上 下
8 / 17

8

しおりを挟む

「ルルーシュア…、ごめんね。絶対助けるから。」

 目を開けるとマリカ=ディボルが私に妖艶に微笑み、レイが拳を握り締め此方を見ていた。壁際に研究員達が虚ろな目をして立って居る。
 
 とりあえずレイには頷きで返す。
 今ここで騒ぎ立てたり、怖がったりすると状況は荒れる。冷静に判断をする為、辺りを見える範囲で観察をする。

「『ちょっと、ちょっと。感動の再会している場合?貴方は私の物になるの。それを彼女には見届けて貰う事にしたのよ~。いい案だと思わない?』」

 マリカからは何故か二重に声が聞こえ、一瞬で別の”何か”が話しているんだと分かった。
 なんだ、お前。マリカ=ディボルの中に入れるとか羨ましいな。
 意識がはっきりしてくると共に彼女が言っている意味が全く分からず首を傾げる。
 ただ、私は捕まり手足を縛られて動けない状況で囮にされ危機的で有るという事は確かである。

「なんだと?……ふぐ…ぅっ!」

「…殿下!」

 私がいる為に動けなかったのだろう、レイに強烈な魔力の波が襲い、彼は片膝を着いてしまう。

「『ふふふ、私知ってるのよ。ちょっと精神力が強いだけで、貴方は私には勝てない事。早く此方へいらっしゃいな?』」

 ガタガタと震える脚は彼女の言う事を聞き立ち上がろうとしていたが、彼はそれを自ら進まないように押さえ付け床に縫い止めてる。

「…くっ…………る、ルルーシュア、奴は【魅了チャーム】精霊界を追放され、魔導においても禁忌とされる者だ………」

「なんだって…?」

「『あら。そんな風に呼ばれてたわねぇ、私』」

 魅了チャームと云えば遥か昔の王妃が持っていた様々な異性を虜にし、傀儡とすることが出来る強力な魔法。その余りの強制力を恐れた当時の国王が禁忌とし、その魔法陣は秘密裏に厳重に保管されていると聞いた事が有る。

 彼はその強力な魔法の源で有る元精霊に術を掛けられて尚、抗っている様だ。

「僕が愛するのは後にも先にもルルーシュアだけだっ……、もし、お前に愛を囁くとすればそれは偽り、嘘で出来上がった虚しい関係でしかない。」

 この後に及んで殿下は物凄いことを言っている。
 何故そんなに好かれているのか全然分からないが、そこまではっきりと言われると流石にドキリと胸が高鳴る。

 私の高鳴りとは裏腹に彼女の顔はぐにゃりと歪む。

「『うるさいっ!早く堕ちてしまえ!』」

 そう言いながら彼女は手を前に出し、更に魔力を上げるとレイは苦しそうに唸った。
 ダラダラと冷や汗を流し堪えている。

 ずっと違和感があった。

 不確かだが、そろそろこの状況に私自身イライラとしていた。

「ねぇ、貴方達。私の意見は聞いてはくれないのか。」


パキッ、キキキ、キンッーーーーーー


「『なにっ!?』」


 パラパラと氷の粒が舞う。
 先程座って居た椅子も、縄も、全てが氷と化し散り散りに砕けちる。

「ルルーシュア……ダメだ……っ」

 殿下が苦しそうに私の前に出ようとするので、私はヒヤリと其方を向いた。

「……殿下、少々お待ち下さいませ。話をするだけですので。」

 レイはまだ何か言おうとしたが、奴の魔法を止めるのが先だと考えて無視した。
 私は怒っているのだ。
 囚われてしまったのは自身のせいだが、よく分からん状況のまま、よく分からん話を続けられ、舞台の真ん中にいるのに私だけ蚊帳の外。

