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蘇る恐怖
十一話 上 R18
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十一話 上
表面上だけだとしても上手くいっている、と思っていた。仲が深まることはないとしても、顔を見ながら話せるようになった。
蓮は軋む身体をいたわるかのように身動きせず、じっとベッドの中にいた。起き上がれる気力もなければ、身体も沼に沈んでいくように重い。ただひたすら時計の針がカチカチと鳴っているのを聞いていた。
「死んでいるみたいだ」
心も身体も。
昔のようにとまではいかない。もちろんそんなことはお互いわかっていたはずだ。だから今の自分たちを認め合うかのように歩みよっている風にみえた。少なくとも俺は晴を受け入れた。晴も実際どう思っていたかはわからないけれど、比較的穏やかそうにみえた。
会話ができるようになった。多少なりとも笑ってくれている。俺では理解できないけれど、法学の話をしてくれた。そこに強い意志を感じ、馬鹿にすることなく聞いていた。熱にも屈しない鉄のような芯のある瞳を見て、変わらないものもあったと胸がじんわりあたたかくなった。
晴と一緒にいられる時間が甘美な気分にさせてくれた。焚き火にあたっているような安心感と愛しさがあった。触れられるとぬくもりが伝わって、ふあふあと雲に浮いているようなそんな感じでいた。
けれど、地面に叩き落とされたような絶望感だった。そんな自分の都合のいい世界に浸っていただけだった。
真っ白く、柔らかい雲は泥で汚くなった。黒く淀んで、雨を降らせる。ちっとも優しくない雨だ。包み込むどころか、馬鹿め馬鹿めと降り注がれる。
自分だけがあの日から抜け出せず、置いていかれたままだった。
昨日の無理やりといってもいい強引な行為が蘇る。蓮はぐっと自分で身体を抱きしめた。
埋められない穴の深さがさらに大きくなった。
虚しい。
期待して、望んだ結果がこれだ。身体は悦んだとしても、ちっとも心は晴れなかった。
自己嫌悪に苛まれる。俺が悪いせいで晴がああいう態度を取ったのだろう。だって身体は自分でも驚くほど感じていた。相手が晴だからだろうとわかる。待ち望んでいたことだから。それでも満たされなかったのは、心を抱きしめてもらえなかったからだ。
晴の言うことを聞いていたのは、それで好かれるかな、なんて浅はかな淡い情があったからだ。今思えばそれが過ちだった。そんなことあるわけないのに、と奈落の底で嘆く。
慰めでもいいから抱いてほしいと思っていた。抱かれるまでは。
蓮の両目からぽろぽろと大きい飴玉のような涙がこぼれる。無意識か、ぎゅっとシーツを握りしめた。
晴の腕の中は、ただの暴力だった。気にもかけない言葉に涙が出た。蓮はそれでも晴のことが好きだった。けれど晴は違う。怒りと憎しみでどうにかなってしまいそうな扱いを受けた。
蓮はようやく声を荒げ、失恋する。
「あぁ…ばかだな、本当…。高望みするような想いを抱くからだ……」
抱かれた時点で満足すれば良かったのに、望んでしまった。足りないと、全然足りないと、期待してしまった。どうしようもないくらい勝手に。
愛されていない。そのことにひどく心が泣き叫んでいた。
抱いてほしかった。けれど、それは愛されているか確かめたかったからだ。
俺は、晴に愛されたかった。
その証が、ほしかった。
けれどそんなものは最初から存在しない。
だから欲しいものは手に入らない。十八のとき、自分で壊してしまった。自分が兄であること。男であること。
二度と、二度と、それを手にすることないだろう。
散々泣いて、開き直って恨んで、それでも変わらないものがあった。どうしても晴を嫌いになれない。未だ苦しみの中にいるのに、晴への想いは変わらずあった。
だって、ずっと、ずっと恋をしていた。ずっと、おまえしか好きになれなかった。愚かしいほど、おまえしか見ていない。きっと生まれ変わっても晴だけだ。
蓮は冷ややかな笑いが込み上げてきて、「ははっ」と声を上げ、胸を締めつけた。
やめたい。
好きでいることを。
