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番外編 ただのマリカ 2

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 私は自分の部屋へ入ると、すぅと息を吸い意を決した。

「ラビ?」

 確かその様な名前だった筈だ。呼び掛けるのは初めてなので緊張でドキドキした。

『…呼んでくれるのは初めてね?ふぁ~、よく眠っていたわ。』

 姿は見えないのに頭に直接響く声は、何とも言えない気持ちになる。
 一人で居る時で無いとおかしな子だと思われるだろう。

「ねぇ、男の子達が変なの。あなた何かした?」

『あら、気付いちゃった?特に何をしている訳じゃないのよ。私が起きている間には私の魔力が漏れ出して居るから、貴女は異性にとってとても魅力的な女性に映っている。それだけよ?』

「えぇ……。私、少し困ってるの。好きな人も居ないし、女の子とも仲良くしたいわ。」

『ん~、暫く我慢して貰うしか無いの。まだコントロールが上手く出来ないんだもの。そうよね、貴女は王子様と結婚したいんだものね。』

 そんな事言っただろうか。余り覚えていなかったが実際王子様でなくとも素敵な人とは結婚したいので、頷いておいた。
 ラビは、まだコントロール出来る程力が戻っていないと言うので諦めて暫く我慢していると、確かに落ち着いて来て支障の無い暮らしが出来た。
 私はその頃から少し男性が怖くなっていて、どんな言葉もラビが居るからだと信じられなくなっていた。
 そして、男の子は覚えていなくとも女の子達は覚えていたのでそこの学園で完全に孤立せざるを得なかった。

 するとある日、母が倒れたと連絡が入り家に飛んで帰ると苦しそうな母の横に知らないおじさんが居た。
 その人は私の”父”だと言った。
 身綺麗にしていて、神経質そうな面持ちなので”貴族”だと直ぐに分かった。
 母も父の話をしなかったし、それまで父の存在を意識して来なかったのだが、今まで金銭面で苦労をした事が無かったのでなるほど、と妙に納得してしまった。
 その人は母の手を握り必死に励まして、慣れない手つきで看病をしていた。
 愛しているのだな、と客観的に思った。
 私も出来るだけの事はしたが必死の看病も虚しく、母は帰らぬ人となってしまい、その日から生活が一変する。

 ”父”は私を身請けすると言い出し、邸へと招いた。
 私はただのマリカから【マリカ=ディボル】となり伯爵家の一員となる。
 そこにはとても美しい奥様とその娘が二人居て、とても歓迎しているとは思えない場所に放り込まれた。
 母に似ている私を、父はこれでもかという程愛してくれた。今迄の分だと言われても自分の中にラビがいるので、信じる事は出来なかったし”父”だと言われてもピンと来なかった。
 奥様と娘達からは、暴力や暴言を吐かれる事は無かったが徹底的に無視をされていた。好かれようと頑張った時期もあったが、向こうの立場になって考えると複雑なのは当たり前だと思い、直ぐに空気の様に過ごす事にした。

 貴族の学園に編入する為、魔力測定検査を行うと何故か世にも珍しい【光属性】の【超特級】で父は王都の学園に編入出来る、出世も夢では無いとそれは、それは喜んだ。
 婚外子といえど、伯爵家の名を背負う事になる為淑女教育も念入りに行われた。
 正直、何にも興味は無かったがこの家から出られるなら遠くの学園に通いたかったので好都合だと思った。

 息の詰まる様な伯爵家から出て王都の学園に通い出すと、驚く事ばかりだった。
 貴族と平民が入り交じり、見目麗しい人間が多く、座学や魔力、魔法の実技等も高水準過ぎてついて行くのに必死だった。光属性の超特級とは名ばかりで、使い方も知らない赤ん坊同然の私は周囲にはとても奇異な存在だっただろう。
 しかし、ここでもやはり男性が私に優しかった。
 前の様に全員がそうなる訳では無かったのだが、まるで厳選されたかのような高位な方ばかりで、ある程度弁えている様に見えたので勉強を教えて貰ったり、時には断れず一緒にお茶を飲んだりした。

 皆、婚約者が居るのに…だ。

 顔には出さない様にしていたが、頭がおかしいのかなと思った。断りきれない自分も悪いが、まず誘う事自体おかしい。
 ラビは本当に大事にしたい相手が居るなら”これ”は効果が薄いと言っていた。もちろん、本気を出せば違うけど♡と言うので定かでは無いが。

 不信感しかなかった。ラビの力だけど、人間の汚い部分ばかりが見えた。
 楽しい、等とは一度も思わなかったし婚約者の方々に申し訳無くて逃げ回っていた。
 男性達は私と触れ合うにつれ、段々とおかしくなっていった。激しく取り合ったり、ところ構わず呼び出して来たり、二人きりになろうと口説かれた。
 極力お断りしていたが、努力のかいも虚しく女性からはやはり嫌われてしまった。
 そりゃあそうだ。婚約者では無い異性と二人きりになるなんて有り得ない。

 そんな中、一人だけは違った。
 レイヴン=アル=カダール殿下だ。
 彼はラビの力を浴びながらも、私に興味がある様に見えるのに二人になろうとはしなかった。
 声を掛けてくれたり、勉強を教えてくれたりはしたが周りの女生徒とさして変わらない程度に収まるものだ。
 ラビはそんな彼にイライラしていたけれど、私は別に良かった。”普通”に接してくれる事がどれだけ有難いか。

 ところがある日、彼は私と二人で話をしたいと言ってきた。
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