 何だかレイと会えなかったのも此奴のせいな気がする。
 そう思うと無性にむしゃくしゃした。

 私はズンズンとマリカの方へと歩いて行く。
 そして、丁度相手の手の届かない所で止まった。

「……お前、そこから動けないんだろう?」

 ニヤリと笑うと、彼女は肩をビクリと揺らした。
 彼女はずっとベッドから動かないで居た。執拗にレイを自分の元へと来させようとしていたのだ。
 それに周囲に居る研究員達を使い、その力で動かせば早かったのではないか。私を捕らえた時の様に。
 だが、もし力が弱まっているせいで出来ないのだとしたら。

「まだ完全では無いのではないか?お前を無害化する一歩手前までいったようだから、彼女の身体を動かす事もしんどいのでは?
彼女を利用し、王太子に近付くのはその力が欲しいからでは無いのか?
そして、その力は異性にのみ発動するもの。私には効かないのだろう?」

 つらつらと考えていた事を口にすると、彼女の顔は真っ赤になり怒りに震えだした。

「『そ、そんな事ないわ!』」

 彼女が逆上し立ち上がろうと手を付いた瞬間、私は彼女の手足を凍らせ縫い止める。

「『あ…、うぐっ!』」

 そして動けない彼女の頬を片手で勢いよく掴んだ。彼女はとても変な顔だ。まるでタコ。

「マリカ=ディボル!!奴に身体を乗っ取られたままでどうする!いい加減出て来て説教しても良い頃だぞ!」

 勢いのまま叫ぶと、彼女は一瞬キョトンとすると更に眉間に皺を寄せる。

「『無駄よ、彼女は出てこられないわ』」

「ほぅ。でも聞こえているじゃないか。」

「『え?』」

 私は不敵ににやりと笑う。
ポロポロと伝うその雫はお前の物じゃ無いのだろう?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になる前に、王子と婚約解消するはずが!

餡子
恋愛
恋愛小説の世界に悪役令嬢として転生してしまい、ヒーローである第五王子の婚約者になってしまった。 なんとかして円満に婚約解消するはずが、解消出来ないまま明日から物語が始まってしまいそう! このままじゃ悪役令嬢まっしぐら!?

自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。 誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。 でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。 このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。 そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語 執筆済みで完結確約です。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~

バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。 幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。 「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」 その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。 そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。 これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。 全14話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

もう悪役令嬢じゃないんで、婚約破棄してください!

ふゆ
恋愛
 目が覚めたら、冷酷無情の悪役令嬢だった。    しかも舞台は、主人公が異世界から来た少女って設定の乙女ゲーム。彼女は、この国の王太子殿下と結ばれてハッピーエンドになるはず。  て、ことは。  このままじゃ……現在婚約者のアタシは、破棄されて国外追放になる、ということ。  普通なら焦るし、困るだろう。  けど、アタシには願ったり叶ったりだった。  だって、そもそも……好きな人は、王太子殿下じゃないもの。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

お金のために氷の貴公子と婚約したけど、彼の幼なじみがマウントとってきます

恋愛
キャロライナはウシュハル伯爵家の長女。 お人好しな両親は領地管理を任せていた家令にお金を持ち逃げされ、うまい投資話に乗って伯爵家は莫大な損失を出した。 お金に困っているときにその縁談は舞い込んできた。 ローザンナ侯爵家の長男と結婚すれば損失の補填をしてくれるの言うのだ。もちろん、一も二もなくその縁談に飛び付いた。 相手は夜会で見かけたこともある、女性のように線が細いけれど、年頃の貴族令息の中では断トツで見目麗しいアルフォンソ様。 けれど、アルフォンソ様は社交界では氷の貴公子と呼ばれているぐらい無愛想で有名。 おまけに、私とアルフォンソ様の婚約が気に入らないのか、幼馴染のマウントトール伯爵令嬢が何だか上から目線で私に話し掛けてくる。 この婚約どうなる? ※ゆるゆる設定 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでご注意ください

処理中です...