この苦しみから解放されたい。
いたくて、いたくて、しんでしまいそうだ。
「けど、忘れたくない。消したくない…っ」
どれほど、何度も、身を灼き消すほどの痛みであったとしても、蓮にとってはそれ以上に変えられるものがなかった。叶わないと、わかってる。それでも変わらず晴に心を奪われたままだ。
おまえ以上に惹かれる存在はない。今までにもいなかったらこの先もない。これは普通の一途さじゃない。異常で歪な執着心だ。
蓮はその異常性に、自分が晴と紛れもない兄弟であることに笑みが浮かぶ。同様の感性や思考にさえ、背徳感で身体がぞくぞくする。
この際、好き嫌いは重要じゃない。男だから兄だからという女々しい自分の考えに腹が立つ。だからいい加減、さよならをしよう。
「関係ないんだから」
あるわけがない。人を好きになれば、あとは一直線だ。
「こうなったら死ぬまで貫き通してやる」
後悔させるぐらい想い続けて、泡のように消え去ろう。そんな自分が誰よりも美しくて気高い。余韻に浸るぐらい、自分に溺れるくらい、最期まで変わることのない愛に花束を捧げて。
蓮は搾り取るような声で泣きながらそう呟いた。
抱かれてから一週間が経った。
俺は悲しみと怒りでどうしようもなくて、会話することができないでいた。それは向こうも同じのようで、あれからずっと晴は怒っていた。俺に対するものなのだろうけれど、どこか焦点の合わない目。その中の揺らめく炎のようなものが苦しみにみえて仕方がなかった。
復讐にしては辛そうだなと乱暴にされたというのにすぐに晴のことが心配になる。
復讐をするのには人によって様々だ。心の底から愛していたからこそ、裏切りによる憎悪からきたもの。命を預けられるほど信頼していたのに、それは自分だけだったと思い知らされた絶望感からきたもの。自分の大切なものを傷つけられ、貶され、殺されてしまった悲しみが青かった心を赤く染まってしまったもの。幸せだった頃に戻りたいがために相手を陥れようとする依存性からきたもの。
蓮はいくら候補をあげたところでなに一つ当てはまらないとわかっていた。自分がわかっていいほどのそんな容易な復讐ではないことだと身をもって知るべきだと思ったからだ。もしわかっていても、止めはしない。殺されても受け入れる。受け入れることで晴が救われるなら、それでいい。
復讐する動機がわからないから俺もきっと晴も苦しい。
そう思いながらギクシャクした日々を過ごしていた。怒っているとしても、普段通りに話しかけてくる晴。嘘をついてまで、関係をさらに拗らせることが晴の復讐の一部だろうか。
けれど、あれはただの始まりに過ぎなかった。
週末のライブに帰ってきた俺を、晴は抱くようになった。
「あっ、あぁ、あっ、そこ…っ、だ、め…っ」
「はっ、お得意の煽り? 駄目ならちゃんと嫌がらないと。本気にしては、中は嬉しそうだよ」
「はっ、あぁ、いっ、うぅ…っ」
腰に手を掴まれ、悦いところを突くことを覚えられてぐずぐずに蕩ける。玄関から声が外へ漏れはしない。それでも、その小さな不安さえも興奮材料となっている。
日に日にこの行為を待ち望んでしまっていた。
玄関で帰りを待っていた晴はその場で俺を犯した。一瞬だけ逃げようとして、ドアに手を掛けるが、逃げたところで変わらないと諦念すると鍵を閉めた。そしてそのまま背後からひん剥かれ、中への侵入を許してしまう。
「なんか興奮してるね。ライブ終わりっていつもこうなんだ…だからいつもこの日にオナニーしてたの?」
「や…っ、せめて、風呂に入らせてくれ」
「どうせ汗かくんだからいいよ」
「汗、くさいからやめてくれっていってんだ」
「それは兄さんがそう思ってるだけだし、俺はどうでもいい。明日も昼から勉強しにいくから早くやらせて」
「なっ、あっ、ぁ…っ」
両乳首を引っ張りながら抓られ、一瞬で甘ったるい声に変わる。
これ以上会話しても無駄とはわかっているが、話さなければいけないことは沢山ある。むしろもっと会話すべきなのだと思う。蔑ろにしてはいけないのに、身体の芯から溢れ出る甘い蜜に邪魔をされる。
晴の乱暴な手つきで後孔に指が這入っていく。絡まる粘膜を掻きわけて、一直線に前立腺へと突き進めた。しこりを指の間に挟んで、擦ればびくびくと面白いほど愉悦で背中からの震えが止まらない。
