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ニヤニヤと気持ち悪い顔をしている自覚はある。
そして、ソファの背もたれに体重を預け脚を組んでいるので物凄く態度が大きいのも自覚がある。
「め、メライーブス様。あ、あの……私はどうしてこの様な格好で、この様な場所に?」
ビクビクと震えながら彼女は扉の前に立っている。
それを私はニヤニヤとした口元を扇で隠しながら眺めているのだ。
「おいおい、まだ私はお前の発言を許してはいないぞ?」
パチンと扇を閉じてニヤリと笑った。
「も、申し訳御座いません!」
ガバリと90度に腰を曲げた彼女の耳元に近付く。
「躾が必要だな。」
私は言い終わると同時にグイッと持っている扇で顔を上げさせる。
宛ら、悪役だ。
可哀想に、虐め過ぎたのか彼女は涙目で顔を真っ青にしていた。
「ようこそ、我が手中へ。今日から君は私の侍女だ。」
「へ?」
ポカンと口を開けた彼女は、しっかり見るとやはり可愛らしい。
一通りの小芝居が終わったので私はケラケラと笑ってしまった。
「はははっ、すまない。あまりにも君が可愛らしかったものでね、少々悪戯をしてしまった。
マリカ=ディボル、本日付で牢からは解放。及び、私の監視下に入って貰い、その一生を私に尽くして貰う。私は厳しいぞ。」
そう言ってバチンとウインクをすると、彼女は膝から崩れ落ちボロボロとその大きな瞳から涙を流す。
「そ、そん……な…寛大な措置を…あり、ありがとうございます。」
彼女は自らを抱きしめながら頭が床に擦れるのではないかと思うほど平伏し、泣き崩れた。
私はその背中をゆっくりと撫で、椅子に座らせる。
「君の中に魅了がいた事を知る者は、私達と限られた者のみだ。魅了の事はこの国における禁忌。
表向きには、君に惹かれたご子息達との私情の縺れを諌める為に私の侍女を志願した、という事になるだろう。研究室に通っていた理由も、君の本来持つ癒しの光属性を調べる為だという事になっている。
【ラビ】は伝を使い、精霊界へと戻っていった。其方はどうなるかは分からないが、良きようにして貰えるよう頼んでおいた。
…囲ってやる事しか出来なかった事を、許して欲しい。」
もっと良い案が浮かべば良かったのだが、今の所これが最善だった。彼女を私の侍女として監視下に置く事で、彼女の癒しの光属性は王家の物だ。魅了により心の弱さを知られた馬鹿な奴らの家への牽制にもなる。
そして、伯爵家とは縁を切らせた。彼女は色んな事を知り過ぎてしまっていたからだ。
極刑は免れたが、彼女の自由はもう無くなってしまった。王子様は以ての外、好きな人と恋をする事すら彼女はもう出来ないのだ。
「いいえ!謝らないで下さい!救って頂いたこの命…、メライーブス様に捧げる事を誓います。」
彼女はスクッと立ち上がると最上級のカーテシーをした。その姿勢はやはり、とても美しかった。
「マリカ、今日から私付きなのだ。家名で呼んだら変だろう?ルルーシュアと呼んでくれ。」
「はい、宜しくお願い致します。ルルーシュア様。」
そう言って、彼女は花が綻ぶ様に微笑んだ。
初めて笑っている所を見たが、魅了が居なくても男性陣はメロメロになってしまうのではないかと少し不安になってしまう。
そんなことを考えながら、外に控えていた他の侍女を呼ぶ。
「今日から私付きになって貰う。色々教えてやって欲しい。」
「畏まりました、此方へ。」
他の侍女達に彼女を任せ、私は人払いをした。
そして、足音が遠のいてから壁に掛けてある大きな絵を二回ノックする。
すると絵がグルンと反転し、中から人が出てきた。
「終わったようだね、お疲れ様。」
「あぁ、ありがとう。我儘を聞いてくれて。」
そこにはキラキラと輝くプラチナの髪をしゃらりと揺らし、金の瞳を優しく細めニコニコと笑うレイが居た。
「本当に君には驚かされてばかりだよ。本当に侍女にしてやるだなんて。」
「ははっ。彼女は可愛いからね、目の保養だ。」
「え、もしかして最大のライバルなのかな。」
「何を言っている。」
「冗談だよ、可愛い顔に皺が寄っちゃう。」
彼は私の眉間の皺を人差し指で伸ばすと、クスクスと笑って頭を撫でた。
私の事を可愛いと言うのも、私の頭を撫でるのもレイ位しか居ない。
「…結婚とは、良いものだな…。」
「えっ、今何て??」
正確にはまだ結婚はしていないのだが、いつの間にかボソリと呟いてしまっていたらしい。
聞き返されると恥ずかしくてそっぽを向いて、意味も無く逃げる様に歩き出してしまった。
「な、何も無い。」
「嘘だー!もう一回言ってよー!あぁ、早く結婚したい!!」
「聞こえてるじゃないか!」
「あ、待ってよ~僕のお嫁さーーん!」
「待たない!!」
まだ恋だの愛だのは私には分からないけれど、こういうのは何だか良いなと思った事はまだ内緒なのである。
