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あおの章 青葉
僕と水樹
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大人になった今でも、ふと思う。
普通の兄弟であったなら、僕と水樹はどんな人生を歩んでいたのだろう……と。
僕には弟いる。しかし弟という感覚はない。それはたぶん、僕たちが双子の兄弟だからだろう。
僕の名は青葉で、弟の名は水樹という。青色が好きな父と、水色が好きな母によって名付けられた。
母親の胎内で一緒に育ち、産まれるときも時間差があるだけで、ほぼ同日に誕生するのだから、兄と弟という感覚がなくても当然のように思う。
親の教育方針にもよるが、差別がないように双子を平等の存在として育てることが多い。僕も親に「お兄ちゃん」と言われたことはないし、水樹も僕を「兄」と呼んだことはない。けれど周囲は僕を兄として扱い、水樹を弟として見るのだ。
水樹とは常に一緒だった。そばにいるのがあたりまえで、近くにいないと姿を探してしまう。共にいることが、ごく自然なことだったからだ。
いつからだろう。水樹が僕のそばからいなくなったのは。いや、僕が水樹から離れるようになったのかもしれない。あれほど共にいたのに。
「母さん、ゴミ出してきたよ。あと食器も洗っておいた」
「ありがとう、青葉」
布団から身を起こした母さんが、僕に笑顔を向ける。僕と水樹が中学に入学した頃から、母さんは体調を崩して寝込むことがあった。若い頃から体は弱かったらしいが、僕と水樹を産んでから、さらに体が弱くなってしまったらしい。それでも子育てだけはしっかりしたいと、必死に僕たちを育てくれた。
双子の子育ては過酷だということは、まだ子供の僕でも容易に想像できた。一人でも大変な赤ん坊が、二人いるのだから。しかも水樹は夜泣きが酷かったらしく、母さんはほとんど寝れなかったと聞いている。
歩くようになると、水樹は活発に動き回るようになり、僕は母さんのそばを離れようとしなかった。困った母は、僕をおんぶして水樹を追いかけ回す日々だった、と笑って話してくれた。
無事に中学生になれたのは、母さんのおかげだと思っている。だから母さんをもっと助けてあげるべきなのに、水樹の奴は──。
「遊びに行ってきまーす」
「おい、水樹。おまえも家のことを手伝えよ」
「母さんには青葉がいるだろ。俺じゃあ、何の役にも立たないし」
「役に立つとか、立たないとかじゃなくて気持ちとして……」
「はい、はい。わかりましたよ、青葉くん。明日は掃除でもするからさ。今は遊びに行かせてくれよ。友達と約束してんだ。じゃあな!」
「待て、水樹!」
僕の言葉を待たず、水樹は遊びに行ってしまった。相変わらず、足だけは早い。
「全く、どうしようもない奴だな」
「ふふふ。あれでも一応私を気遣ってくれてるのよ。黙ってでかけてないし、明日は掃除をするって言ったでしょ? あれがあの子なりの優しさなのよ」
「アイツが優しい? そんなわけないだろ、母さん」
顔をゆがめる僕を見兼ねたのか、母さんは笑いながら、僕の手を取った。
「青葉は優しい子ね。あなたがいてくれるから、母さんは安心よ。もしも母さんに何かあったら、水樹のことを頼むわね。あなたと水樹は、二人きりの兄弟で家族だもの。お願いね」
心にしみ込むような、優しい笑顔だった。母さんはこの時すでに、自分の体が限界を迎えていることに気付いていたのだろう。そのことに気付かなかった僕は、やはりまだ子供だったのだ。
普通の兄弟であったなら、僕と水樹はどんな人生を歩んでいたのだろう……と。
僕には弟いる。しかし弟という感覚はない。それはたぶん、僕たちが双子の兄弟だからだろう。
僕の名は青葉で、弟の名は水樹という。青色が好きな父と、水色が好きな母によって名付けられた。
母親の胎内で一緒に育ち、産まれるときも時間差があるだけで、ほぼ同日に誕生するのだから、兄と弟という感覚がなくても当然のように思う。
親の教育方針にもよるが、差別がないように双子を平等の存在として育てることが多い。僕も親に「お兄ちゃん」と言われたことはないし、水樹も僕を「兄」と呼んだことはない。けれど周囲は僕を兄として扱い、水樹を弟として見るのだ。
水樹とは常に一緒だった。そばにいるのがあたりまえで、近くにいないと姿を探してしまう。共にいることが、ごく自然なことだったからだ。
いつからだろう。水樹が僕のそばからいなくなったのは。いや、僕が水樹から離れるようになったのかもしれない。あれほど共にいたのに。
「母さん、ゴミ出してきたよ。あと食器も洗っておいた」
「ありがとう、青葉」
布団から身を起こした母さんが、僕に笑顔を向ける。僕と水樹が中学に入学した頃から、母さんは体調を崩して寝込むことがあった。若い頃から体は弱かったらしいが、僕と水樹を産んでから、さらに体が弱くなってしまったらしい。それでも子育てだけはしっかりしたいと、必死に僕たちを育てくれた。
双子の子育ては過酷だということは、まだ子供の僕でも容易に想像できた。一人でも大変な赤ん坊が、二人いるのだから。しかも水樹は夜泣きが酷かったらしく、母さんはほとんど寝れなかったと聞いている。
歩くようになると、水樹は活発に動き回るようになり、僕は母さんのそばを離れようとしなかった。困った母は、僕をおんぶして水樹を追いかけ回す日々だった、と笑って話してくれた。
無事に中学生になれたのは、母さんのおかげだと思っている。だから母さんをもっと助けてあげるべきなのに、水樹の奴は──。
「遊びに行ってきまーす」
「おい、水樹。おまえも家のことを手伝えよ」
「母さんには青葉がいるだろ。俺じゃあ、何の役にも立たないし」
「役に立つとか、立たないとかじゃなくて気持ちとして……」
「はい、はい。わかりましたよ、青葉くん。明日は掃除でもするからさ。今は遊びに行かせてくれよ。友達と約束してんだ。じゃあな!」
「待て、水樹!」
僕の言葉を待たず、水樹は遊びに行ってしまった。相変わらず、足だけは早い。
「全く、どうしようもない奴だな」
「ふふふ。あれでも一応私を気遣ってくれてるのよ。黙ってでかけてないし、明日は掃除をするって言ったでしょ? あれがあの子なりの優しさなのよ」
「アイツが優しい? そんなわけないだろ、母さん」
顔をゆがめる僕を見兼ねたのか、母さんは笑いながら、僕の手を取った。
「青葉は優しい子ね。あなたがいてくれるから、母さんは安心よ。もしも母さんに何かあったら、水樹のことを頼むわね。あなたと水樹は、二人きりの兄弟で家族だもの。お願いね」
心にしみ込むような、優しい笑顔だった。母さんはこの時すでに、自分の体が限界を迎えていることに気付いていたのだろう。そのことに気付かなかった僕は、やはりまだ子供だったのだ。
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