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第二章

お家に行こう③

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「草太くん、ここが私が使ってる離れ屋よ」

 美冬に案内さえた離れの屋敷は、母屋に比べると簡素な造りでこじんまりとしており、不思議な安心感があった。草太はやっと一呼吸つける気がした。

「さぁ、どうぞ。入って」
「お邪魔します」

 離れとはいえ、部屋はいくつかあり、キッチンやバスルームらしき設備もある。やはり一般庶民とは違うと感じてしまう。

「豪華ですねぇ」

 つい、本音がこぼれ落ちる。美冬が小さく笑った。

「私の場合、一種の隠れ部屋みたいなものね。子供の頃は昼間でも知らぬ間に首が伸びちゃうことがあったから。人目につかないように、ここで過ごすのがあたりまえだったの」
「ひとりで、ですか?」
「おもちゃ片手に父は来てくれたけど、社長としての仕事もあったから、頻繁には
来れなくて。母は私に本を読み聞かせしてくれたけど、おしゃべりする人ではなかったし」
「学生時代の友だちも来たことないんですか?」
「ないわね。友達はいたけど、私の秘密を全て明かせる友達はいなかった。私の家柄を見て近づいてくる子も多かったし」
「そうなんですか……」

 想像以上に孤独な少女期だったようだ。ろくろ首体質の秘密を守るには、簡単に人に心を開くわけにはいかない事情もわかる気がした。

(美冬さんが僕といるときだけ妙に子供っぽくなるのは、得られなかった青春を取り戻そうとしてるのかな)

 草太の想像でしかなかったが、そう思えば美冬の甘えたがりは理解できる気がした。

「草太くん、音楽は何で聴く? ミニコンポならあるけど」
「美冬さん、あの」
「なぁに?」
「僕は見ての通り頼りないですけど、僕にできることは頑張りますので、どうぞ頼ってくださいね」
「頼るって何を?」
「何をって。うーん、なんだろ?」

 いまいち歯切れの悪い草太の台詞に、美冬が笑いだした。

「冗談よ。草太くんはとても頼りになるわ。今日だって母や夕子さんに会っても逃げ出したりしなかったでしょう?内心不安だったのよ。草太くんが私の家族を見て、私のこと嫌いになったりしないか?って」
「嫌いになったりしませんよ。なるわけないじゃないですか。美冬さんのお母さんや夕子さんのこと、驚きはしましたけど、悪い人だとは思いませんでしたし」

 美冬は黙って草太の話を聞いていた。

「美冬さんの家族や夕子さんがいたから、今の美冬さんの姿があるんでしょう? なら良いご家族だと思います」

 眩しそうに草太を見つめる美冬は、言葉をひとつひとつ噛みしめているようだった。

「草太くんはすごいわね。ありのままの私を見て、受け入れてくれる。いままでそんな人いなかった」
「すごいって何がですか?」

 草太は本気でよくわからない。美冬は穏やかに笑っている。

「そうやって天然なところかな。草太くんはいつまでもそのままでいてほしい」
  
 悪い印象ではないようだ。自分のことを天然と思ったことはないが、否定するのは止めておいた。

「ありがとう。草太くん。これからも頼りにしていい?」
「はい、喜んで!」
「じゃあ、音楽のこと教えてくれる? 私クラシックぐらいしか知らなくて」
「偉そうにいいましたけど、実は僕も音楽はあんまり詳しくなくて。
二人でいろいろ聞いてみませんか?」
「やだ、草太くん。音楽にも造詣深そうに話してたのに」
「いや、全然。流行りの音楽やアニソン聞くぐらいです」
「アニソンって?」
「アニソンというのはですねぇ~」

 草太と美冬、二人の話はいつまでも尽きなかった。
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