~END~
そして、ソファの背もたれに体重を預け脚を組んでいるので物凄く態度が大きいのも自覚がある。
「め、メライーブス様。あ、あの……私はどうしてこの様な格好で、この様な場所に?」
ビクビクと震えながら彼女は扉の前に立っている。
それを私はニヤニヤとした口元を扇で隠しながら眺めているのだ。
「おいおい、まだ私はお前の発言を許してはいないぞ?」
パチンと扇を閉じてニヤリと笑った。
「も、申し訳御座いません!」
ガバリと90度に腰を曲げた彼女の耳元に近付く。
「躾が必要だな。」
私は言い終わると同時にグイッと持っている扇で顔を上げさせる。
宛ら、悪役だ。
可哀想に、虐め過ぎたのか彼女は涙目で顔を真っ青にしていた。
「ようこそ、我が手中へ。今日から君は私の侍女だ。」
「へ?」
ポカンと口を開けた彼女は、しっかり見るとやはり可愛らしい。
一通りの小芝居が終わったので私はケラケラと笑ってしまった。
「はははっ、すまない。あまりにも君が可愛らしかったものでね、少々悪戯をしてしまった。
マリカ=ディボル、本日付で牢からは解放。及び、私の監視下に入って貰い、その一生を私に尽くして貰う。私は厳しいぞ。」
そう言ってバチンとウインクをすると、彼女は膝から崩れ落ちボロボロとその大きな瞳から涙を流す。
「そ、そん……な…寛大な措置を…あり、ありがとうございます。」
彼女は自らを抱きしめながら頭が床に擦れるのではないかと思うほど平伏し、泣き崩れた。
私はその背中をゆっくりと撫で、椅子に座らせる。
「君の中に魅了がいた事を知る者は、私達と限られた者のみだ。魅了の事はこの国における禁忌。
表向きには、君に惹かれたご子息達との私情の縺れを諌める為に私の侍女を志願した、という事になるだろう。研究室に通っていた理由も、君の本来持つ癒しの光属性を調べる為だという事になっている。
【ラビ】は伝を使い、精霊界へと戻っていった。其方はどうなるかは分からないが、良きようにして貰えるよう頼んでおいた。
…囲ってやる事しか出来なかった事を、許して欲しい。」
もっと良い案が浮かべば良かったのだが、今の所これが最善だった。彼女を私の侍女として監視下に置く事で、彼女の癒しの光属性は王家の物だ。魅了により心の弱さを知られた馬鹿な奴らの家への牽制にもなる。
そして、伯爵家とは縁を切らせた。彼女は色んな事を知り過ぎてしまっていたからだ。
極刑は免れたが、彼女の自由はもう無くなってしまった。王子様は以ての外、好きな人と恋をする事すら彼女はもう出来ないのだ。
「いいえ!謝らないで下さい!救って頂いたこの命…、メライーブス様に捧げる事を誓います。」
彼女はスクッと立ち上がると最上級のカーテシーをした。その姿勢はやはり、とても美しかった。
「マリカ、今日から私付きなのだ。家名で呼んだら変だろう?ルルーシュアと呼んでくれ。」
「はい、宜しくお願い致します。ルルーシュア様。」
そう言って、彼女は花が綻ぶ様に微笑んだ。
初めて笑っている所を見たが、魅了が居なくても男性陣はメロメロになってしまうのではないかと少し不安になってしまう。
そんなことを考えながら、外に控えていた他の侍女を呼ぶ。
「今日から私付きになって貰う。色々教えてやって欲しい。」
「畏まりました、此方へ。」
他の侍女達に彼女を任せ、私は人払いをした。
そして、足音が遠のいてから壁に掛けてある大きな絵を二回ノックする。
すると絵がグルンと反転し、中から人が出てきた。
「終わったようだね、お疲れ様。」
「あぁ、ありがとう。我儘を聞いてくれて。」
そこにはキラキラと輝くプラチナの髪をしゃらりと揺らし、金の瞳を優しく細めニコニコと笑うレイが居た。
「本当に君には驚かされてばかりだよ。本当に侍女にしてやるだなんて。」
「ははっ。彼女は可愛いからね、目の保養だ。」
「え、もしかして最大のライバルなのかな。」
「何を言っている。」
「冗談だよ、可愛い顔に皺が寄っちゃう。」
彼は私の眉間の皺を人差し指で伸ばすと、クスクスと笑って頭を撫でた。
私の事を可愛いと言うのも、私の頭を撫でるのもレイ位しか居ない。
「…結婚とは、良いものだな…。」
「えっ、今何て??」
正確にはまだ結婚はしていないのだが、いつの間にかボソリと呟いてしまっていたらしい。
聞き返されると恥ずかしくてそっぽを向いて、意味も無く逃げる様に歩き出してしまった。
「な、何も無い。」
「嘘だー!もう一回言ってよー!あぁ、早く結婚したい!!」
「聞こえてるじゃないか!」
「あ、待ってよ~僕のお嫁さーーん!」
「待たない!!」
まだ恋だの愛だのは私には分からないけれど、こういうのは何だか良いなと思った事はまだ内緒なのである。
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