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第三章
サプライズパーティー
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いよいよサプライズ家族パーティー計画予定日やってきた。ダイニングルームに全員が集まったら、美冬が宗次郎と美代子に話す、という予定になっていた。
「父と母へ私から伝えたいことがあるの。だからまず私から話をさせて」
両親を思う娘の、真摯な眼差しだった。草太はあえて何も聞かず、美冬に任せることにした。
家族で集まって食事をするダイニングルームの隣に、大きなリビングルームがあり、ダンスはリビングルームですることにした。きれいに飾り付けを行い、食事は立食パーティー形式にして、お酒やドリンクなどを用意した。
「そろそろお時間ですよ。宗次郎様、夕子様がまもなく来られます」
草太と美冬は目線を合わせた。いよいよだ。このパーティーで宗次郎と美代子になんとか仲直りしてもらいたい。そうすれば草太と美冬のことも理解してもらえるかもしれないのだから。
「なんだこれは。美冬、今日は何をするつもりだ」
ダイニングルームにまず入ってきたのは宗次郎だった。土曜日恒例の家族の夕食会だと思ったのだろう、ブルーのシャツとタックパンツというラフな服装だった。続いて美代子がやってきた。品の良い紺色のカジュアルドレスを着ている。
「お父さん、お母さん。ここに座って。話があるの」
美冬が予め用意しておいたソファーに座るよう促すと、宗次郎と美代子はお互いに顔を見合わせ不思議そうにしつつも、美冬の指示に従った。美冬はふたりの前に立つと、静かに語り始めた。
「突然でごめんなさい。今日は家族だけのホームパーティーを、私と草太くんとで企画しました。日頃お世話になってるお父さんとお母さんに、感謝の気持ちを伝えたかったから。そしてこの場を借りて、ふたりに伝えたいことがあります」
そこで言葉を一旦切ると、美冬は軽く深呼吸した。
「実は私は、生涯結婚はしないつもりでした。そして六野家も継ぐつもりはありませんでした」
突然の娘の告白に、仰天したのは父親の宗次郎だった。
「美冬、何を言うんだ。おまえは一人娘だぞ。お前以外に誰がこの家を継ぐというんだ。なぜそんな悲しいことを言う?」
草太も驚いて言葉を失った。美冬がそこまでの覚悟とは思わなかったのだ。
「お父さん、私の話を聞いて。私は知っての通り、ろくろ首体質の女よ。あやかし系の私を、好きになってくれる男性なんていないと思ってました。そしてろくろ首の遺伝子を継ぐのは私の代で最後にしようと思ってました。今の世でろくろ首体質を秘密にするのは、あまりに辛い定めと思ってたから。でもね、草太くんに出会って、その考えが間違っていたことに気付きました」
美冬は草太をほうへ視線を向け、微笑みながら話を続けた。
「私の秘密を知っても草太くんは私の側にいてくれる。私を助けて、自分を卑下しないでください。美冬さんはキレイです、可愛いですよ、っていってくれるの。それがどれだけ嬉しいか、お父さんわかってくれるかしら? 草太くんは私を、そのままの私を受け止めて支えてくれるの。頑張って生きていたら、こんなに幸せな出会いもあるだって、私は初めて知りました。草太くんとなら、私は未来に希望をもって生きていける。草太くんに出会えたのは、お父さんとお母さんがこれまで私を守り、支えてくれたから。お父さんから見たら、私は世間知らずで身勝手な娘だと思います。でもどうか、草太くんと一緒に生きることを許してください。そして六野家を草太くんと一緒に守らせてください」
美冬は両親に深々と頭を下げた。草太も美冬の横に並ぶと共に頭を下げた。美冬は草太や、そして宗次郎が考える以上に、自分を戒めていたのだ。ゆっくりと顔をあげると、宗次郎は目頭を抑えていた。泣いているようだ。
「お父さんとお母さんが、私と草太くんとのことで喧嘩していると聞きました。どうか私のことで争わないで。仲直りしてほしくて、このパーティーを企画したの。どうか楽しんでください。まずは私と草太くんとでダンスを披露するから見てね」
