ろくろな嫁~あやかし系上司が妻になります~

蒼真まこ

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第二章

あなたの趣味は?

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「ねぇ、聞いてもいい?」
「なんですか?」
「草太くんの趣味って何?」

 夜のオフィスで、美冬が遠慮がちに聞いてきた。わずかに赤くなった頬を隠すように首をくねらせている。

「うーん、僕は映画鑑賞ですかね?」
「映画? 草太くん映画好きなの?」
「好きですよ。レンタルも含めると毎週何かしらの映画見てます」
「映画館にもよく行くの?」
「行きますよー。映画館で見ると迫力違いますし」
「映画館かぁ。私子どもの時以来行ったことないの。行ってみたいなぁ」
「大人になって一度もないんですか? なんで?」
「子どもの頃、映画館でリラックスしすぎて首が伸びちゃったの。ほら、映画館って暗いでしょ? つい気が緩んでしまったみたい」
「それ以来一度も行ってないんですか?」
「ないわ。幸い誰にも気付かれなかったみたいだけど。あれ以来怖くて」

 美冬が人知れず苦労していることが、ここにもあった。普通の人があたりまえのように楽しんでいることも、彼女にはできなかったりするのだ。

(『映画館で映画を見る』なんて、現代人なら誰でもしてることなのに。美冬さん、かわいそうだな)

 すっかり同情した草太は、何気なく口にした。

「僕と一緒に、映画館行ってみます?」
「いいの? 私、首伸びちゃうかもしれないのよ」

 草太はしばし考えた。美冬にとって少しでも負担がないように、さらに映画を楽しめるようにするには、どうすればいいのか。やがて良策を思い付き、朗らかな笑顔を浮かべた。

「今度の週末のレイトショー、夜の映画館に行きましょう。夜なら昼間より暗いから、目立ちにくいですよ」
「夜だと私、首を伸ばしたくて我慢できなくなるかも」

 草太はまた、うーんと考える。

「僕がずっと手を握っててあげますよ。それなら耐えられるでしょ?」
「本当? ずっと手を握っててくれる?」
「レイトショーなら手を握っていても目立ちにくいですし、いいと思いますよ」
「なら行くわ。草太くんが横にいて手を握っていてくれるなら、きっと安心だもの」

 美冬は首を元に戻し、満面の笑顔を浮かべた。まるで少女のようなあどけない様子に、草太もつられて笑った。草太も嬉しかったのだ。映画好きにとって、仲間が増えるのは何よりの喜びなのだから。

 草太は気付いていなかった。スマホでいそいそとレイトショーの予約をする彼に気付かれないように、美冬が小さなガッツポーズをしていることを、微塵も気付いていなかった。
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