前は触ってもいないのに、愛液がとろとろと床に落ちていくのが丸見えで羞恥に余計に身体が苛まれた。無遠慮に三本の指がぐちょぐちょといやらしい音を立て、中の粘膜を混ぜて伸ばしていく。
指が抜け、容赦なく晴のものが挿入される。その衝撃だけでドアを汚してしまった。優しさのかけらもなく強烈に肉洞を刺激されたせいでがくがくと立っている脚が震える。
「あっ、あ…っ、ひ、あ…」
「これで玄関通るたびにここでしたこと思い出すね」
「ひぁっ、あっ、ま、あっ、あ…っ」
動かさないで、と行為を拒否したいのと、もっと奥までしてほしい、のと二つの感情に苦しめられる。けれど、身体で表現してる以上感情など二の次だ。
冷たいドアに顔をつけて、背後からの激しい腰の動きにいいようにされている。いつも以上にごりごりと良い場所に当たって気持ちがいい。身体の芯から熱せられる甘い蜜に溺れるもドアの冷たさが心地よい。
「あ、あ…っ、あ……ん、んっ」
晴は水音をわざと立たせて、聞こえるように強く腰を動かしている。腰を掴んでいた手は腰骨を撫で上げたあと胸へと這っていき、ぷっくらと勃ち上がっている両乳首をすりすりと擦った。
「あぁ……っ!」
こりこりと捏ねられるとじくじくと熱波で灼かれていく肌。そこから甘美さが泉のように湧き出る。その快感で後孔がさらに緩まり、中の絡みつきをねっとりと艶かしくさせた。
「毎週してるおかげで、俺の形覚えられたみたいだね」
「あっ、あぁ…っ、や、やめ…っ」
そう耳元で囁かれると胸が飛び跳ね、肉壁が一斉に蠕動し、きゅうきゅうと晴のものに絡みついていった。
「やっぱ無理やり犯されるみたいな状況好きなの? 玄関や廊下でする方が反応いいけど」
「あっ、ん…っ、ちが、ちがう…」
おまえが好きだから、感じてるんだ。
虚しく消えていく想いの欠けらは瞳に混じらせるが伝わらない。
「否定するほど恥ずかしいんだ。なら今度ベランダとかでしてみる?」
「ひっ」
「あ、今想像したでしょ。俺の動かした」
「あっ、あ…っ、おねがい、やめて、もう…すきに、していいから…っ」
「はいはい、早く動かしてくださいってことね。身体の方が正直でかわいくて好きだよ」
「あ……ッ」
その言葉が蓮の脳内を溶けさせた。勝手に麻痺した神経は中をさらにうねらせ、晴のものを離さないつもりできゅうきゅう収斂した。
身体がまた絶頂への階段を駆け上がり、蓮は中だけで極めてしまった。
好きだ、の言葉が和音のように響き、身体の自由を奪われ、気持ちのいいことしか考えられなくなる。
「またイったね。兄さん堪え性のない駄目な大人じゃん。あ、イケナイお兄さんの方かな?」
「あ、ぅ…っ、きも、ちいい…っ、あ、あぁ……っ」
「あ、飛んじゃってる。まぁ、かわいいからいっか」
晴は乳首を弄っていた手を顎に持っていき、自分の方へ向けさせた。あっという間に貪るような過激な口づけをされた。
どうやら本当にクスリ漬けにでもあったかのように気持ちのいいことしか頭の中にない。それに幻覚や幻聴までする。
口の中で舌が上顎を責めると同時に晴の性器の先端が奥の肉を抉じ開けようとぐっと押しつける。
銀の糸が二人の間に掛かるのをぼんやりと眺めていると閃光が弾けた。
両腕を引っ張られ、ドアに倒れかかっていた身体を起こされた。その衝動でごちんと最奥の入り口に口づけの次へと成功した。
「かっ、は、ぁ……っ、あ──…」
強烈な刺激で声もでなくなりそうになる。征服感が徹底的に身体を侵していく。抵抗することもできず、かといって逃げることもできず、ただただ快楽を享受する。ぎちぎちと媚肉が痙攣を繰り返し、跳ねたり押しつけたりパニック状態だ。
なにより大量の精をそこに放たれた。蓮は叩きつけられた熱いものにわななく。こぽこぽと音を鳴らし、精が流れ込んでいくのを愉しむ腹。晴を見ることもできず、喉を仰け反らし、愉悦に浸っていた。
床にはびしゃびしゃと透明な液体で濡れ、靴にまで飛び散っている。
「そんなにここに出されるの好きなら、あと何回かしよっか」
その声はもう一人の俺が囁いてるようだった。
繋ぎとめようと、絡まる手。逃亡も、拒絶も逸らすことすら許さないという瞳。
