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第一章(書籍化により、前半削除されています)
15.ルイスと惚れ薬と稀代の天才 1
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13と14は、書籍版のシーンと一部類似シーンがあるためとりさげられました。
取り下げられたweb版ストーリーは、あらすじを公開していますので、そちらを御一読くださいませ。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
ノックが響く。部屋の主が返事を返すと、ゆっくりとドアが開いた。
主は手に持っていた本を閉じ、顔をあげる。その視線の先には、見る者全てを魅了する天上人のような美貌を誇る、美しい青年が佇んていた。
だが、その面持ちはとてつもなく冷たい。彼の秀麗な顔からは普段の甘ったるい笑みは完全に消え去り、その麗しい相貌には殺気を宿している。
「あらラローヴェル侯爵閣下、いらっしゃい。随分とご機嫌斜めね」
錬金術師の塔の5階。最奥の部屋の主であるベアトリーチェは、乱雑とした室内に置かれたソファーの上でおどけるように笑った。
「その白々しい演技をやめろ、魔女、いや、ウィルキウス・ルフス」
ルイスの言葉に、ベアトリーチェが瞬間目を見張り、続いて面白そうに笑い声を上げた。
「ははっ、久しぶりに聞いたわ、その名前。お姫様に絆されて、己に与えられた仕事もこなせず、一番肝心な情報を取りこぼして婚約者を危険に晒したおぼっちゃまにしてはよく調べたわね」
「黙れ。アリシティアに取り入っている犯罪者を、僕が調べてないとでも思ったのか?」
ルイスは閉じた扉を背に、腕を組んだ状態で、ベアトリーチェを睨みつける。
そこには普段の甘さは欠片もなかった。
「へぇ? アリスが言うには、あんたは大好きなお姫様に夢中で、叔父様の指示がないと、アリスのことなんて視界にも入れてないって話だけど?」
切れ長の紫色の目を細めて鼻で嗤い、ベアトリーチェは椅子の肘置きに頬杖をついた。白衣の下は、黒いシャツとスリットの入ったタイトスカート姿で、長い足を優美に組み替え首をかしげる。肩にかかった長い黒髪が、さらりと胸元にこぼれ落ちた。
大きな窓がある室内は、薬品や奇妙な器具が、雑然と置かれている。壁側の棚には古めかしい本が並んでいるが、色褪せた様子はない。保護的な魔術がかけられているのだろう。
塔の錬金術師達は、実は魔力持ちが多のでは…といわれている。それは、魔女と呼ばれるこの男も例外ではない。
これまでこの男が作り出してきた魔女の薬と呼ばれる様々な薬は、魔力がなくては出来ないものだった。
ただ、魔力を操る手段は各々異なっていて、彼らがそれを第三者に教える事は無いと言われている。
「王女の側にいるのは、あくまでも僕に与えられている仕事の一つだ。僕はアリシティアを、僕の仕事に巻き込みたくないだけだ」
「ふーん。お姫様との時間を邪魔されたくないだけじゃないの? 少なくともアリスはそう思ってるわよ?自分はあんたにもこの世界にも忘れられた存在だってね。…ねぇ、誘拐されて酷い目にあったアリスに、お姫様を庇う発言をしたようじゃない? そんなにお姫様が大事なら、アリスを解放してあげたらどう?」
指先に長い黒髪を巻き付けて弄びながら、ベアトリーチェは嘲笑するように、首を傾げた。その姿にルイスがぎしっと奥歯を噛み締める。
「……お前がそれを言うのか?」
それは、普段のルイスからは到底考えられない、唸るような低い声だった。
取り下げられたweb版ストーリーは、あらすじを公開していますので、そちらを御一読くださいませ。
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ノックが響く。部屋の主が返事を返すと、ゆっくりとドアが開いた。
主は手に持っていた本を閉じ、顔をあげる。その視線の先には、見る者全てを魅了する天上人のような美貌を誇る、美しい青年が佇んていた。
だが、その面持ちはとてつもなく冷たい。彼の秀麗な顔からは普段の甘ったるい笑みは完全に消え去り、その麗しい相貌には殺気を宿している。
「あらラローヴェル侯爵閣下、いらっしゃい。随分とご機嫌斜めね」
錬金術師の塔の5階。最奥の部屋の主であるベアトリーチェは、乱雑とした室内に置かれたソファーの上でおどけるように笑った。
「その白々しい演技をやめろ、魔女、いや、ウィルキウス・ルフス」
ルイスの言葉に、ベアトリーチェが瞬間目を見張り、続いて面白そうに笑い声を上げた。
「ははっ、久しぶりに聞いたわ、その名前。お姫様に絆されて、己に与えられた仕事もこなせず、一番肝心な情報を取りこぼして婚約者を危険に晒したおぼっちゃまにしてはよく調べたわね」
「黙れ。アリシティアに取り入っている犯罪者を、僕が調べてないとでも思ったのか?」
ルイスは閉じた扉を背に、腕を組んだ状態で、ベアトリーチェを睨みつける。
そこには普段の甘さは欠片もなかった。
「へぇ? アリスが言うには、あんたは大好きなお姫様に夢中で、叔父様の指示がないと、アリスのことなんて視界にも入れてないって話だけど?」
切れ長の紫色の目を細めて鼻で嗤い、ベアトリーチェは椅子の肘置きに頬杖をついた。白衣の下は、黒いシャツとスリットの入ったタイトスカート姿で、長い足を優美に組み替え首をかしげる。肩にかかった長い黒髪が、さらりと胸元にこぼれ落ちた。
大きな窓がある室内は、薬品や奇妙な器具が、雑然と置かれている。壁側の棚には古めかしい本が並んでいるが、色褪せた様子はない。保護的な魔術がかけられているのだろう。
塔の錬金術師達は、実は魔力持ちが多のでは…といわれている。それは、魔女と呼ばれるこの男も例外ではない。
これまでこの男が作り出してきた魔女の薬と呼ばれる様々な薬は、魔力がなくては出来ないものだった。
ただ、魔力を操る手段は各々異なっていて、彼らがそれを第三者に教える事は無いと言われている。
「王女の側にいるのは、あくまでも僕に与えられている仕事の一つだ。僕はアリシティアを、僕の仕事に巻き込みたくないだけだ」
「ふーん。お姫様との時間を邪魔されたくないだけじゃないの? 少なくともアリスはそう思ってるわよ?自分はあんたにもこの世界にも忘れられた存在だってね。…ねぇ、誘拐されて酷い目にあったアリスに、お姫様を庇う発言をしたようじゃない? そんなにお姫様が大事なら、アリスを解放してあげたらどう?」
指先に長い黒髪を巻き付けて弄びながら、ベアトリーチェは嘲笑するように、首を傾げた。その姿にルイスがぎしっと奥歯を噛み締める。
「……お前がそれを言うのか?」
それは、普段のルイスからは到底考えられない、唸るような低い声だった。
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