笑っていられるような人間だ。
権力も富も、血縁も、俗世の全てのしがらみを捨て、人の理から外れた者だけが、魔術師や魔女になれるという。
その存在は、とてつもなく気まぐれで、残酷で、享楽的だ。たとえ世界が崩壊する時でさえも、その様を楽しむことができるような…。
魔女と呼ばれるベアトリーチェは、本来はそういう世界に属するものだ。
だからこそ、魔術師や魔女を権力や財力で支配しようとした者たちは身を滅ぼしてきた。
「今まで私とベアトリーチェが仲良くしても、ベアトリーチェについて何も言わなかったのに、なぜ急にそんなことを言い出したのですか?」
ルイスはアリシティアの腰を抱いたまま顔を上げた。
その手を引き、無言のまま隣に座らせる。そしてアリシティアの頬に手を滑らせて、顔をひき寄せ、優しく唇をはんだ。
──── ああ、聞かれたくない事を聞いてしまった訳ね。
キスで誤魔化すなんて、都合の悪い事を聞かれたと言っているようなものだ。けれどルイスがキスで話をそらすのなら、それはアリシティアにとっても、好都合だった。
いつものキス魔のキスとは、根本的に違う。キスで誤魔化して相手をコントロールしようとするなら、こちらから同じ事を仕返しても良いはずだ。
──── 仕掛けたのはそっちよ。
アリシティアは心の中で笑う。
舌先でルイスの唇を突いた。軽いキスを繰り返していた唇が薄く開く。
それと同時に、自らの舌を滑り込ませ舌を絡めた。
アリシティアの大好きな、ルイスの綺麗な輪郭を掠めるように指で擽り、耳の外輪へと指先を滑らせる。軽く耳たぶに爪をたてながら、絡めていた舌先を解いて、優しく下唇に歯を立てる。
ゆっくりと、首筋から鎖骨へと指を滑らせて、胸もとの突起を指先で弾いた。
さらに体のラインにそって、手のひらを下へと滑らせていく。
そして、指先を足の間に滑り込ませ、撫で上げた。
指の先に熱を帯びて硬くもちあがりかけたモノを感じ取り、手のひらで優しく包み込むと、手の中のものが脈打ち、急激に質量が増した。
わずかに唇を離すと、ルイスの薄い唇から熱い吐息が漏れ、青にも紫にも見える双眸が細められた。
その瞳は潤んでいて、その奥は見慣れた熱に支配されていた。
視線を離すことができない。
溢れかえるような淫靡なまでのその色香に、見惚れてしまっていた。
一瞬の間を置いて、意識をとり戻した時には、ルイスの柔らかな髪が頬に溢れ落ちてきて、その秀麗な顔の向こうに、見慣れた天井が見えた。
──── あれ?…これはちょっとまずい?
そう思った瞬間、唇を塞がれた。
22
お知らせ
一年後に死亡予定の嫌われ婚約者が、貴方の幸せのためにできること (モブで悪女な私の最愛で最悪の婚約者は、お姫様に恋している)第二章ラストシーンに伴い、ベアトリーチェがストーリーテラーとなる、大人のマザーグースっぽい作風のお話を掲載しました。
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7000文字の一話完結のショートショートです。
この物語を読んでいただけますと、ラストシーンの言葉の意味がほんの少しわかっていただけるかと思います。ただ、救いも何もない悲惨なバッドエンドですので、DVや復習が苦手な方は避けてください。
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