この瞳の炎がなにか。
憎悪だけじゃない気がしてならなかった。
表面上だけだとしても上手くいっている、と思っていた。仲が深まることはないとしても、顔を見ながら話せるようになった。
蓮は軋む身体をいたわるかのように身動きせず、じっとベッドの中にいた。起き上がれる気力もなければ、身体も沼に沈んでいくように重い。ただひたすら時計の針がカチカチと鳴っているのを聞いていた。
「死んでいるみたいだ」
心も身体も。
昔のようにとまではいかない。もちろんそんなことはお互いわかっていたはずだ。だから今の自分たちを認め合うかのように歩みよっている風にみえた。少なくとも俺は晴を受け入れた。晴も実際どう思っていたかはわからないけれど、比較的穏やかそうにみえた。
会話ができるようになった。多少なりとも笑ってくれている。俺では理解できないけれど、法学の話をしてくれた。そこに強い意志を感じ、馬鹿にすることなく聞いていた。熱にも屈しない鉄のような芯のある瞳を見て、変わらないものもあったと胸がじんわりあたたかくなった。
晴と一緒にいられる時間が甘美な気分にさせてくれた。焚き火にあたっているような安心感と愛しさがあった。触れられるとぬくもりが伝わって、ふあふあと雲に浮いているようなそんな感じでいた。
けれど、地面に叩き落とされたような絶望感だった。そんな自分の都合のいい世界に浸っていただけだった。
真っ白く、柔らかい雲は泥で汚くなった。黒く淀んで、雨を降らせる。ちっとも優しくない雨だ。包み込むどころか、馬鹿め馬鹿めと降り注がれる。
自分だけがあの日から抜け出せず、置いていかれたままだった。
昨日の無理やりといってもいい強引な行為が蘇る。蓮はぐっと自分で身体を抱きしめた。
埋められない穴の深さがさらに大きくなった。
虚しい。
期待して、望んだ結果がこれだ。身体は悦んだとしても、ちっとも心は晴れなかった。
自己嫌悪に苛まれる。俺が悪いせいで晴がああいう態度を取ったのだろう。だって身体は自分でも驚くほど感じていた。相手が晴だからだろうとわかる。待ち望んでいたことだから。それでも満たされなかったのは、心を抱きしめてもらえなかったからだ。
晴の言うことを聞いていたのは、それで好かれるかな、なんて浅はかな淡い情があったからだ。今思えばそれが過ちだった。そんなことあるわけないのに、と奈落の底で嘆く。
慰めでもいいから抱いてほしいと思っていた。抱かれるまでは。
蓮の両目からぽろぽろと大きい飴玉のような涙がこぼれる。無意識か、ぎゅっとシーツを握りしめた。
晴の腕の中は、ただの暴力だった。気にもかけない言葉に涙が出た。蓮はそれでも晴のことが好きだった。けれど晴は違う。怒りと憎しみでどうにかなってしまいそうな扱いを受けた。
蓮はようやく声を荒げ、失恋する。
「あぁ…ばかだな、本当…。高望みするような想いを抱くからだ……」
抱かれた時点で満足すれば良かったのに、望んでしまった。足りないと、全然足りないと、期待してしまった。どうしようもないくらい勝手に。
愛されていない。そのことにひどく心が泣き叫んでいた。
抱いてほしかった。けれど、それは愛されているか確かめたかったからだ。
俺は、晴に愛されたかった。
その証が、ほしかった。
けれどそんなものは最初から存在しない。
だから欲しいものは手に入らない。十八のとき、自分で壊してしまった。自分が兄であること。男であること。
二度と、二度と、それを手にすることないだろう。
散々泣いて、開き直って恨んで、それでも変わらないものがあった。どうしても晴を嫌いになれない。未だ苦しみの中にいるのに、晴への想いは変わらずあった。
だって、ずっと、ずっと恋をしていた。ずっと、おまえしか好きになれなかった。愚かしいほど、おまえしか見ていない。きっと生まれ変わっても晴だけだ。
蓮は冷ややかな笑いが込み上げてきて、「ははっ」と声を上げ、胸を締めつけた。
やめたい。
好きでいることを。
この苦しみから解放されたい。
いたくて、いたくて、しんでしまいそうだ。
「けど、忘れたくない。消したくない…っ」