美冬が草太に向き合うと、ゆっくりと手を伸ばした。草太は美冬の腕を受け入れ、しっかりと体を組んだ。
「さぁ、始めますよ。準備はいいですか?」
「はい!」
草太と美冬、二人はしっかりとステップを踏み、軽やかに踊り始めた。ふたりのダンス開始に合わせて、夕子が音楽をプレイヤーで流してくれた。
草太のリードに美冬がぴったりと合わせてくれる。最初はあんなにも苦労したダンスだったのに、今ではふたりで踊れることが楽しくて仕方なかった。美冬も同じ気持ちなのだろう、とても幸せそうな笑顔だ。
「美冬さん、楽しんでますか?」
「ええ、もちろん!」
草太と美冬はダンスホールに見立てたリビングルームを、踊りながら回り続け、音楽が止まったところで小休止した。呼吸は荒くなったが、体は軽かった。宗次郎と美代子を見ると、二人は穏やかに微笑んでいた。
「あなた、私たちも踊りませんか? 昔は一緒によく踊りましたよね?」
「俺とでいいのか?」
「何を仰いますか。私のパートナーはあなたしかいません。美冬が運命の相手を見つけたようにね。あなたは違うのですか?」
「お前との結婚が嫌なら、とうに逃げ出していたさ。美代子の娘だからこそ、なんとしても美冬を守りたかったんだ。しかし、そろそろ子離れする時期なのかもしれんな」
「これからは私たち夫婦の時間なんですよ、きっと」
「そうだな。美代子、踊ろう。私たちも」
「はい、あなた」
宗次郎は美代子の手を取り、共に立ち上がった。体を合わせると、静かに踊り始めた。夕子が再び音楽を流す。宗次郎と美代子は久しぶりとは思えないほど、軽やかに踊っている。
「お父さん、お母さん上手!」
「あたりまえだ。お前たちは年季が違うぞ」
ふん! と鼻を鳴らしながらも、美代子とのダンスを楽しんでいるようだった。美代子も穏やかな微笑みを浮かべ、宗次郎と踊れる幸せを噛みしめている様子だ。
「僕たちも踊りましょうか?」
「そうね、皆で踊りましょう」
草太と美冬、宗次郎と美代子。二組のダンスはそれぞれ幸せそうに、いつまでも続いていくのだった。
サプライズ家族パーティーは、草太と美冬にとって、いや、六野家全員にとって、忘れられない夜となったのだった。
「父と母へ私から伝えたいことがあるの。だからまず私から話をさせて」
両親を思う娘の、真摯な眼差しだった。草太はあえて何も聞かず、美冬に任せることにした。
家族で集まって食事をするダイニングルームの隣に、大きなリビングルームがあり、ダンスはリビングルームですることにした。きれいに飾り付けを行い、食事は立食パーティー形式にして、お酒やドリンクなどを用意した。
「そろそろお時間ですよ。宗次郎様、夕子様がまもなく来られます」
草太と美冬は目線を合わせた。いよいよだ。このパーティーで宗次郎と美代子になんとか仲直りしてもらいたい。そうすれば草太と美冬のことも理解してもらえるかもしれないのだから。
「なんだこれは。美冬、今日は何をするつもりだ」
ダイニングルームにまず入ってきたのは宗次郎だった。土曜日恒例の家族の夕食会だと思ったのだろう、ブルーのシャツとタックパンツというラフな服装だった。続いて美代子がやってきた。品の良い紺色のカジュアルドレスを着ている。
「お父さん、お母さん。ここに座って。話があるの」
美冬が予め用意しておいたソファーに座るよう促すと、宗次郎と美代子はお互いに顔を見合わせ不思議そうにしつつも、美冬の指示に従った。美冬はふたりの前に立つと、静かに語り始めた。
「突然でごめんなさい。今日は家族だけのホームパーティーを、私と草太くんとで企画しました。日頃お世話になってるお父さんとお母さんに、感謝の気持ちを伝えたかったから。そしてこの場を借りて、ふたりに伝えたいことがあります」
そこで言葉を一旦切ると、美冬は軽く深呼吸した。
「実は私は、生涯結婚はしないつもりでした。そして六野家も継ぐつもりはありませんでした」
突然の娘の告白に、仰天したのは父親の宗次郎だった。
「美冬、何を言うんだ。おまえは一人娘だぞ。お前以外に誰がこの家を継ぐというんだ。なぜそんな悲しいことを言う?」
