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第一章(書籍化により、前半削除されています)
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殺気立つルイスを前に、ベアトリーチェは嘲るような笑みを浮かべる。
「…どう言う意味かしら? 私がこの塔に入れられてから、ずっとアリスは私の親友よ? その親友の婚約者が、お姫様に夢中で親友を蔑ろにしていたら、苦情の一つも言いたくなるってものじゃない?」
「親友? 笑える冗談だな。お前は何の目的でアリシティアに取り入っている? 僕からアリシティアを引き離してどうするつもりだ」
ルイスの声には、普段アリシティアに向けられるような甘さは欠片もない。普段の柔らかな甘ったるい視線は消え失せ、凍てつく刃のようだった。
「私が引き離した? 私が知ってる話では、あんたがアリスを拒絶して捨てたと聞いたわよ? それにアリスをなんだと思ってるの? 私が取り入ったところで、あの子が簡単に人の思惑にのせられるような子だとでも? そもそもなんの根拠があって、そんな事言うのかしら?」
「しらばっくれるのも大概にしたらどうだ?」
ルイスは大きくなりそうな声を必死に抑える。それでも、ベアトリーチェを睨むのをやめることはできない。
そんなルイスを前に、ベアトリーチェは平然と微笑んだ。人差し指を唇にあてて、「んー」と考え込む。
「…そうは言われても、全く覚えはないわねぇ。あ、もしかして、先日の私たちの会話、聞いてたの? でも、貴方に正しく理解できたとは思えないのよねぇ。上位貴族の御曹司が受けるパトリア語の教育なんて、せいぜい教典に出てくる言葉をお遊び程度に学ぶくらいじゃない?」
ベアトリーチェの小馬鹿にしたような発言に、ルイスは眉間に皺を寄せた。たしかに、あの時のルイスは所々の単語を拾うだけで、精一杯だった。
稀代の天才と呼ばれたウィルキウス・ルフスが、パトリア語を自在に操る事にはさして疑念はない。
だが、アリシティアが、ウィルキウス・ルフスと対等にパトリア語を操ることができる理由がわからなかった。
「宰相の親戚筋とはいえ、平民でありながら、王侯貴族にまで天才と名を轟かせるお前はともかく、何故アリシティアがパトリア語を、それも日常会話を自在に扱えるんだ?」
「そんなの知らないわよ。気になるなら自分で聞けば良いじゃない。婚約者なんでしょ?」
たとえアリシティア本人に聞いても『閣下には関係のない事です』と、言われるのは目に見えている。
あの惨劇の日以降、ルイスは叔父である王弟に6年もの間アリシティアに関わることを禁じられた。
その間にアリシティアは完全にルイスと距離を置き、自分からは決してルイスに近よらないようになった。
手を伸ばせば触れられるし、抱きしめれば大人しくされるがままになっている。
だが、ルイスが何をしても苦笑しながら受け入れてくれ、嬉しいことがあれば笑顔を向けてくれたアリシティアは、もういない。
アリシティアは偶然ルイスと外で会ったとしても、感情の籠らない、完全に関心のない他人を見る目を、彼に向けるようになっていた。
そんな彼女を見たくなくて、ルイスはアリシティアに視線を向ける事ができなくなった。それがアリシティアを傷つけていた事も知らずに。
今のこの状況を作り出したのは、全てこれまでのルイス自身の行動だ。
けれど、その原因の一端は、この目の前の男にもあった。
違法な『惚れ薬』を作り、ばら撒いたとして、この塔に捕らえられている男。
魔女と呼ばれるウィルキウス・ルフスに。
「…どう言う意味かしら? 私がこの塔に入れられてから、ずっとアリスは私の親友よ? その親友の婚約者が、お姫様に夢中で親友を蔑ろにしていたら、苦情の一つも言いたくなるってものじゃない?」
「親友? 笑える冗談だな。お前は何の目的でアリシティアに取り入っている? 僕からアリシティアを引き離してどうするつもりだ」
ルイスの声には、普段アリシティアに向けられるような甘さは欠片もない。普段の柔らかな甘ったるい視線は消え失せ、凍てつく刃のようだった。
「私が引き離した? 私が知ってる話では、あんたがアリスを拒絶して捨てたと聞いたわよ? それにアリスをなんだと思ってるの? 私が取り入ったところで、あの子が簡単に人の思惑にのせられるような子だとでも? そもそもなんの根拠があって、そんな事言うのかしら?」
「しらばっくれるのも大概にしたらどうだ?」
ルイスは大きくなりそうな声を必死に抑える。それでも、ベアトリーチェを睨むのをやめることはできない。
そんなルイスを前に、ベアトリーチェは平然と微笑んだ。人差し指を唇にあてて、「んー」と考え込む。
「…そうは言われても、全く覚えはないわねぇ。あ、もしかして、先日の私たちの会話、聞いてたの? でも、貴方に正しく理解できたとは思えないのよねぇ。上位貴族の御曹司が受けるパトリア語の教育なんて、せいぜい教典に出てくる言葉をお遊び程度に学ぶくらいじゃない?」
ベアトリーチェの小馬鹿にしたような発言に、ルイスは眉間に皺を寄せた。たしかに、あの時のルイスは所々の単語を拾うだけで、精一杯だった。
稀代の天才と呼ばれたウィルキウス・ルフスが、パトリア語を自在に操る事にはさして疑念はない。
だが、アリシティアが、ウィルキウス・ルフスと対等にパトリア語を操ることができる理由がわからなかった。
「宰相の親戚筋とはいえ、平民でありながら、王侯貴族にまで天才と名を轟かせるお前はともかく、何故アリシティアがパトリア語を、それも日常会話を自在に扱えるんだ?」
「そんなの知らないわよ。気になるなら自分で聞けば良いじゃない。婚約者なんでしょ?」
たとえアリシティア本人に聞いても『閣下には関係のない事です』と、言われるのは目に見えている。
あの惨劇の日以降、ルイスは叔父である王弟に6年もの間アリシティアに関わることを禁じられた。
その間にアリシティアは完全にルイスと距離を置き、自分からは決してルイスに近よらないようになった。
手を伸ばせば触れられるし、抱きしめれば大人しくされるがままになっている。
だが、ルイスが何をしても苦笑しながら受け入れてくれ、嬉しいことがあれば笑顔を向けてくれたアリシティアは、もういない。
アリシティアは偶然ルイスと外で会ったとしても、感情の籠らない、完全に関心のない他人を見る目を、彼に向けるようになっていた。
そんな彼女を見たくなくて、ルイスはアリシティアに視線を向ける事ができなくなった。それがアリシティアを傷つけていた事も知らずに。
今のこの状況を作り出したのは、全てこれまでのルイス自身の行動だ。
けれど、その原因の一端は、この目の前の男にもあった。
違法な『惚れ薬』を作り、ばら撒いたとして、この塔に捕らえられている男。
魔女と呼ばれるウィルキウス・ルフスに。
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