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しおりを挟む「え、エル様……?その……、近く無いですか?」
「いいや?」
やはりニコニコとはぐらかされてしまう。
このやり取りも何回目だろう。
怪我をしている私に手当てをして甲斐甲斐しく世話をすると、ベッドの上まで運び、ピタリと隣合って座った。
まだべそをかいていた私を安心させる為だろう、しっかりと手を握って。
落ち着いてくると段々と恥ずかしくなって何度か近いのではないかと申告したのだが、聞き入って貰えず右側だけがやけに温かい。
そして、話し合うという事が圧倒的に足りていなかった私達は日が暮れるまで沢山お喋りをした。
その間に何度か体調を確認したされたが、少し怪我をしただけで身体はピンピンしているのだ。
エル様は周りが助けてくれる為に仕事が割り振れるようになった事、ペンを殿下が気に入ってくれて大量生産をしたいと言ってくれている事、どうして早く帰れたかという事、そしてアリシアの今後についてを順番に話してくれる。
「では、アリシア様はご生家にお帰りになられるんですね」
「あぁ。公爵が中々首を立てに振らずだったのだが、うちに色々有って居座っている事と妊娠の事を告げたら手のひらを返すように即座に動いてくれたよ。
まさか、まだ此方に居るとは思っていなかった様だ。
後日謝罪があるだろう。本当に色々伝えるのが遅くなって申し訳ない」
「いいえ、相手は公爵家。しかも醜聞ともなれば慎重に事をお運びになられたのでしょう…。お疲れ様でした」
「ありがとう。体調の良さそうな日にと思っていたが、ロレッタに危害を加えたなら別だ。公爵家に連絡を入れて丁重に送り付けるとするさ。そんなに遠くも無いし、あちらの医療班が何とかするはずだ」
アリシアにとっても、ここでは精神が休まらないだろう。生家に戻り、悔い改めて貰い、心静かに過ごして欲しい。
お腹の子は何も悪くないのだから。
「公爵は厳格な方だ。それ相応の処罰を与えるだろう。
だが、どうする?ロレッタ。君を傷付けた彼女には此方も処罰を与えることが出来る。どうしたい?」
エル様は真っ直ぐ、真剣な眼差しで私を見詰めた。
私がどんな答えを出しても、今なら彼は全部頷いてくれるだろう。
そう、感じさせられた。
「…では、アンバート家への立ち入りの禁止を。
そして、エル様への心からの謝罪を要求します。書簡は今後一切、その一通のみで結構です。
心からの謝罪が出来無い場合はそれも必要では有りませんので、その様に」
つらつらと思っていた事を述べると、エル様は少し苦い顔で笑った。
「君は優しいな……。俺は謝罪なんて要らないが、ロレッタにした事に関しては謝罪して然るべきだと思っている…。
きっとロレッタもそう思っているんだろう?」
困った様に頭を撫でられると、やはり距離の近さが鮮明に分かり顔が赤くなってしまう。
こくりと頷くとエル様はにこりと微笑み返してくれる。
家族には甘い人だというのは何となく分かって居たが、家族とは違う甘さにドギマギしてしまう。
「ロレッタの望み通りに」
そう言ってギュッと抱き寄せられると、瞼の上にキスを落とされる。
先程は泣いていてそれ所では無かったのだが、あれはやはりそうだったのか、とボンッと更に身体全体を沸騰させてしまう。
「え、え、ええ、ええ!エル様!!!おたっ、お、お戯れが過ぎますっ」
そう言ってグイグイと身体を引き剥がそうと試みたが、鍛えている彼の力に抗える事など出来るはずもなく足を突っ張らせた猫の様だなと自分で思った。
まさかの溺愛ぶりに私がついて行けない。
そんな私を余所に、彼はクツクツと笑っている。
そういえば、彼のこんな顔を見るのも久しぶりかもしれない。
甘い雰囲気は置いといて、やっと日常が戻った気がして少し嬉しかった。
「エル様、これからもきっとこういう事が有ると思うんです。でも、悩む前にこうしてお話する時間を取りましょうね」
「そうだな、君にだけは嫌われたくない」
「え、えっと、そういう話では無くっ」
話を変えても、どうやっても甘い雰囲気になってしまう。
私の髪をくるくると指に巻いて、にこにこと笑う彼は誰よりも魅力的だが、ご尊顔が近過ぎてそろそろ噴火してしまいそうだ。
「……この先爆発せずにいられるのかしら」
瞼に触れながらボソリと呟くと、顎をくいと上げられた。
「…ーーー!」
一瞬の出来事だったが、何が起きたか分からず口元を両手で抑え、声にならない声を上げる。
「慣れてくれないと困るな、奥さん」
彼は少し頬を赤らめて、私の頬をゆるりと撫でる。
最上級のキラキラオーラを間近で浴びてしまい、許容範囲を大幅に超え、意識が遠のいた。
微かにエル様の笑い声が聞こえた気がした。
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はまってしまいました。面白いし、ちょっと、うるうるもありで、展開が、きになってしかたない。完結まで、ぜひ、頑張って欲しいです。応援してます。
感想ありがとうございます☺️
しっかり完結まで書き上げたいと思っておりますのでお付き合い頂けますと幸いです🙇♀️🌟。:*
一気読みしてしまいました!ほのぼのしていて大好きです!是非、続きをお待ちしています。
感想ありがとうございます✨
こちらもある程度ストックが出来次第投稿します☺️🙏
次回投稿まで暫くお待ち下さいませ🙇♀️
時間が出来たらぜひ続きを
楽しみに待っています
感想お返事遅れてすみません💦🙏
ありがとうございます、続きをお楽しみ頂けていれば幸いです☺️