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episode2
抱きしめられて
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大きな手が私の体を撫でている。ゆっくりと撫でるその手は優しく、疲れ切った私の体を癒してくれる。温かい……なんて気持ちいいんだろう。私はこの手を知っている。誰より大切な人だから。
ゆっくり目を開けると、私は奨さんの腕の中にいた。
「みゃおう!」
あれ? 私まだ猫の姿だったんだ。昨夜は夜のお散歩に出かけて、気持ちよく走って。その後は……ゆっくりと記憶が蘇ってきた。そうだ、黒猫タチバナに襲われたんだ! おまけにアイツもどうやら猫に変身するらしくて。恐ろしい女性に気をつけろって言われた。すごく怖かったんだよ?
「みゃ~みゃ~みゃうみゃう!」
奨さんに伝えようと必死に話すも、口から出てくるのは猫語ばかりだった。
「落ち着いて、まゆちゃん。まずは人間に戻ろう? 話はそれからだ」
そっか。猫の姿でいくら叫んでも、通じるわけなかったんだ。そんなこともわからないぐらい、私の頭の中は混乱していた。
「みゃう!」
奨さんの腕の中から飛び降りると、奨さんに借りている私の部屋へ向かって走っていった。体のあちこちがまだ痛い。早く人間に戻って奨さんに話を聞いてもらうんだ。部屋の中で変身を解き、着替えをすませようと立ち上がると、足がずきりと痛んだ。
「いた……何これ」
よく見ると、手や足のあちこちに擦り傷があった。昨夜人間に一時的に戻ったときに出来た傷だろう。裸でゴミ箱の後ろに滑り込んだもんね。今思えば無茶なことをしたものだと思う。
ダイニングで奨さんは私をずっと待ってくれていた。私の姿を確認すると、無事で良かったと言うように優しく微笑んだ。その微笑みを見た途端、私の中から言葉が消えてしまった。代わりに溢れてきたのは涙。止めようと思っても止まらず、その場で小さな子どもみたいに泣き出してしまった。
「まゆちゃん!? どこか痛いの?」
急いで駆け寄ってきた奨さんは心配そうに私に触れ、一瞬ためらった後、そっと優しく私を抱きしめた。奨さんの腕の中は温かく、心地良かった。
「かわいそうに。怖い目にあったんだね」
人間の姿で初めて奨さんに抱かれた。本当なら嬉しくて仕方ないのに、今はただ泣けて泣けて、どうしようもなかった。
「こわかった、すごく怖かった。もう帰ってこれないかと思った」
なんとか帰って来れたのが嬉しくて、奨さんにもう一度会えたのが嬉しくて、奨さんの腕の中でひたすら泣いた。
次々と溢れ出す感情の整理がつかない、涙が止まらない。奨さんは私が泣き止むまでずっと優しく背中をさすってくれた。
この優しい腕があれば私はもう何もいらない。側にいられるだけで幸せ。
決めた、私はもう猫にはならない。二度と変身しない。あんな怖い目に合うのはもうごめんだ。
奨さんの腕の中で泣き続けながら、私は秘かに決意をしたのだった。
ゆっくり目を開けると、私は奨さんの腕の中にいた。
「みゃおう!」
あれ? 私まだ猫の姿だったんだ。昨夜は夜のお散歩に出かけて、気持ちよく走って。その後は……ゆっくりと記憶が蘇ってきた。そうだ、黒猫タチバナに襲われたんだ! おまけにアイツもどうやら猫に変身するらしくて。恐ろしい女性に気をつけろって言われた。すごく怖かったんだよ?
「みゃ~みゃ~みゃうみゃう!」
奨さんに伝えようと必死に話すも、口から出てくるのは猫語ばかりだった。
「落ち着いて、まゆちゃん。まずは人間に戻ろう? 話はそれからだ」
そっか。猫の姿でいくら叫んでも、通じるわけなかったんだ。そんなこともわからないぐらい、私の頭の中は混乱していた。
「みゃう!」
奨さんの腕の中から飛び降りると、奨さんに借りている私の部屋へ向かって走っていった。体のあちこちがまだ痛い。早く人間に戻って奨さんに話を聞いてもらうんだ。部屋の中で変身を解き、着替えをすませようと立ち上がると、足がずきりと痛んだ。
「いた……何これ」
よく見ると、手や足のあちこちに擦り傷があった。昨夜人間に一時的に戻ったときに出来た傷だろう。裸でゴミ箱の後ろに滑り込んだもんね。今思えば無茶なことをしたものだと思う。
ダイニングで奨さんは私をずっと待ってくれていた。私の姿を確認すると、無事で良かったと言うように優しく微笑んだ。その微笑みを見た途端、私の中から言葉が消えてしまった。代わりに溢れてきたのは涙。止めようと思っても止まらず、その場で小さな子どもみたいに泣き出してしまった。
「まゆちゃん!? どこか痛いの?」
急いで駆け寄ってきた奨さんは心配そうに私に触れ、一瞬ためらった後、そっと優しく私を抱きしめた。奨さんの腕の中は温かく、心地良かった。
「かわいそうに。怖い目にあったんだね」
人間の姿で初めて奨さんに抱かれた。本当なら嬉しくて仕方ないのに、今はただ泣けて泣けて、どうしようもなかった。
「こわかった、すごく怖かった。もう帰ってこれないかと思った」
なんとか帰って来れたのが嬉しくて、奨さんにもう一度会えたのが嬉しくて、奨さんの腕の中でひたすら泣いた。
次々と溢れ出す感情の整理がつかない、涙が止まらない。奨さんは私が泣き止むまでずっと優しく背中をさすってくれた。
この優しい腕があれば私はもう何もいらない。側にいられるだけで幸せ。
決めた、私はもう猫にはならない。二度と変身しない。あんな怖い目に合うのはもうごめんだ。
奨さんの腕の中で泣き続けながら、私は秘かに決意をしたのだった。
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