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第二章 新たな生活とじゃがいも料理あらかると

華やかでモダンなサラド

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「ひゃ~……。さち姐さんが、こんなにべっぴんさんだったなんて、おいら知らなかったですぅ」

 一つ目小僧はやっと正気に戻ったようで、照れくさそうにさちを見つめている。

「本当だなぁ、こりゃあ、たまげたよ」

 油すましも呆然とした様子で呟いている。

 そんな中、さちを強引に着替えさせ化粧もしてやったおりんだけは、満足そうに笑っていた。

「うふふふ。どうだい、あたしの腕前は。さちはこの通り、器量良しだったのさ。ぬらりひょん様、さちのこと、見直しましたか?」

 ぬらりひょんはさちをぼんやりと見つめたままだった。

「ん? あ、ああ。そうだな……」

 さちの美しさに、すっかり心を奪われたようだ。うわの空で呟いている。

「さぁさ、今からさちが作った料理で晩餐会だよ! ぬらりひょん様、さちが作る華やかでモダンなハイカラ料理、存分に楽しみましょう」

 おりんが手を叩き、ぬらりひょんはようやく現実に戻ってきたようだ。腕を組み、普段の微笑みを見せる。

「そうであったな。さちの料理はうまい。わしも楽しみだ」
「ぬらりひょん様……」

 ぬらりひょんの微笑みに、さちも安堵したように笑顔になった。

「そうでやんす! おいらも手伝ったハイカラ料理ですぜ」

 一つ目小僧が嬉しそうに叫び、さちも声を合わせる。

「皆様、こちらへ。じゃがいも料理のフルコースをどうぞご堪能下さいませ」

 さちは良家の奥方のように優美な微笑みで、ぬらりひょんらを招いた。

 狭いちゃぶ台を取り囲むように一同が腰を下ろすと、白いエプロンをつけたさちが早速料理を運んできた。

「お待たせしました。こちらが皆様がお好きなコロッケ、スープ、そして本日は『じゃがいものサラドポテトサラダ』もご用意しましたので、付け合わせとしてお召し上がりください」

 さちがじゃが芋のサラドを盛った大皿を、ちゃぶ台の中央に置いた。

 じゃがいもの白色にマヨネーズソースの黄白色、茹で卵のきいろ、きゅうりのみどり色、人参の朱色、ハムの赤色と見た目にも華やかなサラドに、全員の目が釘付けになっていく。

「おお、これは華やかな……。さち、これはどういった料理なのだ?」

 問われたさちは、頬をほんのり赤く染めながら、あでやかに微笑む。

「じゃがいものサラドは蒸して潰したじゃがいもに、刻んだハムや色とりどりの野菜、ゆで卵などを、ボイルド・マヨネーズ・ソースと呼ばれる卵とお酢と油で作るとろみのあるソースで合える料理です。潰したじゃがいもがマヨネーズソースのおかげで華やかでモダンな味わいになっております。本日のスープはスープストックと刻んだ野菜で作ったコンソメスープと呼ばれるものですよ。どれもお代わり分も用意しておりますので、心ゆくまでご堪能ください」

 さちの説明を真面目に聞いているのはぬらりひょんのみで、一つ目小僧や油すまし、ろくろ首のおりんは、早く食べたくてたまらないといった様子で料理を見つめている。

「うまそうでやんすよねぇ……」
「酒に合いそうだの。おい、ぬらりひょん、酒はどこだ?」
「じゃが芋がこんなにハイカラでモダンな料理になるなんてねぇ……」

 サラドとコンソメスープという見たことのない料理に、それぞれが歓喜の声を上げる。
 大皿からそれぞれの取り皿へ、さちがサラドとコロッケを取り分けていく。

「皆様どうぞ」

 さちの言葉を合図に、ぬらりひょんがこほんと咳払いした。

「では、いただくとするか」
「待ってやした!」

 我慢できなかったのか、一つ目小僧とぬらりひょんの言葉はほぼ同時だった。ぬらりひょんが苦笑しながら手を合わせる。

「いただきます!」

 晩餐会がにぎやかに始まった。
 ぬらりひょんが箸でサラドを口の中へ運ぶ。

 じゃが芋の素朴な甘みと豊富な具材がマヨネーズソースによって、まろやかでこくのある華やかな味わいへと変化している。とろりとした優しい食感が口の中に拡がり、食す者の心と体をそっと包みこむ。華やかな味わいの中に、しみ込むような慈しみと愛情が込められているのを感じる。

「これは……」

 もはや言葉は必要なかった。とことん味わい尽くし、心ゆくまで堪能するのみだ。

「うまいでやんすねぇ、おいらが潰したじゃがいも、うまいでやんすねぇ」

 一つ目小僧は自分がじゃがいもを潰して手伝ったのだと何度も口にしながら、次々口の中へ運んでいく。
 油すましはどこからか勝手に酒を持ってきて、サラドとコロッケを肴に晩酌をしている。

「いいねぇ、サラド。コロッケもさくさくしてて実にうまい。色気もそっけもないじゃがいもが、こんなにハイカラで華やかな料理になるなんてねぇ……。まるで誰かさんみたいじゃないか。ねぇ、ぬらりひょん様?」

 思惑ありげなおりんの視線を感じたぬらりひょんだったが、あえて視線を合わせないようにする。しかしその頬がわずかに上気していることを、おりんが見逃すはずがない。満足そうに、にまりと笑うおりんだった。

 さちも席に加わり、給仕をしながら楽しく食事をとる。
 それぞれがさちの作った料理を存分に味わい、にぎやかに語り合った。やがてちゃぶ台の上の料理が跡形もなく消え去っていく。

「ああ、今日も美味かったのぅ」
「本当でやんす。さち姐さんの料理は何でもうまいっすけど、じゃがいも料理は格別でやんす!」
「おお、酒によく合う料理なら何でも歓迎だ」
「さちはとびきり可愛くてべっぴんで、気が利いて、料理も家事もできる。本当に良いお嫁さんをもらいましたねぇ。ぬらりひょん様?」

 またもおりんがぬらりひょんを見つめながら、うふふと笑っているので、ぬらりひょんはその場をごまかすように手を合わせて口を開いた。

「ごちそうさまでした!」



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