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「……め、めら、いーぶす、さ………」

「気を強く持て、負けるな。」

 やはり、完全に乗っ取られている訳では無い様だ。
 マリカは、ちゃんとここに居る。
 頬を掴んでいた手を退け語り掛けると、動かなかったが頷いた様に見えた。

「『マリカ!?貴女の為なのよ!』」

 グルンと入れ替わり瞳の色を真っ赤に染め、魅了は叫ぶ。しかし、彼女の涙は増す一方である。

「……も、もぅ、やめ……て」

「『どうして?もうすぐ王子様が手に入るのよ?』」

 クルクルと入れ替わり会話をする光景は何とも不思議だった。
 単純にレイの力が欲しいのかと思っていたが、どうやら魅了はマリカの為に王子様を手に入れようとしているらしい。
 有り難迷惑という言葉を知らないんだな。


「はな……し、を…………話を聞いて!!」


 ぐぐっとマリカは自らの意思で自分の手を心臓へと持っていくと、カッと目を見開いた。
 すると、マリカから強く何かが発散され、それが集まって徐々に形が形成されていった。

「黒い……兎?」

「【収容】!!」

 ふわふわとした黒い兎が見えた瞬間、いつの間にか立ち上がったレイにより研究室に置いてあった鳥籠の様な魔道具の中へと誘われる。
 マリカからそれが離れた事により、魅了の効果が切れたのか不気味にずっと立っていた研究員達も箍が外れたかのようにバタバタと倒れてしまった。

 そして、ガタッとバランスを崩し倒れそうになったレイの肩をサッと抱き留める。

「大丈夫か…?」

「ルルーシュア……、ありがとう……ごめんね、魅了の魔力に当てられ過ぎた…。でも、お陰で捕まえる事が出来たよ。」

 見せてくれた鳥籠の中には黒い兎が横たわっていた。

「ラビ!」

 魅了は【ラビ】という名前らしい。すると、そう言って走り寄ってくる彼女を見てギョッとしてしまう。
 彼女の顔や、姿はそのままな筈なのに衝撃的な可愛さという物が失われている気がした。存在自体がボヤっとしてしまったというか、印象が薄くなった様な感じだ。
 目を擦ってみたが、私の目のせいでは無いようだ。

「あ、私……元々はこの様な感じなのです。殿下、少しラビと話をしても宜しいですか?」

 彼女は少しだけ恥ずかしそうに笑う。その笑顔もやはり、少しだけボヤっとしていた。
 レイに了解を得て鳥籠に触れる。

 「ごめんね、ラビ。ごめんね。」

 そう言って彼女は鳥籠を抱き締めた。
 そして、倒れたままのラビにぽつりぽつりと何かを話す。

 その間、レイは私に礼を言うと息を整えて外に出て、いつの間にか集められていた魔法師団に的確に指示を出す。
 倒れていた研究員達も次々と運ばれていった。

「マリカ=ディボル、話は終わったか?魔法師団で身柄を拘束させて貰う。今回は、事が事だ。覚悟していて貰おう。」

「はい、ありがとうございます。仰せのままに。」

 マリカは大人しく魔法師団に魔法に寄って拘束され部屋を出る。
 私はマリカの背を最後まで見送る。
 先程まで騒然としていた部屋がしんと静まり、私とレイが残った。

 「ルルーシュア、」

 名を呼ばれたので振り向くと、ガバリと抱き締められる。

「…!?レイ?」

「寿命が縮んだ…。やっぱりまだ顔を合わせてはいけなかった…、早とちりして会ってしまったせいだ。本当にごめん…。」

 抱き締められているのでどのような表情をしているかは分からないが、彼の声は震えていて弱々しい。

「いや…、捕まってしまったのは私が油断したからだ。だけど、未だに何故こうなったか良く分かっていない。訳を教えてはくれないか?」

「うん、順を追って話すよ…。」

 彼は抱きしめていた腕を緩める。そして、まだ青白い顔で薄らと微笑んだ。
 そして、エスコートされるがままソファに横並びに座るとすこし言い辛そうに言葉を紡いでくれた。

「まず、信じられないかもしれないけれど…僕は未来を予知する事が出来る。日常を生きる中でいきなり脳に走馬灯の様に映るんだ。」

「それは、凄い。」

 私は素直に驚いた。そんな話は聞いた事が無いからだ。
 だが、王家で魔力量も桁違いなレイなら有り得る話だなと思った。

「これが、中々厄介でね。断片的過ぎて良く分からない事が多い。音が無いので言葉は想像するしか無い。
身体が弱かったと話したでしょ?
まだ僕と君が遊んでいた頃、君に会う為に珍しい手土産を買おうと供を連れて市井に行った事があってね、その時偶然マリカと出会った。
走って来た彼女とぶつかっただけだったんだけど、僕は消滅しかかっていた所を彼女の中に入り魔力を食らい生き長らえていた魅了の事を微かに感じ取ってしまった。
すると未来予知がそれ迄感じた事が無い程溢れて来て、まだ幼い僕はその波に耐え切れずに倒れてしまったんだ。そこから三日三晩、未来予知を見続けた。」

「三日三晩も…。」

「今まで断片的にしか見えなかった未来が、まるで物語を見ているかのようにとても長い時間僕に押し寄せた。
その内容は余りにも衝撃的で、残酷だった。
それは、僕の未来。

そう……学園の卒業式にマリカ=ディボルと共に君を言われも無き罪で断罪し、処刑台に送るという未来を…。」

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