どれほど、何度も、身を灼き消すほどの痛みであったとしても、蓮にとってはそれ以上に変えられるものがなかった。叶わないと、わかってる。それでも変わらず晴に心を奪われたままだ。
おまえ以上に惹かれる存在はない。今までにもいなかったらこの先もない。これは普通の一途さじゃない。異常で歪な執着心だ。
蓮はその異常性に、自分が晴と紛れもない兄弟であることに笑みが浮かぶ。同様の感性や思考にさえ、背徳感で身体がぞくぞくする。
この際、好き嫌いは重要じゃない。男だから兄だからという女々しい自分の考えに腹が立つ。だからいい加減、さよならをしよう。
「関係ないんだから」
あるわけがない。人を好きになれば、あとは一直線だ。
「こうなったら死ぬまで貫き通してやる」
後悔させるぐらい想い続けて、泡のように消え去ろう。そんな自分が誰よりも美しくて気高い。余韻に浸るぐらい、自分に溺れるくらい、最期まで変わることのない愛に花束を捧げて。
蓮は搾り取るような声で泣きながらそう呟いた。
抱かれてから一週間が経った。
俺は悲しみと怒りでどうしようもなくて、会話することができないでいた。それは向こうも同じのようで、あれからずっと晴は怒っていた。俺に対するものなのだろうけれど、どこか焦点の合わない目。その中の揺らめく炎のようなものが苦しみにみえて仕方がなかった。
復讐にしては辛そうだなと乱暴にされたというのにすぐに晴のことが心配になる。
復讐をするのには人によって様々だ。心の底から愛していたからこそ、裏切りによる憎悪からきたもの。命を預けられるほど信頼していたのに、それは自分だけだったと思い知らされた絶望感からきたもの。自分の大切なものを傷つけられ、貶され、殺されてしまった悲しみが青かった心を赤く染まってしまったもの。幸せだった頃に戻りたいがために相手を陥れようとする依存性からきたもの。
蓮はいくら候補をあげたところでなに一つ当てはまらないとわかっていた。自分がわかっていいほどのそんな容易な復讐ではないことだと身をもって知るべきだと思ったからだ。もしわかっていても、止めはしない。殺されても受け入れる。受け入れることで晴が救われるなら、それでいい。
復讐する動機がわからないから俺もきっと晴も苦しい。
そう思いながらギクシャクした日々を過ごしていた。怒っているとしても、普段通りに話しかけてくる晴。嘘をついてまで、関係をさらに拗らせることが晴の復讐の一部だろうか。
けれど、あれはただの始まりに過ぎなかった。
週末のライブに帰ってきた俺を、晴は抱くようになった。
「あっ、あぁ、あっ、そこ…っ、だ、め…っ」
「はっ、お得意の煽り? 駄目ならちゃんと嫌がらないと。本気にしては、中は嬉しそうだよ」
「はっ、あぁ、いっ、うぅ…っ」
腰に手を掴まれ、悦いところを突くことを覚えられてぐずぐずに蕩ける。玄関から声が外へ漏れはしない。それでも、その小さな不安さえも興奮材料となっている。
日に日にこの行為を待ち望んでしまっていた。
玄関で帰りを待っていた晴はその場で俺を犯した。一瞬だけ逃げようとして、ドアに手を掛けるが、逃げたところで変わらないと諦念すると鍵を閉めた。そしてそのまま背後からひん剥かれ、中への侵入を許してしまう。
「なんか興奮してるね。ライブ終わりっていつもこうなんだ…だからいつもこの日にオナニーしてたの?」
「や…っ、せめて、風呂に入らせてくれ」
「どうせ汗かくんだからいいよ」
「汗、くさいからやめてくれっていってんだ」
「それは兄さんがそう思ってるだけだし、俺はどうでもいい。明日も昼から勉強しにいくから早くやらせて」
「なっ、あっ、ぁ…っ」
両乳首を引っ張りながら抓られ、一瞬で甘ったるい声に変わる。
これ以上会話しても無駄とはわかっているが、話さなければいけないことは沢山ある。むしろもっと会話すべきなのだと思う。蔑ろにしてはいけないのに、身体の芯から溢れ出る甘い蜜に邪魔をされる。
晴の乱暴な手つきで後孔に指が這入っていく。絡まる粘膜を掻きわけて、一直線に前立腺へと突き進めた。しこりを指の間に挟んで、擦ればびくびくと面白いほど愉悦で背中からの震えが止まらない。
前は触ってもいないのに、愛液がとろとろと床に落ちていくのが丸見えで羞恥に余計に身体が苛まれた。無遠慮に三本の指がぐちょぐちょといやらしい音を立て、中の粘膜を混ぜて伸ばしていく。
