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episode2

マジカル・キャットから人間へ

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 奨さんに部屋を借りると、猫の手で首のチョーカーに触れる。
 青い貴石のついた黒いチョーカーは私の変身アイテム。不思議なチョーカーのおかげで猫に変身できる。変身をとくとき、つまり人間に戻るときは、チョーカーに触れることで変身をとくことができる。私にとっては何より大事なもの。

 チョーカーにふれた猫の手がブルーの閃光を放ち始め、青い光は体全体へと拡がっていく。心地の良い温かさが私を包み込み、小さく縮まった猫の体が、ゆっくりと人間へ戻っていく。始めは手足、次に体中心部、最後に顔が元に戻れば完了。ごく普通の女性、時村まゆの体に戻っている。

 変身は青い光の中で行われるから人に見られることはないと思うけど、問題は人間に戻ったときに丸裸ってこと。猫に変身したとき、着ていた衣服は滑り落ちてしまうから当然なんだけどね。『時村まゆ』に戻ったとき、着れる服が側にあるとは限らない。

 だから自分の部屋以外で人間に戻るときは、必ず着替えを風呂敷で持ち歩くの。猫の手では服を畳めないから、予め着替えを用意しておいて、風呂敷で包み、猫の体が通るぐらいの結び目を作っておく。猫に変身したら結び目に体を通して装着完了。ちょっと猫のほっかむりみたい悲しいけど、仕方ない。ミニカバンとかで試したこともあるけど、体が抜けなくなったことがあるから、軽くて柔らかな風呂敷が一番いい。

 今晩の着替えは、私が一番お気に入りのワンピース。シンプルなデザインなんだけど、シルエットがキレイだからスタイルが良く見える。奨さんには少しでも綺麗に、大人っぽく見てもらいたいもの。

「よし! 変身完了、着替え完了!」

 私は元気よく声を出す。声を出すことで、自分自身に気合を入れる
 早くなる胸の鼓動を抑えながら、奨さんが待つベランダへ向かった。ベランダにはミニテーブルと椅子がおかれていて、奨さんが椅子に座りながら月を眺めていた。静かに月を見つめる奨さんの顔は、なぜかとても寂しそうで、なんだか声をかけにくい。
 でもこのまま奨さんを見つめてるわけにはいかないから、思い切ってそっと声をかけた。

「あの、奨さん。着替えてきました」

 声に気付いた奨さんが、静かにその顔を私に向ける。私だと確認すると、ゆっくりと優雅に微笑んだ。その微笑は月明かりに照らされ、艶めくように色っぽい。こ、これが大人の男の色気ってヤツかしら。胸の鼓動がさらに早くなってしまう。

「やぁ、まゆちゃん。綺麗に変身したね。そのワンピースよく似合ってるよ。とてもきれいだ」

 どきん。胸の音がどうしようもないほどに高鳴り、顔が熱くなる。思えば男の人に「きれいだね」なんて言われたことなかった。これが初めて。うう、なんて破壊力なの、ドキドキが止まらない、どうしよう。
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