草太も驚いて言葉を失った。美冬がそこまでの覚悟とは思わなかったのだ。
「お父さん、私の話を聞いて。私は知っての通り、ろくろ首体質の女よ。あやかし系の私を、好きになってくれる男性なんていないと思ってました。そしてろくろ首の遺伝子を継ぐのは私の代で最後にしようと思ってました。今の世でろくろ首体質を秘密にするのは、あまりに辛い定めと思ってたから。でもね、草太くんに出会って、その考えが間違っていたことに気付きました」
美冬は草太をほうへ視線を向け、微笑みながら話を続けた。
「私の秘密を知っても草太くんは私の側にいてくれる。私を助けて、自分を卑下しないでください。美冬さんはキレイです、可愛いですよ、っていってくれるの。それがどれだけ嬉しいか、お父さんわかってくれるかしら? 草太くんは私を、そのままの私を受け止めて支えてくれるの。頑張って生きていたら、こんなに幸せな出会いもあるだって、私は初めて知りました。草太くんとなら、私は未来に希望をもって生きていける。草太くんに出会えたのは、お父さんとお母さんがこれまで私を守り、支えてくれたから。お父さんから見たら、私は世間知らずで身勝手な娘だと思います。でもどうか、草太くんと一緒に生きることを許してください。そして六野家を草太くんと一緒に守らせてください」
美冬は両親に深々と頭を下げた。草太も美冬の横に並ぶと共に頭を下げた。美冬は草太や、そして宗次郎が考える以上に、自分を戒めていたのだ。ゆっくりと顔をあげると、宗次郎は目頭を抑えていた。泣いているようだ。
「お父さんとお母さんが、私と草太くんとのことで喧嘩していると聞きました。どうか私のことで争わないで。仲直りしてほしくて、このパーティーを企画したの。どうか楽しんでください。まずは私と草太くんとでダンスを披露するから見てね」
美冬が草太に向き合うと、ゆっくりと手を伸ばした。草太は美冬の腕を受け入れ、しっかりと体を組んだ。
「さぁ、始めますよ。準備はいいですか?」
「はい!」
草太と美冬、二人はしっかりとステップを踏み、軽やかに踊り始めた。ふたりのダンス開始に合わせて、夕子が音楽をプレイヤーで流してくれた。
草太のリードに美冬がぴったりと合わせてくれる。最初はあんなにも苦労したダンスだったのに、今ではふたりで踊れることが楽しくて仕方なかった。美冬も同じ気持ちなのだろう、とても幸せそうな笑顔だ。
「美冬さん、楽しんでますか?」
「ええ、もちろん!」
草太と美冬はダンスホールに見立てたリビングルームを、踊りながら回り続け、音楽が止まったところで小休止した。呼吸は荒くなったが、体は軽かった。宗次郎と美代子を見ると、二人は穏やかに微笑んでいた。
「あなた、私たちも踊りませんか? 昔は一緒によく踊りましたよね?」
「俺とでいいのか?」
「何を仰いますか。私のパートナーはあなたしかいません。美冬が運命の相手を見つけたようにね。あなたは違うのですか?」
「お前との結婚が嫌なら、とうに逃げ出していたさ。美代子の娘だからこそ、なんとしても美冬を守りたかったんだ。しかし、そろそろ子離れする時期なのかもしれんな」
「これからは私たち夫婦の時間なんですよ、きっと」
「そうだな。美代子、踊ろう。私たちも」
「はい、あなた」
宗次郎は美代子の手を取り、共に立ち上がった。体を合わせると、静かに踊り始めた。夕子が再び音楽を流す。宗次郎と美代子は久しぶりとは思えないほど、軽やかに踊っている。
「お父さん、お母さん上手!」
「あたりまえだ。お前たちは年季が違うぞ」
ふん! と鼻を鳴らしながらも、美代子とのダンスを楽しんでいるようだった。美代子も穏やかな微笑みを浮かべ、宗次郎と踊れる幸せを噛みしめている様子だ。
「僕たちも踊りましょうか?」
「そうね、皆で踊りましょう」
草太と美冬、宗次郎と美代子。二組のダンスはそれぞれ幸せそうに、いつまでも続いていくのだった。
サプライズ家族パーティーは、草太と美冬にとって、いや、六野家全員にとって、忘れられない夜となったのだった。
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