指が抜け、容赦なく晴のものが挿入される。その衝撃だけでドアを汚してしまった。優しさのかけらもなく強烈に肉洞を刺激されたせいでがくがくと立っている脚が震える。
「あっ、あ…っ、ひ、あ…」
「これで玄関通るたびにここでしたこと思い出すね」
「ひぁっ、あっ、ま、あっ、あ…っ」
動かさないで、と行為を拒否したいのと、もっと奥までしてほしい、のと二つの感情に苦しめられる。けれど、身体で表現してる以上感情など二の次だ。
冷たいドアに顔をつけて、背後からの激しい腰の動きにいいようにされている。いつも以上にごりごりと良い場所に当たって気持ちがいい。身体の芯から熱せられる甘い蜜に溺れるもドアの冷たさが心地よい。
「あ、あ…っ、あ……ん、んっ」
晴は水音をわざと立たせて、聞こえるように強く腰を動かしている。腰を掴んでいた手は腰骨を撫で上げたあと胸へと這っていき、ぷっくらと勃ち上がっている両乳首をすりすりと擦った。
「あぁ……っ!」
こりこりと捏ねられるとじくじくと熱波で灼かれていく肌。そこから甘美さが泉のように湧き出る。その快感で後孔がさらに緩まり、中の絡みつきをねっとりと艶かしくさせた。
「毎週してるおかげで、俺の形覚えられたみたいだね」
「あっ、あぁ…っ、や、やめ…っ」
そう耳元で囁かれると胸が飛び跳ね、肉壁が一斉に蠕動し、きゅうきゅうと晴のものに絡みついていった。
「やっぱ無理やり犯されるみたいな状況好きなの? 玄関や廊下でする方が反応いいけど」
「あっ、ん…っ、ちが、ちがう…」
おまえが好きだから、感じてるんだ。
虚しく消えていく想いの欠けらは瞳に混じらせるが伝わらない。
「否定するほど恥ずかしいんだ。なら今度ベランダとかでしてみる?」
「ひっ」
「あ、今想像したでしょ。俺の動かした」
「あっ、あ…っ、おねがい、やめて、もう…すきに、していいから…っ」
「はいはい、早く動かしてくださいってことね。身体の方が正直でかわいくて好きだよ」
「あ……ッ」
その言葉が蓮の脳内を溶けさせた。勝手に麻痺した神経は中をさらにうねらせ、晴のものを離さないつもりできゅうきゅう収斂した。
身体がまた絶頂への階段を駆け上がり、蓮は中だけで極めてしまった。
好きだ、の言葉が和音のように響き、身体の自由を奪われ、気持ちのいいことしか考えられなくなる。
「またイったね。兄さん堪え性のない駄目な大人じゃん。あ、イケナイお兄さんの方かな?」
「あ、ぅ…っ、きも、ちいい…っ、あ、あぁ……っ」
「あ、飛んじゃってる。まぁ、かわいいからいっか」
晴は乳首を弄っていた手を顎に持っていき、自分の方へ向けさせた。あっという間に貪るような過激な口づけをされた。
どうやら本当にクスリ漬けにでもあったかのように気持ちのいいことしか頭の中にない。それに幻覚や幻聴までする。
口の中で舌が上顎を責めると同時に晴の性器の先端が奥の肉を抉じ開けようとぐっと押しつける。
銀の糸が二人の間に掛かるのをぼんやりと眺めていると閃光が弾けた。
両腕を引っ張られ、ドアに倒れかかっていた身体を起こされた。その衝動でごちんと最奥の入り口に口づけの次へと成功した。
「かっ、は、ぁ……っ、あ──…」
強烈な刺激で声もでなくなりそうになる。征服感が徹底的に身体を侵していく。抵抗することもできず、かといって逃げることもできず、ただただ快楽を享受する。ぎちぎちと媚肉が痙攣を繰り返し、跳ねたり押しつけたりパニック状態だ。
なにより大量の精をそこに放たれた。蓮は叩きつけられた熱いものにわななく。こぽこぽと音を鳴らし、精が流れ込んでいくのを愉しむ腹。晴を見ることもできず、喉を仰け反らし、愉悦に浸っていた。
床にはびしゃびしゃと透明な液体で濡れ、靴にまで飛び散っている。
「そんなにここに出されるの好きなら、あと何回かしよっか」
その声はもう一人の俺が囁いてるようだった。
繋ぎとめようと、絡まる手。逃亡も、拒絶も逸らすことすら許さないという瞳。
この瞳の炎がなにか。
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