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第二章

共に生きよう

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 信さんの側に行くと、彼は微笑みながら私を抱き締めてくれた。
壊れ物を扱うように、そうっと優しく。
かすかにひんやりとした手が私の頬にふれる。

「俺の手や体は冷たくはないか? 酒で温めたつもりだが」

 なぜ彼がひとりでお酒を飲んでいたのか、やっとわかった。体の冷たさで驚かせないようにしていたのだ。私に触れても大丈夫なように。

 水神と人との間に生まれ、水神の子として育った彼の体は清き水のように、ひんやりと冷たい。それは不快な冷たさではないけれど、体を寄せ続けているとどうしても寒くなってしまう。
 初めて抱き締められた時、たまらなく嬉しくて幸せだったけれど、心に反して体は徐々に冷えていった。彼の腕から解放された途端、私は寒さで震えだしてしまったのだ。

「楓、すまない。俺が抱いてしまったばかりに。ああ、どうしたらいいんだ!」

 狼狽えながら懸命に謝る姿に愛しさを感じながら、私は普通の人間が『人ではない存在のもの』を愛する難しさを知った気がした。
問題は他にもきっと沢山あるのだろうということも容易に想像できた。 

 それでも信さんの元へ嫁いだのは……。
彼を、水神の子である彼を、愛してしまったから。神の世界にも、人の世界にも馴染めず、ずっと寂しく生きてきた孤独な存在の側にいたかった。その寂しさを少しでも癒してあげたい。
きっと問題は山積みだろうけど、乗り越えていける。彼となら。


 私に触れるために、お酒を飲んで体を温めようとしていた優しい信さん。
 正直いえば、まだその手は少しだけ冷たいけれど、火照った私の体には心地良い。

「信さんの手、冷たくて気持ちいい」

 私を抱き締める腕に力がこもる。髪の色と同じ、濃い青色の眼が私を見つめている。

「楓が俺の元へ、花嫁としてきてくれて本当に嬉しい。必ずおまえを守り、幸せにすると誓おう」
「私も信さんの妻になれて嬉しい。これからふたりで幸せになりましょう」

 半神である彼と、普通の人間である私とでは
生きる方法も時間も、きっと違う。
それでも一緒になりたかった。
 信さんの腕から身を起こし、彼を見つめた。 
ふたりの目線が絡み合う。どちらからともなく、同じ言葉を発した。

「生きる形は違えど、共に生きよう―」

 それはふたりの誓いの言葉。
 これから共に生きて、幸せになるために。


 




 
 










    
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